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【TELECOM ASIA 2002】
総括 ~世界のケータイ市場をリードするアジア~
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2002年12月2日から香港で開催されている「TELECOM ASIA 2002」は、ITU(国際電気通信連合)が主催するイベントだ。4年に1度、スイス・ジュネーブで開催される「TELECOM」は別名『通信のオリンピック』とも呼ばれ、世界中の通信関連企業が最新技術を持って集結する。TELECOM ASIAはそのアジア版で、アジア圏をターゲットにする企業が出展する。もちろん、同時にさまざまな規格を話し合う会議も催されており、展示会場にこれらの会議に参加するメンバーもときどき訪れる。
規模の縮小と内容の充実
さて、初日のレポートでも紹介したように、今回のTELECOM ASIA 2002は、2年前に同じ香港で開催された「TELECOM ASIA 2000」よりも大幅に規模が縮小されている。残念ながら、2年前のイベントは見ていないため、その差を肌で感じることはできないが、ITUの記者会見でも触れられたように、前回比で約60%の規模で開催されているそうだ。しかし、これは通信業界が衰退したというわけではなく、ITUという特殊な立場の団体が主催するイベントであることやイベント本来の目的を達成するための判断だという。
では、実際の展示会の内容はどうだったのだろうか。ひとつ確実に言えることは、TELECOM ASIAの主役が間違いなく「ケータイ」であるという点だ。TELECOM ASIAは通信を主体にしたイベントだが、そこにはブロードバンドやネットワークなどの展示が少なく、来場者の関心の中心もケータイに集中していたように見える。ブロードバンドやネットワーク関連企業の出展が少ないことも関係しているが、注目度の違いは明らかだった。
日本企業への反応
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香港で普及している非接触型ICカード「OCTOPUS」
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そんな中、気になるのは日本企業への反応だ。日本は言うまでもなく、最もケータイが進んだ国として、世界中から注目を集めている。端末の機能だけでなく、そこで提供されるコンテンツやサービス、ユーザーごとの利用料(ARPU)など、さまざまな面において、世界のケータイ市場をリードしている。
その最大の成功者であるNTTドコモは「iモード」と「FOMA(W-CDMA)」を世界にアピールしているわけだが、今回のTELECOM ASIA 2002では今ひとつ反応が芳しくなかったように見える。特に、今年3月にドイツで開催された「CeBIT 2002」などに比べると、来場者が行列したり、集結するといった場面を見かけることが少なかった。もちろん、今週末の一般公開になれば、来場者が押し寄せる可能性はあるが、ビジネスのためのTrade Dayに反応が少ないのは気がかりだ。
こうした反応の背景には、「次世代携帯電話サービスの導入が容易ではないこと」「コンテンツなどのサービスは国ごとに市場性が異なる」などの要因が挙げられる。サービス開始から1年が経過したFOMAが思うような業績をあげられていないのは周知の通りだが、CDMA2000 1xを採用したauは導入のハードルが低かったため、順調に契約者数を伸ばしている。こうした歴然とした事実を海外の関係者も冷静に受け止めているようで、「W-CDMA方式による次世代携帯電話はじっくりと……」というスタンスのところが増えてきているようだ。逆に、cdmaOneを導入する事業者が元気なのは、日本も海外も同じだ。
また、国ごとの市場性が異なるのは、その他の社会インフラとの関わりがあるためだ。たとえば、NTTドコモは504iシリーズに装備された赤外線ポートを利用し、自動販売機やレンタルビデオサービスとの連携を測ろうとしている。しかし、TELECOM ASIA 2002が開催されている香港では、「OCTOPUS」というサービスが急速に普及し始めている。OCTOPUSは非接触型のICカードを利用した少額決済サービスで、地下鉄の自動改札から自動販売機、コンビニエンスストらの支払いなどに使える。ICカードへのチャージも地下鉄の駅事務所だけでなく、コンビニエンスストアが利用でき、駅構内などにある専用の機械にかざすだけで、いつでも残金を確認できる。かく言う我々も香港入り後、すぐにOCTOPUSカードを購入し、会場へ移動するときの地下鉄で、毎日のように利用した。日本で言えば、JR東日本が提供している「Suica」に相当するものだが、利用できる範囲は格段に幅広い。
OCTOPUSが興味深いのは、いろいろな場所で利用できる点だけではない。OCTOPUSは一般的なクレジットカード型以外に、NOKIA 33xxシリーズの交換用ボディも提供されているからだ。つまり、電車の自動改札からコンビニエンスストアまで、少額の決済は肌身離さず持っているケータイを支払機にかざすだけで済んでしまうわけだ。コストの問題があるため、ケータイでOCTOPUSを利用している人はまだそれほど多くないようだが、少なくとも一般的なカード型は老若男女を問わずに、幅広く利用されており、今後、ケータイ型OCTOPUSの利用が拡大する可能性も十分考えられる。こうした社会インフラが存在する地域では、504iシリーズの赤外線通信ポートも太刀打ちできないというわけだ。
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自動改札は黄色い読み取り部にOCTOPUSを当てる
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自動改札のユニットにOCTOPUSを当てるだけで、決済が可能
