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KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺 正氏
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通信市場の競争環境
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ワイヤレスコンファレンス2007の基調講演に登場したKDDIの代表取締役社長兼会長、小野寺正氏は、「FMC時代のマーケットリーダーへ! ユビキタス・ソリューション事業の全貌」をテーマに、KDDIが描くFMC(Fixed Mobile Convergence)・FMBC(Fixed Mobile and Broadcast Convergence)時代における通信サービス戦略について語った。
小野寺氏は冒頭、「通信市場の競争環境」という資料を見せながら、「ここにきて、非通信分野からの参入が激しい。また、携帯電話市場における個人の利用拡大には限界があるが、法人、モジュール市場の拡大が見込まれる。今後、通信事業者は、シェア獲得よりも、次の世代に向けてどういう事業展開をしていくかが問題になっていくだろう」と位置づけたほか、「現在、当社売上高の約4分の3が携帯電話事業であり、重要なビジネスであることに変わりはないが、2010年以降は、固定電話事業が高くなると見ている」とした。
同社では、現在、コンシューマ事業統括本部と、ソリューション事業統括本部に分け、顧客ごとの組織体制としており、「コンシューマ向けには、利用者がデバイスを区別することなく、いつでも、どこでも最適な利用環境で実現できるようにするため、FMBCによる展開を進める。一方、企業向けには、コミュニケーションを提供するだけのプロバイダーだけでは限界であり、ICT(Information and Communication Technology)を提供できるオールラウンドプレイヤーを目指すことが必要だ」とした。
■ Google検索の利用拡大、MediaFLOの必要性
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Google導入の効果
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MediaFLOについて
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携帯電話におけるコンシューマ向け事業展開では、LISMOへの取り組みを取り上げ、「iPodやiPhoneの先を行っているサービス。音楽に続き、映像についても展開をしていく。外では携帯電話で音楽や映像を楽しみ、家では、PCで楽しむという環境を実現するとともに、携帯電話のデータをPCにバックアップするといったケータイとPCを連携したサービスを提供している」と、携帯電話とPCを連動することによるLISMOの優位性を強調した。
また、携帯電話におけるインターネット接続利用は、EZwebとPCサイトビューアーの2つに分岐すると予測。PCサイトビューアーはオープンな利用を進め、情報で無料を得られるという使い方を促進。これを携帯電話にも積極的に導入していくとした。その一方で、EZwebでは、音楽などの権利保護が必要であり、料金回収が伴うようなコンテンツのダウンロードビジネスを軸とする考えだ。
同社では、携帯電話の検索サービスとしてGoogleを導入したが、「当初は、Googleへのアクセスの増加により、PCサイトビューアーの利用ばかりが増加するともいわれたが、むしろ、EZwebを検索する件数が増加し、公式サイトへのアクセスの約20%が、Googleから来ている。また、検索連動広告の売り上げが増えている。検索サービスの導入は、無料サイトに誘導するだけでなく、EZwebへの接触度の高まりや、広告の売上増加という効果があった」とした。
さらに、コンシューマ向けには、CGM(Consumer Generated Media)に対して積極的に取り組んでいることを示し、「インターネットの世界は、ダウンリンクのスピードの速さが求められるが、アップリンクは遅くてもいいという傾向があった。しかし、CGMの利用には、アップリンクの速度が重視される。当社ではEVDO Rev.Aにより1.8Mbpsの上り速度を実現したネットワークインフラを整えており、それに対応したサービスをこれからも重視していく」という。
