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【WIRELESS JAPAN 2007】
クアルコム山田社長、MediaFLOに通信・放送の認識はない

クアルコムジャパン 代表取締役社長の山田純氏
 ワイヤレス コンファレンス2007において、クアルコムジャパンの代表取締役社長、山田純氏は、「モバイルブロードバンドを見据えたクアルコムの事業戦略」について講演。クアルコムのビジネスモデル、モバイルブロードバンドのロードマップ、モバイル向け放送サービスMediaFLO、半導体戦略、UMBによる次世代ワイヤレス戦略などについて説明した。

 まず山田氏は、クアルコムのビジネスモデルについて解説。技術開発を事業のベースとし、自らは最終製品を提供しないイネーブラーであることを訴えた。

 「クアルコムは、22年前に設立したが、現在の事業形態となったのは、2000年頃に、CDMAが実用化されてからのこと。かつては、携帯電話を製造し、それを販売するビジネスを行なっていた。また、基地局を自ら開発し、設置するビジネスも展開してきた。社歴の若い会社が、機器製造ビジネスをやるには無理がある。機器製造部門を売却して、技術開発と半導体化するビジネスに絞り込んだ。CDMAは、十数年前に開発された技術であり、クアルコムは、特許ライセンスのフロー所得で生きているのではないかという指摘もあるが、決してそうではない。クアルコムは、引き続き、新しいテクノロジーをイノベーションして、特許料で得た利益を社会に還元している」とした。


研究開発費の推移
 同氏は、その一例として、2006年度実績で1,800億円を超える研究開発投資を行なったこと、売上高に対する研究開発費比率は20.4%に達することを示し、「多額の研究開発投資によって、次世代のモバイル技術開発を先導していく。米国では成立済みの特許が2,000件、申請中の特許が6,000件。全世界では成立済み9,000件、申請中28,000件となっている。問題は、このなかに、未来のエッセンシャルの技術を含んでいるかどうかだ。将来、必要とされる通信技術の根幹を担うことができなくては、当社の存在意義がなくなる。開発した技術を早く、かつ正しく陳腐化できるかに、フォーカスをおいている」として、最新技術の市場導入を優先している姿勢を示した。

 また、クアルコムならではのユニークなビジネスモデルとして、機器単価に対して一定のロイヤリティを支払えば、特許の数が増えても変わらないという仕組みを採用していることを紹介。「新たな特許が増えても、そのままの状態で使ってもらえる。ここに当社のバリューを見てほしい」とした。


すべての領域において、抜けがないように開発していく

無線技術のロードマップ
 山田氏は続けて、「無線通信と一口にいっても、多種多様な環境が求められるようになってきた。それぞれの環境に応じて、どのようなテクノロジーが合理的であるかは、ひとことでは語れない。複数の通信テクノロジーをインテグレーションし、端末やアプリケーションに応じて使い分けていくべきである」と前置きし、「クアルコムでは、CDMAを代表とするワイドエリアにおけるモビリティのある通信方式、ワイドエリアで多くの人を対象に配信するマルチキャスト型通信方式、家庭内やオフィス内で高速に通信可能なローカルエリア技術の3つのカテゴリーに分類しており、これらを組み合わせるものが求められている。すべての領域において、抜けがないように開発していくのが当社のミッションである。ユーザーがネットワークを意識することなく、使えるような端末、インフラを作り上げることに貢献したい」と語った。

 WANなどの広域移動体通信技術については、第3世代携帯電話として普及しているCDMA2000とW-CDMAの技術の進展について触れ、CDMA2000では、EV-DOによるデータ特化型の通信技術が追加され、それにあたり、時分割多重方式(TDM方式)を導入し、下り方向の効率を高めたほか、これを発展させ、現行のRev.Aに加え、Rev.Bへと発展させていくロードマップを示した。また、W-CDMAに関しても、時分割多重方式により、HSDPAやHSUPAといった発展形態を辿っており、さらに、MIMOなどの空間多重伝送を可能にしたHSPA+といった技術開発が進展していることを示した。加えて、FLASH-OFDMから始まる新たな流れを指し、「これはOFDMAをベースにした技術として、UMBへと発展していく」とした。


 2010年以降には、LTE(ロングタームエボリューション)と呼ばれるOFDMAが開発されていることにも触れた。

 「OFDMAの技術開発には7、8年前から積極的に取り組んでおり、さらに、一昨年買収した米フラリオンが持っていたFLASH-OFDMAを統合して、UMB方式へと発展させている。当社は、CDMAでひとつの基盤を作ったが、それを改良発展させるためにTDMを導入したり、ブロードバンドをあげるための伝送効率を高めるためにOFDMAを導入したりというように、決してCDMAに閉じた技術のなかでの開発をしているわけではない」という。