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OCTOPUSを利用した自動販売機。駅構内にはOCTOPUS対応スピード写真もあった
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中国市場へ進出する日本の端末メーカー
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三洋電機が出品していた有機EL搭載のスライド式端末。メニューなどもすべて日本語で、au向けにまもなく登場すると予想される
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一方、端末メーカーについては、今回はNEC、三洋電機、京セラなどが出展し、中国市場向けの端末などを中心に展示を行なっていた。反応は機種によってさまざまだったが、なかでもカメラ付きケータイはいずれのブースでもたいへんな人気を得ていた。説明を担当するこちらの若い女性も自らたいへん気に入っている様子で、目を輝かせながら、喜々として解説しているのが印象的だった。画像を添付したSMSが送受信できるMMSは、香港でも本格的な展開が始まったばかりだが、やはり、日本でカメラ付きケータイが売れているのと同じように、ブレイクする可能性大だ。
個々の製品では、J-フォンの3Gサービス向けにも提供されるNECのGSM/W-CDMA端末「e606」(日本名:V-N701)、au向けに供給される見込みの三洋製「有機EL搭載スライド式端末」などが注目される。これらの製品はスペック的にもかなりハイレベルのものであり、基本的には日本市場向けの供給が中心になるが、こうした製品群が将来的に、どのように海外向け端末に活かされているのかも気になるところだ。
また、中国向けでは予想以上にPHS端末や基地局も数多く出品されていた。中国では固定網サービスの延長として、一部の地域でPHSが提供されており、すでに日本市場を上回るほど、普及が進んでいる。これに対し、日本のメーカーは単純に日本向け製品の「お下がり」的な商品を供給するのではなく、市場のニーズに合わせた新しい製品を投入している。小型化を狙ったものもあれば、GSM/cdmaOne端末に引けを取らないほど、高スペックの製品も投入されている。もしかすると、数年後のPHSは中国をはじめとするアジア市場が優先で、日本市場もその内のひとつといった扱われ方になるかもしれない。
追いかけてくるアジア
今ひとつ出展者数が多くなかった日本企業に対し、その他のアジアの企業はなかなか元気だ。端末メーカーだけでなく、通信事業者もさまざまな趣向を凝らして、自社製品やサービスをアピールしている。しかもそれらのアピールポイントが日本と変わらないレベルになってきていることは注目に値する。
たとえば、今年の冬、日本ではカメラ付きケータイがたいへん人気を集めているが、今回のイベントでは日本メーカーだけでなく、SamsungやLGといった端末メーカーもいち早くカメラ付きケータイを出品し、来場者の関心を集めていた。ボディデザインそのものはまだ検討の余地があるだろうが、カメラの取付け位置や回転する液晶ディスプレイなど、独創的な機構にチャレンジしてきた姿勢は見習うべきなのかもしれない。
同時に、多くのメーカーや事業者のブースでは、カメラ付きケータイで取った画像をシールプリントなどに印刷するというデモが行なわれ、これも来場者に高い人気を集めていた。こうしたカメラ付きケータイの印刷デモは今年秋の日本の展示会でも見られた光景だが、やはり、考えることは国を問わず、同じということなのかもしれない。
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NECのGSM端末の新モデル「N8」。日本のカメラ付きケータイのノウハウが活かされている
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京セラは中国向けのPHSを数多く出品。写真のモデルはPHS同士のSMS(PメールDXに相当?)に対応
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カメラ付きケータイの印刷でもは大流行。写真はHutchisonグループのブース
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サムスンが出品していた新モデルは、タブレット PCのように液晶ディスプレイ部分が反転する構造。しかもタッチパネル式
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くり返しになるが、ここ数年、日本はiモードなどを中心に、世界のケータイ市場をリードしてきたことは間違いない。次世代携帯電話のサービスでも確かに先行している。しかし、予想以上のスピードで海外のメーカーや事業者は日本のケータイのトレンドを取り入れており、特にアジア勢は急速に高機能なケータイの市場が成長しつつあるようだ。CeBIT2002の総括でも触れたことだが、いつまでも「ケータイは日本が一番さ」とあぐらをかいているようでは、数年後には海外メーカーや事業者が日本のケータイ市場を席巻していることになり兼ねないというのが素直な印象だ。日本のケータイの特徴は活かしつつ、海外のケータイのトレンドも上手に取り込んでいかなければ、今後の市場は予想外の展開になるかもしれない。そんなことを感じさせる「TELECOM ASIA 2002」だった。
・ ITU TELECOM ASIA 2002
http://www.itu.int/ASIA2002/
(法林岳之)
2002/12/04 14:01
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