ドコモ決算は増収増益、一部で「Xi」下り112.5Mbpsへ


NTTドコモの山田社長

 NTTドコモは27日、2011年度(2011年4月~2012年3月)の業績をまとめた決算会見を開催した。業績のほか、2012年度の取り組みについても紹介が行われた。なお、端末関連の取り組みについては、別記事をご覧いただきたい。

 プレゼンテーションを行った同社代表取締役社長の山田隆持氏は、2011年度を振り返り、「スマートフォンは想定を上回る数を買っていただいた。今後、総合サービス業へ発展するための顧客基盤の拡大に寄与できたのではないか」と総括。一方で、深刻な通信障害が続けて発生したことを受けて、今後も継続的に対策に取り組むとする。

 2012年度については「これまでの取り組みを加速させる。スマートフォンユーザーは2011年度で1000万契約だが、2012年度は2000万に倍増させ、今後に向け、成長軌道に乗せる年にしたい」と述べた。

Xiで高速化

Xiのエリアについて

 LTE方式で、下り最大37.5Mbps(一部エリアで下り最大75Mbps)となる「Xi」(クロッシィ)について、ドコモでは、今年1月の第3四半期決算で「エリア拡大を前倒しする」としていたが、今回の会見では、第3四半期から「Xi」のサービスを800MHz帯と1.5GHz帯で提供すること、また一部地域では2012年度中に1.5GHz帯を利用して、下り最大112.5Mbpsのサービスを提供し、対応機種を冬モデルで投入する方針を明らかにした。

 現状の「Xi」は2GHz帯でサービスが提供されており、これまでのXi対応機種はLTE方式の「カテゴリー3」に準拠している。LTEは、カテゴリー1~カテゴリー5まで、性能に応じて5つの区分けがなされており、数字が低くなるほど、実現しやすく、数字が大きいカテゴリーは将来的な仕様と言える。現在、ドコモが用いている「カテゴリー3」はその中間にあたる仕様で、5MHz幅で下り最大37.5Mbps、10MHz幅で下り最大75Mbps、15MHz幅で下り最大100Mbps。つまり利用できる周波数が多ければ速度が向上する、という形になっている。

 ドコモの「Xi」は、現状、屋外の多くのエリアが2GHz帯の5MHz幅、つまり下り最大37.5Mbpsで、一部エリアが10MHz幅の75Mbpsだ。

 今回の会見で、山田社長は2012年冬モデルで、性能がアップする「カテゴリー4」対応機種を投入する方針を示した。「カテゴリー4」のLTEは、5MHz幅や10MHz幅の速度は「カテゴリー3」と同等だが、15MHz幅や20MHz幅を利用できれば、「カテゴリー3」より高速化する。ドコモの取り組みでは、具体的な周波数幅は明示されていないものの、カテゴリー4の機種を利用すれば、対応エリアにおいて下り最大112.5Mbpsで利用できる、と説明しており、1.5GHz帯を活用することで15MHz幅のサービスが提供される可能性がある。

Wi-Fiスポットも拡充へ

 質疑応答で、通信障害への対策に関して、データオフロード(データ処理の負荷分散)の方針を問われた山田氏は「データオフロードを進めたい」として、Wi-Fiスポット(公衆無線LANスポット)を今夏までに3万カ所に、さらに必要に応じて10万カ所にしたいと語り、今後拡充を図る方針とした。

 通信障害のうち、原因が設備故障によるものへの対策については、制御信号への対策、spモードのサーバー群など、2011年度末までに同社が示した対策をしっかり取り組む、とした。

MNP減少数の半減目指す

 2011年度のドコモの連結決算は、営業収益が4兆2400億円(前年度比0.4%増)、営業利益が8745億円(前年度比3.5%増)の増収増益となった。8期ぶりの増収増益となり、その背景としてパケット通信による収入の増加、スマートフォン販売数の増加などが挙げられている。なお、税引き後利益は前年度を下回っているが、これは法人税が増加したため。

2011年度の業績と2012年度の予想2011年度決算のポイント

 2011年度の純増数は約212万で、前年度比10%増となった。2G(第2世代の携帯電話)サービスであるムーバが2011年度末で終了し、最後まで残ったムーバの契約数は16万件で、そのうち5.6万件が音声端末、10.3万件が通信端末(DoPa)だった。ドコモでは20万件程度が残ると見ていたため、「なかなか良かったのではないか」(山田氏)と評価。解約率は0.60%となったが、これはムーバの残り契約数が含まれたもので、この影響を除いた解約率は0.58%になる。

2012年度の方針の1つとして、「スマートフォン・Xi販売促進による純増数の拡大」を挙げた山田氏は「ドコモの総合力を活かした競争を推進する」と語る。具体的には多彩な端末ラインナップ、Xiのエリア拡充、クラウドを利用した「しゃべってコンシェル」などのサービス、エリアメールなど「安心・安全」をもたらす施策、そして「価格競争力の強化」だ。