 また、「次世代のモバイル通信は、OFDMAであうろとのコンセンサスが取られつつあるが、クアルコムは、OFDMAですべての問題が解決するとは思っていない。圧倒的な利用効率を達成し、コストパービットを低減できるのかというと必ずしもそうではないと見ているからだ。10MHz以上の帯域を大きく使える状況では、CDMAを束ねていくよりは、OFDMAで一気にプロードバンド化するほうがインプリメンテーションのメリットが大きく、機器コストの低減に貢献できる。周波数利用効率よりも、ものづくりの容易性のベネフィットが大きい。OFDMAに対しては、かなり技術リソースを提供し、2002年から社内の研究所で技術開発をしてきた。FDMA周波数分割方式の寄せ集めなので、同じ周波数ですべてのセルを敷き詰める環境では、強いものとはいえない。そこにどのようなテクニックをこらせば、ODFMAがCDMA同等の効率性を出せるか。それには、たくさんのトリックが必要である。CDMAの時と、同等のチャレンジが必要であり、そのためには、フラリオンの基本技術が必要だと判断し、1年半前に買収を決意した」などとした。


UMBの開発状況
 UMBについては、WIRELESS JAPANの同社ブースで展示を行っているが、今年3月のCTIAでも展示しており、その段階で、数社の機器メーカーの賛同を得て、技術セミナーを開催している。

 「UMBは、すでに受け入れられる土壌が整ってきていると考えている。現在、3GPP2によって標準化が進んでおり、今年4月にはエアーインターフェース仕様が発行され、コアネットワーク側の標準化は今年秋になる予定。UMBの標準化が見えてきたので、チップ開発に着手している。UMBに対応した最初のチップとして、来年第1四半期には端末用のMDM8900をサンプル出荷する。また、基地局用のチップは、来年第2四半期に出荷し、早ければ2009年後半にも商用サービスが開始できるようなスケジュールを想定している。まだ、サービスプロバイダーやメーカーなどの意志表示はないが、日本のマーケットが、最も先行して使うマーケットになると予想している」とした。

 広いエリアに対して同報で送信するマルチキャストテクノロジーについては、「EV-DOのあるタイムスロットに対して、同報型のデータ通信用のタイムスロットとして割り当てる考え方を導入し、EV-DOゴールドマルチキャストとして導入した。au端末でEZチャネルプラスのようなサービスとして実用化されている。さらに、同報配信用のタイムスロットをOFDM化することで、伝送効率を高めるプラチナマルチキャスト方式に取り組んでいる。まだ、全世界で見回しても商用化されている例はないが、検討に値する技術として評価を得ている段階」とのこと。

 また、W-CDMAでもMBMSというマルチキャスト方式が開発され、実用化に向けた検討がキャリアで行なわれていることを示した。


MediaFLO、放送・通信の議論にとらわれることなく見るべき

MediaFLOの概要
 一方、MediaFLOについても言及。「FLOとは、Forward Link Onlyを意味したものであり、下り専用の放送型伝送方式である。これは、セルラーとは一線を画して、別の周波数が割り当てられるということを前提としたもの。広範囲を一斉にカバーするという、より効率を高めた方式である。米国では積極的な商用化を図っているが、当社では、放送か、通信かを意識したことはない。携帯型ネットワークで、たまたまうまく同報型の仕組みを導入できたのが、ゴールド、ブラチナといったマルチキャストであり、携帯電話に同居することを意識せずに、グランドアップが開発したのがFLOである。一方向から、基地局から端末に向けてマチルキャストすることでは一緒。どちらの技術が通信で、どちらが放送かという議論は開発当初には想定していなかった。世界中に技術を紹介したところ、これは通信か、放送かという議論に巻き込まれることになった。日本においては、MediaFLOがテレビ放送ではない別のマルチメディア放送として位置づけられ、周波数割り当ても行われつつある。欧米では、通信か、放送なのかといった議論が続いているが、そのような議論は必要であることは理解するものの、ユーザーの観点から見れば、放送・通信の議論にとらわれることなく、周波数政策や技術政策などを見るべきだと考えている」とした。

 一方、無線LANによるローカルエリアネットワーク分野に関しては、「802.11nによる技術開発にも積極的に取り組んでおり、高効率伝送方式の実現に関して、当社による技術提案もこのなかに採用されていると理解している」という。

