ワイヤレスジャパンのビジネスコンファレンス「放送・通信フォーラム/ケータイ向け放送サービス」において、NTTドコモやモバイルメディア企画、メディアフロージャパン企画の3社がモバイル向けマルチメディア放送についての講演を行った。
■ ISDB-Tmmでの事業を企画するNTTドコモ
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NTTドコモの石川氏
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NTTドコモのフロンティアサービス部 新事業アライアンス担当部長の石川 昌行氏は「ISDB-Tmmによるモバイルマルチメディア放送の開く世界」と題した講演を行った。
まず石川氏はケータイの進化のイメージ図を示し、「最初は電話として成長した。次にITインフラとなった。そしていまは生活インフラになった。その生活インフラの中に、ケータイ向けの放送もある」と説明し、さらに「このようにケータイの進化のスピード感は速い。かたや放送は50年とかの歴史のあるもの。ケータイと放送とでは進化のスピード感にミスマッチが起こる。そのミスマッチも克服して行かなくてはいけない」との見解を示す。
続いて放送とドコモの関わりの歴史について、1999年にBS放送のSTBにDoPaを使うという試みがなされたことに始まり、2001年からのワンセグ検証、さらに2004年からサーバー型サービス「OnQ」の検証などを経て、2006年にワンセグの本放送が開始されたことを紹介する。ワンセグの開始については、「2004年頃を予定していたが、映像コーデックが問題となって2年ほど遅れた」とのエピソードを紹介し、「しかしいまになって思うと、開始を遅らせてH.264を採用して良かった。こうした早い技術進化スピードを見越していかないと、ケータイと放送はうまく補完関係を築けず、安定的に成長できない」と語った。
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ケータイの進化イメージ
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放送とドコモの関わり
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OnQ
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サービスのイメージ
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石川氏は、同社が検証を行ったサーバー型サービスのコンセプト「OnQ」について、「OnQは読むテレビという感覚。コンテンツは放送波経由でケータイにどんどん蓄積されていく。番組には文字情報がメタデータという形で含まれていて、1時間の番組も15分くらいで内容を把握したり、ユーザーがレコメンドした部分を視聴する、といったさまざまな視聴スタイルが想定されている。動画番組だけでなく、小説とかそういったコンテンツもありなのでは」と紹介する。
続いてドコモが現在取り組んでいるマルチメディア放送サービスに話題を移す。サービスのイメージとしては、「手のひらにいつでも欲しい情報が届いている」と表現する。一方で「リアルタイムの放送がなくなってもダメ。欲しいものだけでなく、アンノウンファクターも必要」とも語る。さらに「放送波だけに頼るのではなく、われわれは通信事業者なので、通信で補完したり、VoDもありうる。家の中ではブロードバンドやフェムトセルと組み合わせたりとか、場所や通信経路を意識せずに使えるサービスになるのではないか」とも説明した。
具体的な取り組みとしては、「ISDB-Tmm方式を考えていて、企画会社を作ったところ」と紹介し、ISDB-Tmmについて説明する。ISDB-TmmはワンセグのISDB-Tを拡張した伝送方式。通常のワンセグは、地デジの1チャンネルに割り当てられた6MHz幅を13セグメントに分割したうちの1セグメントのみを用いるが、ISDB-Tmmでは6MHz幅すべてをモバイル向けに割り当てる。そこで放送されるものも、映像ストリーミングに限らず蓄積型や映像以外のコンテンツも可能で、さらに映像の解像度についても、「昔はQCIFで十分と言われていたが、いまのワンセグはQVGAでも画質が厳しいと言われるようになった。だから規格で制約をかけるのは得策ではない。ことによればハイビジョンの配信もありうる」とも語った。
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モバイルマルチメディア放送サービス
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ISDB-Tmmの仕様
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■ ソフトバンクはMediaFLOで企画中
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モバイルマルチメディア企画の矢吹氏
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モバイルマルチメディア企画の紹介
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モバイルマルチメディア企画の代表取締役社長の矢吹 雅彦氏は、「携帯マルチメディア放送の展望」と題した講演を行った。
まず最初に矢吹氏は同社の概要を説明する。モバイルマルチメディア企画は、「ソフトバンクグループにおけるケータイ向け放送サービスの導入を牽引」することを目的に設立された企業。2008年にはユビキタス特区制度で、2011年の事業開始を見据えたMediaFLOによる実証実験を行うことを紹介しつつ、「当社というとMediaFLOのイメージが強いが、MediaFLOにこだわっているわけではない。ビット単価の良い技術を模索している中で、いまのところはMediaFLOが良い、と考えているところ」と語る。
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世界のモバイルテレビサービス状況
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ケータイとの連携で新たなサービスが生まれる
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続いて世界のモバイルテレビの状況を紹介する。世界地図に採用方式別の色を塗った図を示し、「黄色いところがDVB-Hで非常に大きな勢力。アメリカがMediaFLOであとは日本のISDB-Tと韓国のT-DMBがある。海外では端末ベンダー、とくにノキアが強く、オペレーター(事業者)は端末に載っている技術、つまりDVB-Hを採用する」と解説する。