 端末ラインナップについては別記事で、「Xi」のエリアなどについては先述した通りの内容だ。こうした対策のうち「価格競争力の強化」では、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)の対策として、競合他社と同等の端末価格にする方針を示したほか、既に発表された通り、5月1日から「Xi」関連の割引施策を実施することが具体的な取り組みとなる。

 2012年度は280万の純増数という目標を掲げる山田氏は「MNPで、ドコモから他社へ移行したユーザーは80万ほど。これを半分くらいにしたい」と語る。端末価格は、長期にわたる割引を適用していく「月々サポート」を増額し、実質価格が2万~2万5000円程度だったところ、2012年度は1万~1万5000円程度にする。この背景を質疑で問われると、山田氏は「2011年度にドコモから転出したユーザーへ調査したところ、『iPhoneにしたい』という人は20%程度で、残りの80%はキャッシュバックや端末価格の安さを理由に挙げている」と説明。価格競争だけではなく総合的に競争したい、としつつも、MNPを重視する競合他社の取り組みが多額のキャッシュバックを招き、その影響を受けたことへの対策として、価格面で他社と競合できる力を備えていく方針を掲げた。

dメニューとdマーケットでスマホ利用の拡充を図る。今夏には“アニメ”のストアも予定とのことXi契約の推移

クラウドサービスを強化、NOTTVは100万契約目指す

 2012年度の取り組みの1つであるクラウドサービスについて、ドコモでは「ネットワーククラウド」に注力する。これはドコモの造語で、ドコモのネットワーク上だからこそ実現できるクラウドサービス、を指す。具体的なサービスとして、電話経由で自動的に外国語との会話をサーバーが翻訳する「通訳電話」(2011年11月から試験提供)や、外国語(英語・中国語・韓国語)のユーザーとメールでやり取りする際に、文面を翻訳する「メール翻訳機能」(2012年5月末開始)が用意される。

 音声認識機能を使った「しゃべってコンシェル」も“ネットワーククラウド”の一環となるが、山田氏は「iPhoneには(音声アシストサービスの)Siriがあり、ほぼ同じサービスだが、アップルのSiriは当然iPhone限定。一方、ドコモでは“ネットワーククラウド”で、通信網自体に付加価値を付け、さまざまな端末で利用できる」と解説し、ドコモが他キャリアと競争していく中で、“ネットワーククラウド”が差別化要素として付加価値をもたらすと説く。

ドコモのネットワークならではのクラウドサービスを提供するしゃべってコンシェルんpインストール数は157件
NOTTVについて

 そして新たな領域での取り組みである携帯向けマルチメディア放送の「NOTTV」は、2012年度末に100万契約を目指す。これまで明らかにしていたように、今回の会見でも、夏モデルでNOTTV対応機種を5機種投入する方針とされたほか、今期のドコモの予算では200億円ほど投じて、サービスを立ち上げていく。

「キャリアビジネスがずっと繁栄するとは限らない」

 2011年度、ドコモは食品宅配事業を手がける「らでぃっしゅぼーや」を買収した。通信事業とは直接関わりのない領域へドコモが進出するのは、これが初めてではなく、三井住友カードに出資してクレジットブランド「iD」を立ち上げたり、テレビ通販事業の「オークローンマーケティング」(ショップジャパン)への出資、オムロンヘルスケアとの新会社設立なども行っている。

 こうした領域へ進出するニュースが報じられるたび、「なぜドコモが?」といぶかる声は少なくないだろう。これに対し、山田氏は質疑応答で「キャリアビジネスがそう長く、ずっと繁栄するとは思わない」と語る。

新領域の取り組みこれまでの新分野への参入

 通信事業者としての成長は通信料収入が主軸だった、そして現在通信料が伸びているのは、ユーザーのフィーチャーフォンからスマートフォンに移行しているからこそ――そう指摘する山田氏は「理屈の上では、全てのユーザーがスマートフォンになれば、それ以上通信料収入を向上させるのは難しい。2015年でもまだ全ユーザーがスマートフォンにはなっていないだろうが、2020年くらいを考えると、通信料だけで成長できる業態ではない。だからこそ、総合サービス企業へぜひ進化したい。今、ドコモが収支が良いうちに新たな分野へ進出したい」と述べ、通信を中心に連携が取れる分野へ進出することで、企業として生き残りを図る必要があるとする。今後もドコモでは、さまざまな領域に進出して、総合サービス企業への転換を目指すことになる。

 このほか会見では、日本通信からの提訴についても質問が投げかけられた。山田氏は「基本的にドコモの接続料は『接続約款』で決まる。この約款は総務省のガイドラインなどで決まっており、総務省へ提出しているもので、何ら問題がないと考えている。日本通信は、一番最初の(相互接続の)MVNOで、当初の覚書で合意したではないか、と指摘していると思うが、接続約款は全てのMVNOに適用されるもの」と説明。日本通信が「支払いを拒否しようとすると、切断すると言われた」という点については、「日本通信から一方的に支払拒否があった。約款上、支払拒否があると接続を止めてもいいが、当然ドコモはそうしていない。切断するといった、脅しめいたことは言っていない」と話した。




(関口 聖)

2012/4/27 21:55