携帯電話メーカーが相次ぐ修正を発表した第3四半期決算


 電機大手の2011年度第3四半期決算発表において、携帯電話事業における計画修正が相次いでいる。主要各社の動きを決算発表から追ってみよう。

国内トップのシャープ

 国内最大シェアを誇るシャープは、2011年度通期の携帯電話の販売計画を、年間900万台から800万台へと下方修正。売上高も3400億円の見通しから、3200億円へと修正した。販売台数では前年比18.9%減、売上高では22.6%減と、いずれも前年割れになる計画だ。

 また、第3四半期累計(2011年4~12月)までの出荷台数は、前年同期比22.7%減の592万台となっている。

 同社では、「従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)の落ち込みと海外メーカーとの競争激化などの厳しい状況で推移している。だが、液晶テレビのAQUOSとの連携機能や、高画質と低消費電力の両立などシャープの強みを生かした特長端末の市場投入を図る」(シャープ・片山幹雄社長)としている。

構造改革に踏み出すNEC

 NECは、2011年第3四半期累計(2011年4~12月)の携帯電話の販売実績が約330万台と低迷したことから、年間出荷計画を500万台へと下方修正した。期初には740万台の出荷計画としていたが、昨年10月に650万台へと下方修正。今回、さらに下方修正した格好だ。

 「第3四半期の携帯電話事業は期待値に対して、大幅な未達となった。新たな充電方法の提案やバッテリーの強化を行ってきたが、LTEに対応したスマートフォンが顧客の要求であったことを大きく見間違えた」(NEC・遠藤信博社長)としたほか、「外資系メーカーの攻勢やスマートフォン事業での出遅れなど、国内市場での低迷に加えて、海外展開の遅れが影響している」とした。

 同社では、「第4四半期にはLTE端末と6.7mmの薄型スマートフォンの投入によって、出荷台数の増加を計画している」というが、置かれた状況は厳しいのは事実だ。実際、携帯電話事業を担当するNECカシオモバイルコミュニケーションズは通期で営業赤字になるとの見通しを明らかにした。

 NECの遠藤社長は、「市場に対する見込み違いに加えて、製品力のなさが見えた」と反省する。

 同社では、このほど、正規社員5000人、非正規社員5000人の合計1万人の人員削減計画を発表した。遠藤社長は具体的な対象部門については触れていないが、このなかには携帯電話事業が含まれるというのは、多くの関係者に共通した意見だ。

 2009年に、カシオ、日立の携帯電話事業を統合し、NECカシオモバイルコミュニケーションズを設立したものの、設立当初からの2200人という従業員数は変わっておらず、それでいて、2008年度時点でのNEC、カシオ、日立の3社の合計出荷実績が890万台だったのに対して、2010年度実績は440万台と半減している状況。これまで手つかずだった重複部門の人員削減などは大きな課題だといえる。

 遠藤社長は、「抜本的な構造改革が必要。日本で開発している限り、部品の選定を含めて、能力が足りないところがあることは認識している。コスト体力、原価体力をつける必要があり、JDM(Joint Design Manufacturer)を活用することで、開発リソースのスリム化を図る一方で、国内外の生産比率を考えていく必要がある」として、開発、生産体制の見直しにも着手する考えがあることを示す。

 さらに、遠藤社長は、「NECの強みはハードウェアをはじめとする技術力。携帯電話事業においても、それを入れ込むことで、製品力を高めなくてはならない。(携帯向けマルチメディア放送を今春開始する)mmbiによるテレビとの融合もいち早く取り込んでいくことで差別化をしていく。そして、海外においては、端末メーカー以外のパートナーシップを模索しており、変化の激しい市場において、十分な注意を払いながら、方向感を探っていく」と、今後の方向性を語った。

富士通、携帯電話事業は増収

 富士通は、東芝の携帯電話事業の統合効果もあり、事業が拡大している。第3四半期累計(2011年4~12月)のパソコンおよび携帯電話の売上高は前年比2.6%増の6307億円。「携帯電話は、第3四半期においては、タイの洪水被害に伴う一部部品の調達遅れが影響したものの、スマートフォンを中心に投入した新規機種が販売好調で、携帯電話は増収になった。第4四半期は、タイ洪水の影響による一部部品の調達遅れもリカバリーができるとみており、通期では年間出荷計画を上回ることになる」(富士通 取締役執行役員専務の加藤和彦氏)とする。

 携帯電話の年間出荷台数は、スマートフォンの好調ぶりもあり、期初計画の700万台に対して70万台上方修正し、770万台の出荷計画とした。前年の670万台を100万台上回ることになる。

 富士通では、2011年度の通期業績見通しをすべてのカテゴリーで下方修正したが、ユビキタスソリューションに含まれるパソコンおよび携帯電話の売上高は据え置き、年間売上高を8900億円とした。