さらにケータイと放送それぞれの20年の変遷を振り返りつつ、ケータイと放送の融合により「個人が持つ多機能デバイスのケータイに放送が融合することで、新たなサービスが生まれる。ケータイにはパーソナルな情報も揃っている。蓄積配信や多チャンネルなど、新しいビジネスも展開できる。単機能デバイスでは購入の障壁になりやすいが、ケータイに載せるのが一番良い」とし、ケータイと放送の相性の良さを強調する。さらに「通信は非常に速いスピードで進化する。マルチメディア放送もそのスピード感でサービス展開できないと苦しいのではないか。また、技術のオープン化も必要だし、世界を見据えた展開も必要」とも語る。
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ケータイのスピード感
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ユーザー本意のサービス
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広告代理店からみたモバイルマルチメディア放送
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ビジネス面としては、まず広告代理店から見たモバイルマルチメディア放送について、「従来のテレビは、一家に一台で、自宅利用が中心だった。世帯単位で個人の特定もできなかった。ケータイの放送ならば、一人一台、いつでも持ち歩き、個人特定も可能。より広告機会を広げたり、細かいマーケティングも可能になる。収益の維持・拡大もできると思う」と語る。
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放送局から見たモバイルマルチメディア放送
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放送局にとってのモバイルマルチメディア放送については、「放送の強みとネットの強みは、コンテンツの流通速度やマスターゲットなど、ある意味で真逆な面がある。しかしこれはよく考えてみると、お互いに補完できる関係でもある」という。
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携帯電話キャリアから見たモバイルマルチメディア放送
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携帯電話事業者にとってのモバイルマルチメディア放送については、「課金プラットフォームや販売網、端末開発体制、基地局などの既存リソースを使える。また、ユーザーにしてみると、放送だろうと通信だろうと、見たいものが見られれば良い。重要なのは、コンテンツを配信するに当たってコストが安い方法を使うこと」と語る。
実際のサービスイメージについては、「期待されるサービス」として、まず「リアルタイム放送の良さはある。その場所でしか得られない放送、とかもある」とのこと。
蓄積型の放送については、「ちょっと空いている時間があっても、面白い番組が放送されていなければ意味がない。見たいときに見たい番組を見られないといけない。そういった考え方のビジネスモデルが必要」と語った。
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リアルタイム放送のメリット
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蓄積型放送のメリット
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市場活性化のための水平分離ビジネスモデル例
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メディアサービスからライフスタイルへ
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さらにコンテンツのビジネスモデルの例としては、「いろいろな方が乗っかれるエコシステムができないといけない。いままでの放送は参入が難しかった。しかし今後はもっと簡単に参入できるシステムがあっても良い。たとえば蓄積型のクリップ配信の枠を売るとか、3分とか細かい単位で売り買いできても良いのでは」とのイメージを明らかにした。
最後に「ソフトバンクはライフスタイルを作りたい。いろいろなシーンでケータイを使ってもらえる世界を作りたい。メディアは重要な要素。ユーザーニーズを考えて作り込みたい」として講演を締めくくった。
■ メディアフロージャパンの増田氏は競争の重要性を訴える
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メディアフロージャパン企画の増田氏
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懇談会の提出した3つの枠組み
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メディアフロージャパン企画の代表取締役社長の増田 和彦氏は「MediaFLOによるマルチメディア放送サービスについて」と題した講演を行なった。メディアフロージャパン企画はKDDIが中心となり設立されたモバイル向けマルチメディア放送の企画会社。
まず増田氏は、マルチメディア放送サービスについて行われた「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」が出した報告書により、「デジタル新型コミュニティ放送」と「地方ブロック向けデジタルラジオ放送」、「全国向けマルチメディア放送」の3つの枠組みが作られたことを紹介し、「メディアフロージャパン企画は全国向けのマルチメディア放送を指向しているところ」と語る。
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制度化の理念
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国際競争力の強化
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同氏は、報告書にマルチメディア放送の理念として、「国際競争力の強化」と「産業の振興」、「コンテンツ市場の振興」、「通信・放送融合型サービスの実現」、「新たな文化の創造」、「携帯端末向け放送サービスの先導的役割」の6項目が掲げられたことも紹介する。
「国際競争力の強化」について増田氏は「いまの日本の立場を考えると重要なポイント」と説明する。国際競争力強化については増田氏は、「日本の技術やビジネスモデルが海外に進出」と「日本のメーカーが海外の技術やビジネスモデルに対応し、海外に進出する」の2つのラインがあると語る。その上で、「MediaFLOはグローバルな技術。日本のメーカーがこれに対応すると言うことは、活躍の場所が世界に広がることにつながる。一方で日本の放送はISDB-Tという独自技術で、それをブラジルなどに広めている。どちらが間違いというわけではないが、われわれとしてはグローバルな技術に対応したい」との方針を明らかにした。
