震災から1年~ドコモが災害対策と復興支援の説明会を仙台で開催

仙台にコールセンター新設で雇用創出も


 NTTドコモは3月9日、災害対策および復興支援の取り組み状況についての説明会を仙台のドコモ東北支社で開催した。2月23日に発表した同社の災害対策について改めて説明したほか、被災地で行っている復興支援の取り組みについて説明した。

 ドコモ東北ビルのロビーでは、震災当時の被災状況や災害対策についてのパネル展示のほか、、エリアメールとエリアワンセグ災害利用の実証実験、フォトパネルを利用したコミュニティ支援などの取り組みのデモも行われた。

200億かけた災害対策はほぼ完了。「通信確保が最優先」山田社長

NTTドコモ代表取締役社長 山田隆持氏

 NTTドコモ代表取締役社長 山田隆持氏は、昨年3月11日に震災が発生して、12日に仙台の近くまで行ったという。「昨年3月、4月に合計4回被災地に来たが、そのときに、津波の被害の悲惨さを強く実感した。陸前高田など、一切ものがないという状況だった。なんとしても早く復旧をさせたい」と復旧支援への気持ちを語った。

 また、東日本大震災時に、通信が途絶したことについて「通信が切れるということは安否が確認できないということで、申し訳ないと思っている」と述べ、災害対策では「通信がきちっとできる、携帯電話がつながる、ということを主軸にした」と200億円をかけた災害対策について説明。

 重要エリアにおける通信の確保のためには、災害時における通信確保のために大ゾーン方式基地局を全国104カ所設置(うち東北12カ所)、都道府県庁や市区町村役場などの通信を確保するため全国の基地局約1900局(うち東北約240局)での無停電化やバッテリー24時間化などを行った。

 また、被災エリアへの迅速な対応を目指し、衛星エントランス基地局の車載型を19台(うち東北2台)に倍増し、可搬型を新規に24台(うち東北2台)導入。非常用マイクロ設備を100区間(うち東北6区間)に配備した。衛星携帯電話は3000台を用意し、即時提供によって避難所などの通信確保を目指すが、衛星携帯電話は東日本大震災以後に地方自治体で導入需要が高まっているためそちらを優先。現在1000台を配備済みだが、今後数か月程度で3000台が用意できる見込みだとした。

 山田社長は大ゾーン基地局について、「半径7kmという大きな円をカバーする。800MHzと2GHz、東名阪だと1.7GHzもカバーし、有線・無線など複数の回線につながっており、まず途絶えることがない」と説明。都内であれば半径7kmをカバーする大ゾーン基地局が6つあり、23区内はおおむねカバーできるとした。

 また、基地局の無停電化・バッテリー24時間化については、従来は3~6時間程度しか持たないものが多かったが、「都道府県庁、市町村役場をエリアにさせてもらっている基地局はなんとしても24時間、あるいはそれ以上は持たせたい。24時間あれば給電に行けるだろう」と述べ、災害支援現場の司令塔となる都道府県庁および市町村役場については最優先で通信の確保を行う方針を改めて説明した。


新たな災害対策の概要対策費は計200億円今年2月で全施策がおおむね完了
大ゾーン基地局を全国で104カ所に設置基地局の無停電化・バッテリー24時間化局内に設置場所がない場合は、バッテリー収容函を設置
大規模災害に備え、衛星携帯電話を3000台配備被災エリアの早期復旧を目的に、機動性に優れた衛星・マイクロ回線を活用東北支社では、車載型を1台から2台に、また可搬型を新規に2台配備

 災害時における利便性向上策としては、災害用音声お届けサービスを提供。山田社長は、「東日本大震災では、最大90%の通話規制をかけた。一方、パケット通信についてはメールは初日に30%規制しただけで、2日目からはまったく規制をかけなかった」と当時の状況を振り返った。

 災害用音声お届けサービスの長所として山田社長は、(1)電話番号で発信できる、(2)デジタル伝送路を使う、(3)肉声が聞こえる(心理的に安心する)の3点を挙げた。スマートフォンの場合、災害用音声お届けサービスを利用するにはスマートフォン向けの「災害用キット」アプリをダウンロードする必要があり、3月1日から提供を開始したが、3月8日までですでに60万ダウンロードくらいダウンロードされ「ユーザーの関心も非常に高い」という。

 復興支援の面では、復興支援プロジェクトを総括する司令塔となる東北復興新生支援室を昨年12月1日に新設したほか、仙台で150名程度のサポートスタッフを新規雇用すると述べた。仙台のコールセンターでは現在約280名のスタッフがいるが、新たにスマートフォンの機器操作を担当するコールセンターを設置。ドコモのスマートフォンは現在1000万台を少し切れる程度だが、2015年には4000万台に達すると見ており、ユーザー数の増加に比例してサポートスタッフの増員が必要になるが、「今後は増やすなら仙台でと考えている」とコメント、被災地での雇用創出に貢献したい考えを示した。

