ワイヤレスコンファレンス2007の基調講演で、ウィルコムの代表取締役社長の喜久川 政樹氏は、『「ケータイとPC、そしてケータイと固定」融合は新時代へ ~最先端を行くウィルコムとオープン&オンリーワン戦略~』と題して講演を行ない、ウィルコムの戦略と今後の展開について語った。
■ 独自性を生かし、「たくさん使う」マーケットへフォーカス
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ウィルコムの独自性と、そこから実現するマーケット展開
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ウィルコムの戦略として喜久川氏はまず、「ウィルコムは、ケータイと異なる仕組みを使っているから、小さい規模ながら、伸びている。PHS独特のマイクロセルによって実現される、大容量・省電力という特徴を生かしている」と語り、ウィルコムがPHSという技術の独自性を武器にしていることをアピールする。
具体的には、定額制による制約のないコミュニケーション、W-SIMによってさまざまな企業が端末市場に参入できること、オープンなブラウザによってさまざまな人がビジネスに入れる仕組みを取り入れているとし、「これらにより、コンシューマ向けはもちろん、法人向け、医療向け、シニア向けなど、それぞれにプロダクトを提供できている。ほかのキャリアは1社でなんでもやる垂直展開だが、ウィルコムはそれとは異なり、オープンに水平展開している」と語った。
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W-SIM発表時に紹介された想定される商品群。青で囲った製品は、実際に製品として実現している
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他企業とのアライアンスで実現した商品など
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マイクロセルによるネットワーク容量の余裕がウィルコムの特徴となる
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ウィルコムの技術的な独自性について喜久川氏は、「小さな基地局をたくさん設置し、広いエリアをカバーするという、いわゆるマイクロセルにより、ウィルコムではユーザーを分散させ、1人当たりが利用できるデータ量を大きくしている」と説明する。さらに、「これにより、たくさん使ってもリーズナブル、というサービスが提供できる。これがウィルコムの大きなアイデンティティになっている」と語り、ウィルコムがフォーカスしているマーケットについての説明につなげる。
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ウィルコムがフォーカスしているマーケット
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「ウィルコムは、『たくさん使う』マーケットを狙っている。ちょっとしか使わない市場は、ウィルコムの特徴を生かせないので、あまり狙っていない。たくさん使うという中にも2方向あって、スマートフォンなどデータを中心としたアグレッシブ(積極的)なものと、FMCを含めた通話中心のコンサバティブ(保守的)なものがある」と語り、ウィルコムのターゲットとしているマーケットの具体像を示す。さらに「ほかも狙っていないわけではなく、低電磁波を生かせる病院や、高音質を生かせる分野など、ウィルコムの特徴を生かせるならば、ちょっとしか使わないユーザー層も狙っていく」とも語った。
■ スマートフォンと「FPC」への取り組み
喜久川氏は、スマートフォンの展開と「FPC」サービスについて説明する。
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発売間近のAdvanced W-ZERO3[es]
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スマートフォンとしては、最新モデル「Advanced W-ZERO3[es]」を紹介する。「今回のモデルは、ケータイに近いスマートフォン。ケータイとして日本人の手にも違和感のない50mmというサイズに、コンシューマが楽しく使えるような機能を搭載した」と概要を説明する。さらに名刺リーダーなどビジネス向けの機能も紹介する。喜久川氏はAdvanced W-ZERO3[es]が講演の次の日(7月19日)に発売であること、展示会場で展示していることも紹介し、「予約受付をやっているが、1万を超える予約を得ている」と語って、同モデルが好評であることをアピールした。
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FPCサービスについて
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さらにFPC(Fixed-PHS Convergence)と称する、固定網とPHSの融合への取り組みについても説明する。これは普通の公衆PHSネットワークと業務向けの内線PHS、いわゆる自営PHS内線とをシームレスに融合させるという試み。すでにPHS端末をオフィスの内線子機として使うシステムは存在しているが、ウィルコムではさらに、内線電話から公衆PHSネットワークへの通話も定額になるようなシステムを検討しているという。
■ これまでの技術やノウハウを踏まえた次世代PHSへの展開
続いて喜久川氏は、次世代PHSへ向けてのウィルコムの取り組みを紹介する。
現在進行中の進化として、W-OAMのシステムにより、変調方式の高速化と安定化が行なわれることを紹介する。変調方式の変更(64QAM)の導入により、まず最大512kbpsまで通信速度が上がるという。
また、基地局に引き込んでいる回線については、現状ではISDNを利用しているが、これを光ファイバーによるIPネットワークにするという。IPネットワーク化とW-OAMを併せて、通信速度は最大800kbpsにまで向上するという。喜久川氏は「これが次世代PHSにも生かせるネットワーク構築の精神」と語り、バックボーン部分は次世代PHSを見据えて更新していくことを説明した。
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W-OAMにより、高速化と安定化の2つの方向で性能改善が図られる
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無線部分だけでなく、バックボーン部分もIPネットワークに強化される
