特集:5Gでつながる未来

5Gで物流が変わる「トラック隊列走行」、ソフトバンクの担当者に最新動向を聞く

 ソフトバンクは、2019年2月末に新東名高速道路でトラック隊列走行の実証実験を行った(関連記事)。トラック隊列走行とは、有人運転のトラックを先頭に、自動制御された複数台のトラックが追従して走るというもので、物流業界における人手不足の解消、省力化につながる技術として注目されている。

 今回の実験は、5Gの車両間通信を用いた車間距離の自動制御としては世界初の成功例だという。このプロジェクトに携わっている、ソフトバンク 先端技術開発本部 先端技術研究部の吉野仁担当部長、先端技術戦略部の三上学課長に話を聞いた。

これまでの取り組み

 日本では経済産業省や国土交通省、総務省がトラック隊列走行の実用化に向けた取り組みを推進しており、ソフトバンクは総務省の「高速移動時において無線区間1ms、End-to-Endで10msの低遅延通信を可能とする第5世代移動通信システムの技術的条件等に関する調査検討」を請け負い、一連の実験を行っている。

 同社は、先進モビリティ社などと共同で2017年にプロジェクトを開始。5Gの低遅延通信を活かした隊列走行を実現する上で必要な「基地局と高速移動中のトラックの間でも遅延時間が1ms以下」「基地局からの電波が届かない場所でも5Gで車車間通信」といった要素を実証してきた。

 これまでは車載端末の通信に関する実験を行ってきたが、2月末の実験ではCACC(協調型車間距離維持制御)システムを接続して、いよいよ公道上で実際にトラックを制御する段階に入った。実験は新東名高速道路で行われ、約14kmの試験区間を3台のトラックが隊列を組んで走行した。

車間距離はもっと詰められない?

ソフトバンク 先端技術開発本部 先端技術研究部の吉野仁担当部長(右)、先端技術戦略部の三上学課長(左)

 2月末に行われた実証実験については、6月の発表時に本誌でもニュース記事を掲載したが、その際の読者諸兄の反応のなかには「これだけ車間距離が空いていると、一般車が入ってしまわないか」「普通のトラックよりも制限速度が遅いと流れを妨げないか」といった興味深いものがあった。このような素朴な疑問のいくつかを担当者にぶつけてみると、意外な答えが返ってきた。

 公道実験での車間距離は35m、速度は70km/hだが、どちらも法規制の限界から決められた値で、テストコースでは車間距離を10mまで詰めて走行したり、速度をさらに上げたりと、より高度な条件での走行にも成功しているという。

 実用化に向けて制度が整えば、「隊列走行中のトラックの間に誤って入ってしまう」という事態が起こりにくい状態で走行できるようになりそうだ。また、車間距離を詰められるようになれば2台目以降の燃費が大幅に向上するというメリットもある。

 ちなみに、通信については4.5GHz帯であれば間に車が入っても大きな影響はないという。

隊列走行そのものは“フルスペックの5G”よりも早く実現する

トラック隊列走行実証実験

 前述のように、日本では経済産業省・国土交通省と総務省がそれぞれ、トラック隊列走行に関連するプロジェクトを進めている。ソフトバンクが請け負う総務省のプロジェクトでは、5Gでの隊列走行を行うための通信部分を扱っている。

 自動隊列走行そのものに関する研究開発は、経済産業省・国土交通省の「高度な自動走行システムの社会実装に向けた研究開発・実証事業」で進められている。たとえば、故意に割り込まれた場合や事故が起きた場合などの対処など、実用化に向けた課題はそちらで検討される。

 そしてトラック隊列走行の実現時期は、「高速大容量」「低遅延」「多接続」という5Gの特長のすべてが発揮される“フルスペックの5G”よりも早い見込みだ。つまり初期のトラック隊列走行は他の通信方式を採用することになり、経産省・国交省の実験でもDSRC(狭域通信)やLTEを使っている。

 その後5Gに移行することで、低遅延通信による信頼性の向上、基地局圏外での車車間通信など、より多くのシーンでの実用化に向けて前進することになる。

自家用車とも無縁の技術ではない

 隊列走行に使われるCACCとは、市販の乗用車でも採用が進むACC(アダプティブクルーズコントロール)に車車間通信の要素を加えた発展型だ。ACCの場合はカメラやレーダーで前方車両の動きを捉えてから判断、加減速を行って車間距離を保つが、CACCでは前方車両の制御情報を車車間通信で直接受信するので、無駄なくスムーズに隊列を維持できる。

 このような技術の流れを考えると、自家用車とも無縁の技術ではない。たとえば、渋滞時などに効率的な制御ができればある程度渋滞は緩和できるだろう。

 導入コストとそれに対する効果、隊列を組む車両の行先や通信設備を統一しやすいことなどから、まずは物流業界の課題を解決するアイデアとして研究開発が進んでいるが、旅客輸送なども含めて応用が期待できるシーンは多い。

今後の展開

 5Gの端末間直接通信(5G-NR Sidelink)はまだ標準化されておらず、現時点で実証実験に使用されている機器は標準仕様を先読みした仕様となっている。5G-NR Sidelinkの標準仕様は、2020年3月以降に3GPPでの標準化が完了する予定だ。

 今後は実用化に向けて、公道とテストコースの両方でさまざまなケースを想定した実験を重ねていく。