災害用音声お届けサービスは3月1日に提供を開始した昨年7月からエリアメールは、国や地方自治体の利用を無料化。現在888自治体に導入されている首都圏直下型地震などに備え、重要設備を2012年度までに関西・九州へ分散


東北では1万1000局のうち4900局がダウン。停電にも耐えられる蓄電設備を

 NTTドコモ 執行役員兼東北支社長 荒木裕二氏は、移動通信設備の被害状況と復旧についての説明を行った。

 東日本大震災により、東北エリアでは1万1000局のうち半分弱にあたる4900局がサービスを中断した。「うち半分弱は基地局が破壊されたり伝送路が切断されたことによるダウンで、その後長時間にわたる停電でバッテリーが切れたことでバタバタとダウンした」(荒木氏)が、その後マイクロ伝送路などを用いた応急復旧により、4月30日時点で復旧対象(福島第一原発エリア外)307局のうち289局が復旧。福島第一原発30km圏内の地域についても、68基地局のうち51局が復旧した。

 設備損壊局は、本格復旧も9月末までに完了し、被災前の通信品質を確保した。残りの水没・損壊局については2月末で68局が残っているが、「津波被害などの甚大な影響を受けた地域では、地域の復興計画に合わせて復旧を行っていくとした。

1万1000局のうち、半分弱にあたる4900局がサービス中断山上局などから大ゾーン化、マイクロ伝送路なども用いて応急復旧を行った設備損傷局の本格復旧は昨年9月末までに完了、水没・損壊局については復興計画に合わせて復旧する
ドコモショップの被災状況ドコモ設備の被災状況基地局設備の被災状況と復旧状況
光・応急光による設備復旧移動基地局車による設備復旧衛星回線(IP-Star/J-SAT)による設備復旧
マイクロ伝送路による設備復旧大ゾーン化による設備復旧移動基地局車では充電サービスも実施


輻輳に影響されない、プッシュ型配信のできるエリアメールの活用

 NTTドコモ 取締役常務執行役員兼東北復興新生支援室長 眞藤 務氏は、12月に新設された復興新生支援室の取り組みについて説明した。眞藤氏は、「被災者に直接ヒアリングを行った結果、まずは避難世帯のコミュニティの欠落や子供に未来の希望を持たせたいという声が非常に強かった」として、コミュニティ支援から取りかかったと述べた。

 双葉町の元住民を対象に行っている、フォトパネルを利用した情報配信を紹介。双葉町から日本中に散らばりっている元住民に、町からの情報配信を行っている。プロジェクト開始から2カ月足らずで導入、プル型ではない単純な情報配信のため、操作も電源を入れるのみで情報が見られるため高齢者でも利用できているという。双葉町住民は約2600世帯だが、1300世帯から希望があり端末を配布した。津波被害の大きかった南三陸町でも4月から提供を開始する。

 眞藤氏は「子供達を新たな町作りに参画させたいと考えている」として、タブレットを使った防災・町作り授業の実施の試みのひとつとして、大船渡市で実施したタブレット使った授業を紹介。1人1台タブレットを使い、ARを使って、地元の名所などにタグを埋め込む形で地域を紹介するコンテンツを作成したり、神奈川の小学校とテレビ電話でコミュニケーションするなどを行った。タブレットを授業に活用することで、教室に居ながら外部の情報を取り入れられ、また外部とコミュニケーションできることで教室に居ながら世界が広がったという声が多かったという。

 今後、福島でタブレットを活用した独居高齢者向けの情報配信・見守りサービスも夏頃をめどに提供する予定だ。

 また、エリアメールとエリアワンセグ災害利用の連携検証もマスプロ電工と共同で実施する。エリアメールで情報配信を行って気づきを促し、エリアワンセグを用いて、いまいる場所近辺ではどこに逃げればいいか、あるいは監視カメラの川の水位の映像など、きめ細かい情報配信を行う仕組み。10月に石巻市で実証実験を行う予定だ。眞藤氏は、エリアメールはネットワークの輻輳などの影響を受けないため、災害時の情報配信に有効に活用していきたいとした。

 なお、エリアワンセグの1つのエリアは最大で1km程度、通常は600~700メートル程度になるため、マスプロ電工が面的にいかに穴のない配信を行うかを担当。エリアごとに地域の防犯カメラ映像を流すといった、配信のコントロールシステムについては、NTTデータが開発に当たるという。

エリアメールとエリアワンセグ災害利用の連携エリアメールで注意を喚起し、エリアワンセグを観るボタンをつけるボタンを押すと、河口の監視カメラ映像などが閲覧できる





(工藤 ひろえ)

2012/3/12 06:00