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ウィルコムが把握したユーザーニーズ
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さらに喜久川氏は「ウィルコムはモバイルのデータ通信ではトップシェア。その実績から、今後発展するワイヤレスブロードバンドにおいて必要なものを3つ考えている」と語る。
1つめとしては、「我々が苦しんだところだが、エリア。データ通信ならエリアが狭くても良い、と最初は考えていたが、これはやはりダメだった。やはり使いたいところ、使わなくてはいけない場所で使えないと、ユーザーに受け入れてもらえない。ウィルコムが基地局を16万局も作った理由は、ユーザーニーズ以外の何者でもない。連続性のあるエリアが必要。広いエリアは1から作れるものではないが、ウィルコムではいままで作ってきたエリアがあるので、それを組み合わせることで、次世代でも広いエリアを実現できる」とし、すでに構築したネットワークエリアがあることの優位性をアピールした。
2つめとしては、「都市部で集中するデータ通信のトラフィックに対応すること。都市部では法人と個人のトラフィックが集中するので、ネットワークをしっかり作らないと満足は得られない」と語り、ウィルコムのマイクロセルならば集中するトラフィックに対応できると説明する。
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ワイヤレスブロードバンドで想定されるデータ転送量
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3つめについては、「料金。速度が速くなったから料金も上がる、というのはありえない。スピードが速くても安い、というのは必須条件。このために、効率的な設備投資を行ない、低廉な料金を実現しないといけない」と語った。
ワイヤレスブロードバンドとして想定するデータ転送量については、「ブロードバンドと言うからには、速度はいまの固定並みでないといけない。転送量も、定額以前では1カ月10MBくらいだったが、PHSで定額にすると、1カ月1GBくらいになった。しかし固定回線だと10GBくらいになる。モバイルでブロードバンドをやるには、このくらいの大容量をさばけるネットワークを作らないといけない」と語った。
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これまでの技術を活用しつつ、新しい技術を積み重ねて次世代PHSを作り上げる
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こうした分析を踏まえ、喜久川氏は次世代PHS、XG-PHSについて説明をする。ちなみにXG-PHSとは、PHSの規格化団体「PHS MOU」で使われている呼称で、「neXt Generation-PHS」を表わしているという。
次世代PHSでは、PHSの基礎技術である小さな基地局の「マイクロセル」、基地局を簡単に設置できる「DCA」、信号を時間で分割する「TDD」といった技術と、さらに現在ウィルコムが導入している、1つの基地局からの電波に指向性を持たせることで隣接局との干渉を防いだり、セルをさらに細かく分割する「スマートアンテナ」や「SDMA」、複数のチャンネルを束ねる「マルチリンク」といった技術をベースとして、あらたに「OFDM」や「MIMO」、「256QAM」といった新しい技術を組み合わせるという。
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携帯電話に比べ、格段に多い基地局を持つマイクロセル
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基地局設置を容易にする技術「DCA」
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1つの周波数を上下通信で共有する「TDD」
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電波に指向性を持たせて周波数を有効利用する「スマートアンテナ」と「SDMA」
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複数チャンネルを束ねる「マルチリンク」
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さまざまな無線技術に採用されつつある「OFDMA」
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「MIMO」と「256QAM」
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無線部分だけでなく、バックボーンネットワークもIP化する
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喜久川氏は「なぜWiMAXではないのか、と問われることがある。我々は従来の設備と共用したり、デュアルモード端末で展開していきたい」とし、従来の技術と互換性を持たせることで、コストを下げ、素早くエリア展開できることも説明した。
次世代PHSのエリア展開については、「W-OAMも都市部から周辺へと広げているが、それと同じように展開したい」と説明する。また、京セラの横浜事業所での実験風景を紹介し、「京セラでも開発が進んでいるし、三洋電機での開発も順調。さらに日本だけではなく、ITUでもワイヤレスブロードバンドの1つとして勧告化されている」と語り、次世代PHSが順調に進展していることをアピールした。
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次世代PHSのエリア展開イメージ
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次世代PHSの実験状況
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最後に喜久川氏は「ウィルコムとしては、たくさん使っても安い、みなさんのライフスタイルを変えられる独自のマーケットポジションで展開していく。次世代PHSでは、誰にもマネできないワイヤレスブロードバンドに向かって進んでいきたい」として講演を締めくくった。
■ URL
ウィルコム
http://www.willcom-inc.com/
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