 クアルコムは、6MHzの単一周波数を獲得するとともに、これを事業者に卸すというビジネスモデルを展開しているが、山田氏は、この米国におけるMediaFLOの取り組みについて紹介。「MediaFLO USAという会社を設立し、ここでネットワークインフラの構築と、コンテンツアグリゲーションを行なっている。有料番組を携帯電話事業者に卸売りし、それを携帯電話会社が自社ブランドのデータサービスとしてエンドユーザーに提供し、それがMediaFLO USAを通じて、番組供給者に戻るという仕組み。広告を入れることで、情報の低廉化や無料モデルという日本型のモデルも可能だが、ケーブルテレビの普及で多チャンネルの有料サービスを受けるということが一般化している米国では、有料でのモデルを採用した。米ベライゾンでは3月からサービスを開始し、2007年中には、AT&Tからサービス開始される。1位、2位の2社が採用したことでモバイルテレビのデファクトの方式になったと考えている」と米国での展開に自信を見せた。


 さらに、「香港、台湾、マレーシア、オーストラリアといったアジア太平洋地区での活動が活発化している点に注目している。当社では、対応チップセットを開発しており、新しいチップは、MediaFLO以外にも対応を広めたものとなっている。ただし、このチップを使わなければ、MediaFLO対応端末を開発できないわけではない。フローフォーラムなどで標準化されており、当社は技術を無償でライセンスし、他のチップッセットメーカーが受信チップを作っている」とした。

 MediaFLOでは、送られてくるデータを端末のブラウザをはじめとするアプリケーションソフトで閲覧するIP DaraCasting、あらかじめ端末に配信して蓄積させるClipCastingといった特徴があり、これらを用途にあわせて活用していくことになるという。

 また、同氏は、WiMAXへの取り組みに関しては、静観している考えを改めて強調。「モバイルWiMAXについては、提供できるセクタースループット(周波数利用効率)が、現存する第3世代の各種方式や、当社が取り組んでいるUMBに比べて、大きく見劣りする。アンテナ技術を持ち込んだり、たくさんの周波数を使えば性能が出るが、技術開発を生業としている企業からすると、すでにある技術よりも、明らかに高いスループットを出すものにリソースを投入したい。そのため、技術ロードマップには入れておらず、チップセットの開発計画はもっていない。とはいえ、WiMAXもいろいろな技術を追加して、よりよい性能にしていく動きがあることは十分想像される。そういう動きがあれば、参画したい」と語った。

 さらに、IEEE802.20に関しても言及した。「IEEEでは、現在、802.20という広域の技術開発の議論をしている。これが最終段階にきている。私どもが提案する技術をベースにして、最終版の議論に入ろうとしているが、今週、その委員会があり、そこで面白い裁定がなされた。これまでは、参加メンバーが一人一票を持つやり方だが、802.20においては、1企業が一票となった。802.20の技術審議においては、私どもの提案に対して、かなり多くの反対票が投じられ、それを収束させるために一時委員会を中断させるという事態になった。一企業一票の方式が最善の策かどうかは歴史の判断に委ねることになるが、確かなのは、新たな取り組みのトリガーになった点である。進めていることについては自信を持っている。802.20が新たなIEEEの運営方法のなかで、どう決まるのか注目してほしい」と述べた。


最も重視されるべきものとはセクタースループット

「Snapdoragon」の概要
 一方で山田氏は、「ピークデータレートで評価されるマーケティングの打ち出し方には違和感がある」と指摘。「ピークデータは、瞬間風速を表したものにすぎず、意味を持たないものである。最もいい状態で通信できる状態はほとんどないにも関わらず、それが、代表性能のように一人歩きすることは避けたい。しかし、マーケティング戦争にはこの数字を出さなくてはならない状況にあり、当社もそれに荷担しているようにみえる。技術開発を主軸とする当社にとっては、忸怩たるものがある。最も重視されるべきものとはセクタースループットである」とした。

 最後に半導体戦略に触れ、そのなかで、最新の携帯電話向けプロセッサである「SnapDragon」を紹介。「最高動作クロック周波数が1GHzであり、2100MIPSの演算性能を実現。600MHz動作時の消費電力を0.24ワットに抑える。モバイル環境において現時点で想定されるすべての無線方式に対応し、ユーザーは、どの方式をいつ使っているかわからない、という我々のビジョンを表しつつあるチップである」と語った。



URL
  クアルコム ジャパン
  http://www.qualcomm.co.jp/

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(大河原克行)
2007/07/19 21:45

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