MediaFLOに関しても説明。「なぜ、MediaFLOをやるのか。それは、携帯端末向けに特化した次世代のマルチメディア放送を自ら手がける必要があるからだ。ライフスタイルにあわせた情報を提供していきたい。ワンセグ放送は、放送局が編成権を持つが、MediaFLOでは、運営する会社が編成権を持ち、多チャンネル放送を提供する。これによってFMBCの実現だけでなく、統合サービスを一台の端末で利用できるようになる」とした。
■ 法人向けサービスで求められる3つの要素
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法人向けサービスに求められるワンストップ化
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一方、企業向けには、3つのニーズがあるという。
ひとつは、ワンストップ化をキーワードとしたものだ。「企業ユーザーの声を聞くと、窓口がバラバラのシステム・ネットワークをまとめて提供してほしいという声がある。ワンストップショッピングとして窓口が必要との声だ。2つめには、運用、サポートをワンストップで対応してほしいということ。当社は、WANを提供しているが、LANに関しては、ユーザー自身が自分でやるか、あるいはどこかの企業に頼んでやっている。ユーザーにして見れば、WANが止まろうが、LANが止まろうが、ネットワークに影響するのは同じ。これをワンストップで解決できることのメリットは大きい。そして、最後にワンビリングによる請求の一本化への対応だ」という。
2つめのニーズは、固定とモバイルのシームレス化。「ユーザーにしてみれば、安心、簡単で、デバイスを選ばずに利用でき、自分のニーズに適した形で提供してもらえば、インフラは、固定でもモバイルでもなんでもいい。当社では、フレキシブルアクセスとして、これをウルトラ3Gの上で実現する」と語った。
3つめは、所有から利用料モデルへの広がりだ。企業で利用している携帯電話のアプリケーションは、大手企業が中心ということもあり、買い取りが中心だが、今後、中堅・中小企業へアプリケーション利用が広がるなかでは、利用料モデルが重視されることになると指摘する。
「アプリケーションのバージョンアップの際には、手間や費用、時間がかかる。自動的に最新の環境に更新でき、これを月額料金で提供していくことが必要であり、それをSaaS(Software as a Service)で提供していくことが望ましいと考えている。利用形態もユーティリティ方式や、オンデマンドの仕組みが必要だろう」とした。
SaaSによるアプリケーションの提供は、固定およびモバイルを包含し、WANおよびLAN、セキュリティのほか、ICTの資産管理も行えるようになるという。「すべてのサービスは、KDDIに頼めばできるという形にしたい。コスト削減効果だけでなく、最新のものが利用でき、運用も保守も一体化して行える。WANに加えて、オフィス内のLANも遠隔で運用・保守サービスができる。だが、そのためには企業ユースに最適化した端末が必要である」とした。
これまでは個人向け携帯電話と企業向け携帯電話という差異はなかったが、auでは、すでにE03CAなど、いくつかの企業向け携帯電話を投入。長時間駆動やセキュリティ対策、端末の堅牢性などで特徴を持たせてきた。
「法人向け専用端末の投入によって、いままでにないサービスを受けもらえようになる」と語る。また、Push to Talkも、法人向けならではの利用方法を提案していくという。
■ ウルトラ3G構想や最新技術への取り組み
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FMBCのサービスイメージ
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小野寺氏は、KDDIが取り組んでいる最新の技術開発状況についても説明した。
まずネットワークインフラの構築について解説。ウルトラ3Gの構想に従ってインフラの開発を進めているが、FMCおよびFMBCをこのインフラの上で実現していくことを示した。
「様々なアクセス系の仕組みを、ひとつのパケットベースのコアネットワークにつなげ、すべてのアクセス系を集中させ、サービス、アプリケーションが統合された環境で利用できる。これからの課題は、音声通話とEVDO、無線LAN、そして、各種有線系アクセスをどう結びつけるか。いまは、別個のコアネットワークにつながっており、アプライアンスそのものも分かれている。携帯電話は携帯電話端末、ADSLはADSL機器、固定電話は固定電話機を利用する。お客のニーズは、これをひとつの環境で、ひとつのデバイスで管理、利用できれば、新たなサービスを展開できるというところにある。我々は、これをMMDの上で展開していく。FMBCについては、デジタルラジオ、ワンセグが端末機のなかに入り、ある程度は進んでいる。これに加えて、MediaFLOを搭載していきたい。また、モバイルサービスであるLISMOのほか、ブロードキャストサービスではMOVIE SPLASHがある。こうしたものを結びつけることでFMBCが実現し、本当の意味での放送事業者との連携によるユビキタスブロードバンド時代が到来することになる」という。