 しかし、第3四半期においては、震災影響やタイの洪水被害の影響で生産および販売が減少したこと、フィーチャーフォンの低価格化の影響を受けたこと、さらにはスマートフォンの開発投資が継続していることで減益になったとしている。

ソニー・エリクソンを子会社化するソニー

 ソニーでは、2012年2月に100%連結子会社化を予定しているソニー・エリクソンが、携帯電話市場の競争激化を背景に、営業損益は11月時点の想定を約50億円下回る見込みだとし、ソニーの持分法投資損失としては、2011年4~12月で前年同期比498億円減のマイナス462億円の赤字となった。また第3四半期だけで431億円の赤字を計上しており、「第3四半期は、スマートフォンの売り上げは増加したものの、スマートフォン以外の携帯電話の売り上げが減少。先進国の売上減少、およびタイの洪水被害による一部の部品不足の影響を受けた。また製品および地域ミックスの変化、スマートフォンの激しい価格競争の悪影響、構造改革費用の計上などの影響があった」としている。

 ソニーの発表によると、ソニー・エリクソンの2011年10~12月期の売上高は前年同期比15.7%減の12億8800万ユーロ(約1312億円)、税引前損失は2億3300万ユーロ(約237億円)の赤字、四半期純損失は8億5300万ユーロ(約869億円)の赤字となった。同社では、通期でも減収減益となり、7800万ユーロ(約79億円)の費用を計上した構造改革に取り組んでいるところだ。同四半期の携帯電話の販売台数は900万台に留まった模様だ。今後、ソニーのなかで、携帯電話事業の拡大戦略をどう描くかが注目される。

 4月に代表執行役社長兼CEOに就任する平井一夫氏は、「ソニー・エリクソンの携帯電話事業を吸収することで、モバイル分野において、新たな製品を創造する。ソニーならではのモバイル商品を創出したい」と意気込んでいる。

海外展開に意欲見せるパナソニック

 パナソニックでは、デジタルAVCネットワーク事業の売上高は16%減の2兆1829億円。同事業の減収要因として、薄型テレビとともに携帯電話の不振を理由にあげた。

 同社では、携帯電話事業を担当していたパナソニック モバイルコミュニケーションズが、2011年度からパナソニック システムネットワークス社と経営統合し、決算情報の開示対象外としたことで、細かい情報が開示されなくなったが、2011年度の携帯電話の販売目標は500万台(2010年度は440万台)を計画する。

 その一方で、2015年度には海外900万台、国内600万台の合計1500万台の出荷を目指す方針を公表している。今後4年で販売台数を3倍に引き上げる意欲的な計画だ。今年夏には欧州市場に参入するとともに、米国、ドイツ、シンガポール、中国の販売拠点を設置し、2015年度には海外販売の加速により、携帯電話事業全体で4000億円規模を目指すという。

アップル、サムスンは好調

 一方、電機大手以外の携帯電話事業では、京セラが通信機器関連事業において、海外での携帯電話の販売が伸び悩んだことを背景に、第3四半期累計(2011年4~12月)の売上高が前年同期比22.3%減の1365億円。しかし、原価低減への取り組み成果や、国内市場におけるスマートフォンの貢献もあり、利益は改善し、前年同期の9億円の赤字から、8億円の黒字に転換した。なお、通信機器関連事業の通期見通しは、売上高では10月公表値に比べて100億円減の1800億円、税引前純利益は300億円減の27億円と、いずれも下方修正している。

 海外勢では、米アップルが発表した2011年10~12月決算が注目される。同社によると、iPhoneは、全世界で前年同期比28%増となる3704万台を販売。ティム・クックCEOは、iPadやマックが好調に売れていることにも触れながら、「空前の販売台数に身震いしている」とのコメントを発表。アップルの勢いは信じられないほど強く、現在もすばらしい新製品をいくつも開発中である」とした。

 また、韓国サムスンが発表した2011年10~12月の決算では、売上高、営業利益ともに四半期としては過去最高を記録。売上高は前年同期比13%増の47兆3039億ウォン、営業利益は76%増の5兆2964億ウォン。前四半期に30%増となる出荷台数を記録したスマートフォンが好調で、過去最高の利益となった携帯電話部門が、2兆6400億円の利益を計上。全社利益の半分を稼いだ計算だ。スマートフォンは、同四半期だけで3500万台以上を出荷したとみられている。

 このように、主要各社が発表した決算を振り返ると、スマートフォンシフトを加速させたメーカーが、業績面でも好調であることが浮き彫りにされる。その傾向は、ますます強まることになるだろうが、その一方で、スマートフォンにおける収益モデルを継続的に構築できるかどうかが、今後の焦点になりそうだ。




(大河原 克行)

2012/2/8 12:06