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ボーダフォンの津田会長
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3月15日と16日の2日間、京都のパルスプラザにおいてケータイ関連の展示会「第5回 ケータイ国際フォーラム」が開催された。同会場で行なわれたカンファレンスの中でボーダフォンの代表執行役会長の津田 志郎氏は、「世界からみた日本のケータイ市場の展望とボーダフォンの経営戦略」と題した講演を行なった。
講演の冒頭で津田氏は「ボーダフォンはいま、お騒がせしている最中でカンファレンスに参加するか迷ったが、予定通り参加させてもらう」と発言。現在報道されているソフトバンクによる買収問題などには一切触れることなく講演を行なった。
まず津田氏は現在のボーダフォンの状況を紹介する。ボーダフォングループは世界のケータイ業界で第1位のグループで、時価総額もマイクロソフトに次ぐ4位。日本のボーダフォンも外資系としては国内最大であると説明する。売り上げは1兆5,000億円規模で、ボーダフォングループの他国事業者と比較しても「契約者数は日本のボーダフォンより多いところはあるが、売り上げは上位。そういう意味でも大きいウェイトを占めている」と語る。一方で「契約者数に対する収入の高さの理由には、ARPUの高さとハンドセット販売の差もある。海外ではプリペイドが多いのも理由のひとつ」とし、売り上げの多さは日本独特の構造によるとも説明する。
日本におけるボーダフォンの強みの一つとして、国際ローミング機能を紹介する。しかしその一方で「競合他社と比較してラインナップで遅れているのは否めない。現在ラインナップ充実を図っており、デザインやビジネス重視端末、音楽再生、GPS、おサイフケータイなどの機能を持ったハンドセットを投入しつつある」とも語った。また新たなプロダクトとしては「2月28日に発表したが、これまでのボーダフォンの歴史を振り返ると写メールなどメッセージングに強かった。だからさらにメッセージングを強くする、コミュニティーのコミュニケーションを強化するプロダクトを作っている」と語り、開発中の「フィーリングメール」「ちかチャット」「Vコミュニティ」「V-TOWN」といったサービスを紹介した。
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ボーダフォングループの規模
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日本のボーダフォンの歴史
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ボーダフォンの強みと端末ラインナップ
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今後投入するサービスや隣接業界とのパートナー事例について
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■ 「ケータイ業界は固定通信市場に学ぶべき」
津田氏は「日本のケータイ市場は今年も変化を迎える」と語る。その上で「固定通信市場で何が起きたかを知り、それを先例として考えるべき」とも語る。「固定通信ではIPという技術革新が急速に普及し、急激なブロードバンド化が進んでいる。リスクが増加し、撤退する人も増えている。そのリスクをどのように回避するかを検討するべき」とし、さらに「通信は公共性の高い事業。とくに移動通信はエリアを広げるのは義務と認識している。これを実施するには技術革新テンポが速いなか、多額の投資を行なわなければいけない」と説明。「客としては低廉な価格で、高機能かつ安定したサービスが欲しいと思うわけで、事業者として参入退出で業界がしょっちゅう変化するのでは客にとってリスクになる。安定した形で業界全体が成長しないといけない」と持論を述べる。
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世界の固定通信市場に起きたこと
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通信事業のエコシステム
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続いて過去のケータイ業界の歴史を振り返り「いくつかのエポックがあった」と紹介する。「まず1つ目は1988年の『新規事業者の参入』、次は1993年の『デジタル化』と、ほぼ同時期の1994年の『端末売り切り制開始』(それまではレンタルのみだった)。(ボーダフォンの前身の前身の)デジタルホンもそのころに開始した。事業者間の競争もあり、売り切り制への意向もあって加入者数の伸び率が100倍を超えた時期。95年前後には2000年の市場規模が800万人から1,200万人と予想されていたが、実際には5,000万の固定回線をも上回った。よい方向への誤算的な成長を遂げた」と紹介する。そして現在と今後については「第3世代が導入されたいまは市場が成熟期に向かっている。今年はMNPが導入され新規事業者も参入し、FMCへの取り組みも行なわれている」と見通しを説明した上で、「いくつかのリスク、過去の経験から回避するべき問題についても業界全体で考えていくべきではないか」と問題を提議した。
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ケータイ市場黎明期からの加入者数推移
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■ インセンティブ問題について問題提起