「産業の振興」と「コンテンツ市場の振興」については、「新たなサービスが端末市場を活発化し、デバイスやソフトウェアへの一次二次的な波及効果を期待できる。コンテンツ市場も、いままでの放送やダウンロードでは不可能だったビジネスが可能になる。プッシュ配信は現在でも可能だが、即時性はテレビの方が格段に上」とする。
「通信・放送融合型サービスの実現」については、「日本ではワンセグで実現しているというが、本当だろうか。BMLを利用して通信にアクセスしているという意味ではその通りだ。しかし、ワンセグは放送事業者のコンテンツを流すことが前提になっている。放送事業者以外にはほとんどメリットがない。マルチメディア放送サービスでは、非放送業者のコンテンツが多数流通することが前提となる。ワンセグではできないサービスに裾野が広がることを期待したい」と語る。
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産業の振興とコンテンツ市場の振興
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通信・放送融合型サービスの実現
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今後のスケジュール
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具体的なスケジュールとしては、「今年中に技術検討を行ない、2009年から2010年にかけて諮問・答申を行い、最終的にはARIBで規格を策定する。2011年の地上波アナログ放送の終了後にサービス開始を目指す」と説明する。
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放送と通信、マルチメディア放送技術の比較
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マルチメディア放送でのコンテンツの流れ
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さらに増田氏は、技術面において、放送と通信、そしてマルチメディア放送を比較し、「マルチメディア放送、というと、放送技術を思い浮かべるかもしれない。しかし受信端末はケータイがメインなので、それにあわせてサービスやネットワークを構築しなければいけない」と述べた。
テレビ放送の技術について、「固定環境での受信が前提。つまり地上10mに東京タワーに向いたアンテナを設置する必要がある、というのが放送のネットワーク。視聴者が見たい番組の時間とチャンネルに合わせる、というのも、移動通信におけるコンテンツの接触方法と異なる」と説明し、「マルチメディア放送サービスは、移動受信を前提としたネットワークを構築する。伝送路として放送技術を使ったマルチメディアコンテンツ配信インフラとなる。いわゆる放送的なコンテンツだけでなく、ファイルダウンロードにも対応できる」とし、マルチメディア放送とテレビ放送との違いを語る。
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4つに分類されるコンテンツ
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マルチメディア放送で扱われるコンテンツについては、4つの領域に分類する。その上で、「テレビやラジオと同じ視聴・ストリーミング型コンテンツもある。それに加え、リアルタイム性を排除した蓄積型のタイムシフト映像もある。電子書籍やコミックなどの蓄積型配信もする。さらにストリーミングでリアルタイムだけど、視聴型ではないニュース情報などもIPデータキャスティングで配信できる」と、さまざまなコンテンツを扱えることをアピールする。
蓄積型のクリップキャスト配信については、「DRMコントロールより配信されたコンテンツを再生できる時間帯を限定したりできる。スポーツ情報など、古いものを提供したくないコンテンツに使える」との可能性も語る。
ストリーミング型の配信については、「株価情報やニュースなど、ある事象が起こった時点からどのくらいあとに接触するかで、情報の価値が変わることがある。その価値を最大化するには、通信では限界がある。ここにマルチメディア放送を応用すれば、価値の高い情報を配信できる。また、カーナビの地図アップデートなどにも応用できる」と説明する。
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クリップキャストの可能性
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IPデータキャスティング(ストリーミング)の可能性
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携帯電話ユーザーをターゲットに据える
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携帯電話ユーザーのニーズに合致するためには
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増田氏は放送エリアの問題については、「我々としては、ケータイユーザーというのが重要。どのような番組を提供するか、ではなく、ケータイユーザーにどう使ってもらうか、という視点が重要。だとすると、コンテンツやエリアはケータイユーザーのニーズに合致する必要がある。コンテンツの充実はまず必要だが、エリアも面的な広さと屋内における品質の2点が必要になる。VHF帯でOFDM-SFNネットワークを構築するのは世界初なので、ユビキタス特区でのフィールドトライアルで最適なネットワークを検証する」と述べた。
さらに同氏は競争環境についても言及する。「通信の世界では、技術方式として3GPP2と3GPPが競争し、3GPP2が常に先行してきた。異なる方式で競争があり、ユーザーベネフィットを生んだ。エリアや通信速度、料金の競争も複数の携帯電話事業者がいることがユーザーメリットを生み出した。ソフト面でも、iモードやEZwebなどで競争があった。これらはガラパゴスなどといわれる領域だが、ユーザーベネフィットにはなっている」と通信業界の例を挙げて説明する。さらに「放送分野において競争は視聴率だけだった。通信業界のように、競争は利用者利便性の向上に寄与し、業界規模を大きくする。複数の技術方式と事業者が参入し、活性化させるのが、あるべき姿」との意見を語った。
■ URL
NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
ソフトバンク
http://www.softbank.co.jp/
KDDI
http://www.kddi.com/
WIRELESS JAPAN 2008
http://www8.ric.co.jp/expo/wj/
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(白根 雅彦)
2008/07/25 11:27
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