同氏はまた、KDDIの最新技術開発への取り組みについても紹介した。
モバイルアクセスの進化では、「テレビ電話はどれぐらい使われるかは疑問がある」としながらも、「アップリンクのスピードがあがったことで、新たなサービスの創出に結びつけることができる。また、BCMCSといった技術はあまり注目されていないが、コンテンツの一斉配信することが可能となり、近い道はいろいろとある。将来には、UMB、IMT-Advancedによる高速化、大容量化が図られる」と語った。
このほか同氏は、コグニティブ無線通信技術についても説明。「お客から見れば、どの方式でもいいから、つながり、情報がとれればいい。この技術によって、モバイル環境において、空いているものをセンシングし、3Gでも、WiMAXでも、無線LANでも、ネットワークの種類に関係なくつなぐことができる。課金をどうするのかという問題もあるが、都市部などの集中しているところにおいて、各種無線の空きスロットを検知するという使い方はユーザーにとって高い利便性を提供できる」とした。
さらに、「端末間同士で直接通信するといったことも検討している。いままでの基地局と端末という接続ではなく、端末同士が自律的につながって、エリアのなかだけで、自動的に相手の無線チャネルをつかむ。携帯電話ネットワークが駄目になっても、ある程度のことができるこの技術は、大都市での災害時などにも有効に働くことになるだろう。新しい技術を使うことで、どこからどんな電波がきているのかも調べられる」とした。
NHK放送技術研究所と共同開発している通信・放送連携サービス輻輳制御技術では、ワンセグ端末の普及、データ放送を使った通信連動番組の増加に対応するもので、番組内でのプレゼントの応募などによって、一時的に通信にトラフィックがかかる場合の制御技術。視聴者のアクセス機会損失を防げるなどのメリットがあるという。
また、IP over 地上デジタル放送技術では、地上デジタル放送にIPを乗せるもので、インターネットのコンテンツをデジタル放送を利用してホームネットワークに一斉配信。プロファイル情報を把握して、視聴者にあわせた配信も可能になるという。
ID連携では、1つのIDで様々なところにアクセスするための仕組みで、事業ドメインをまたがる機器同士の安全なアクセス制御、課金連携などもできるようになる。これにより、デジタル放送でのショッピンクサイトの決済を、携帯電話でシームレスに行うことも可能だ。
■ 「技術を採用してもらうために標準化してはいけない」
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移動体関連産業の広がり
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小野寺氏は最後に、ICT産業の今後の発展について触れ、「通話・通信料の市場規模は7兆円弱しかないが、コンテンツや設備投資、さらには様々な領域への広がりを含めると、いまは30兆円を超える市場規模になっている。携帯電話事業者が携帯電話のことだけを考えているわけにはいかない」とした。
一方、携帯電話の世界は、いずれPCの世界と同じように、コンポーネントを集めればできる時代が訪れると予測。「デルのようなPCのセットを販売する産業を伸ばすのか、コンポーネントを抑える産業を伸ばすのか、日本の国際競争力という点では、そうした視点も必要だ」とした。
また、オペレータの役割にも言及。「オペレータはシステムの要件・条件提示はするが、技術開発、標準化、知材戦略はメーカーでの役割である。メーカーとオペレータには役割分担がある。もし、オペレータが標準化を推進するといった途端に大反発が起きる。仮に、英ボーダフォンが、第4世代の技術はこれであるといったとしても、それを受けるのは危険だろう。社内には、標準化には関与しろといっているが、自分の技術を採用してもらうために標準化してはいけないといっている。ネットワークのオペレーションは我々しかできない。オペレーションに関する技術開発は必要であり、当社は、IP網のネットワーク技術の開発に関して積極的に行っている。オペレータとメーカーとの役割は、根本的に違うということを認識してほしい」として、理解を求めた。
■ URL
KDDI
http://www.kddi.com/
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(大河原克行)
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