取り組むべき問題として津田氏は、まずケータイ販売の仕組みの問題点を指摘する。「端末の販売については新規契約時と買い替え時の2種類がある。新規契約時を細分化すると、初めてのケータイとして購入する純新規の人と、他事業者からの乗り換えの人がいる。成長期であれば純新規が多かったが、いまでは買い替えのボリュームが増えている。事業者間の移動も買い替えと同じ。この買い替えコストを誰が負担するかを考えるべき」と語る。さらにケータイの市場イメージを示し「異動期全体の売り上げが1兆6,500億円とすると、純新規は2,000億円程度。事業者移動が4,500億円で買い替えは1兆円程度と考えられている。今後はMNP導入に伴い、確実に事業者移動が増える。事業者が端末価格の一部を負担する現在のシステムが、業界全体としてハッピーか見極めなければいけない」とし、現在のシステムに対する疑問を述べた。
この問題に対するヒントとして津田氏は海外を例に挙げる。「海外ではハイスペック端末が安く売られることはない。たとえば契約時、料金プランにや契約年数を選ぶと、それに応じて端末の価格が決定される」と語り、一方の日本の状況については「店頭で買っても即刻解約されることもある。そうなると事業者と販売店で少しインセンティブ(販売報奨金)の払い戻しがあるが、事業者には回収漏れが生じ、販売店も満額のインセンティブは支払われない」と説明。これに対し津田氏は「端末の実勢価格の水準をどうあるべきか考え直さないと、今後のケータイを安定成長させるのは難しい」と自身の考えを述べた。
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端末価格の市場イメージ
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欧米での端末販売ビジネスモデル例
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■ ネットワークのIP化にかかわる問題点も指摘
今後のトレンドとされるネットワークのIP化についても、「今後は固定回線もモバイル回線もIPに統合される。これは日本でも海外でもその方向に進化すると言われている。しかしこれにも問題がある」と問題点を指摘する。「単に独立したネットワークがIP化されただけでよいのだろうか。問題は相互接続できるかどうか。QoSやセキュリティなども議論しないといけない。困難をきたさず移行するためには、各社独自の取り組みだけでなく、業界全体での議論の必要がある」と語る。
また「事業者間で公正な接続条件についても議論しておくべき」とも語る。ここでも津田氏は「海外を大いに参考するべき」としてイギリスの事業者BTの例を挙げる。「BTはIP化に際して、規制機関であるオフコムと39項目の約束を行ない、公正競争を守ろうとしている。日本もこれを参考するべき」と語り、日本の固定回線で寡占状態にあるNTTの動きをけん制した。
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IP化により変化するネットワーク
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IP化による通信融合の前に存在する問題点
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イギリスのBTがIP化構想に際して提示した取り決め
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■ 日本の強みと弱み。「日本の通信サプライヤーの競争力に懸念」
津田氏は日本の通信業界について「事業者の疲弊もあるが、ブロードバンド料金が安い。ケータイのインターネット対応比率も90%を超えており、ノンボイス系通信の収入割合でいうと日本は業界全体で20%と高く、世界をリードしている」と日本の先進性を紹介。一方で「通信サプライヤー(機器メーカー)の競争力に懸念がある」とも指摘する。「サプライヤーランキングをみても、なかなか日本企業の名前は挙がらない。通信事業者としてはモバイル端末に関心があるが、上位のノキア・モトローラには韓国2社が続いている。世界で見るとパナソニックが8位くらいで、シェアは1%大」と説明し、「日本独自のビジネスモデルが日本の通信産業の競争力を低下させたのではないか」と指摘する。「日本では通信事業者が端末を購入し、端末価格を下げて事業者のブランドで販売する。国内でも一時期メーカーブランドがあったが、いまではすべてが事業者ブランドの販売」と日本の状況を説明し、「今後の競争市場でもこのビジネスモデルを続けるべきか、続けられるのかは考えるべきポイント」と問題提起した。
最後に津田氏は「日本のケータイ市場は成熟期に入った。成長期を支えたビジネスモデルを成熟期でも続けるのが正しいか、そこに懸念点がある。日本のケータイ産業の競争力を高めるためには、ここを議論して必要ならば是正に取り組む必要があるのではないか。それをなさずに今年以降も続けることは、各社の疲弊を招き、全体の成長を妨げてしまう」と結論を述べた。
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日本の通信市場の先進性
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分野別の通信サプライヤーランキング
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日本独特のビジネスモデルと欧米のビジネスモデル
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「業界全体で考えてみるべき」という津田氏の持論
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■ URL
ボーダフォン
http://www.vodafone.jp/
ケータイ国際フォーラム
http://itbazaar-kyoto.com/forum/
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(白根 雅彦)
2006/03/17 15:58
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