ドコモ、度重なる通信障害への対策を発表


会見冒頭、謝罪するドコモ幹部
5000万台のスマートフォンに耐えられるネットワークを目指す

 NTTドコモは27日、第3四半期決算の発表に先立ち、spモードや音声通話、パケット通信などの通信障害への対策の説明会を開催。同社代表取締役社長の山田隆持氏が説明した。冒頭、山田氏をはじめとする同社幹部が25日に発生した通信障害を含め、ユーザーに向けて謝罪した。

 同社では、今後スマートフォンが5000万台になっても耐えられるよう、ネットワーク基盤を高度化する方針。当面は40億円、2014年度までにspモードシステムで400億円、同年度までにパケット交換機で1200億円を投資して対策する。対策は段階的に実施される。

 このほか、昨年12月20日のspモード障害でメールアドレスに関する不具合が発生し、通信の秘密や個人情報が漏洩したことによる責任を明確にするため、役員報酬も一部返上する。山田社長は月額報酬の20%を、辻村清行副社長、鈴木正俊副社長、松井浩副社長、ネットワーク担当役員の岩崎文夫常務、サービスプラットフォーム部長の澤田寛執行役員は、いずれも月額報酬の10%をそれぞれ3カ月間返上する。

 会見では、昨年8月や12月20日、今年1月1日に発生したspモード障害、そして1月25日のパケット交換機に関する通信障害について、今後実行する対策の概要が紹介された。一方、質疑では、「ドコモはiモードに引きずられていないか」「抜本的な対策を実施するのか」といった質問が挙がった。また、ドコモ側からは、拡大するスマートフォンへ対応できるインフラを構築するのはインフラ事業者としての責任で行うこと、アプリ規制は行わないものの、海外事業者と連携してアプリ事業者へのメッセージを提供したいこと、対策費用が発生しても料金には反映しないことなどが語られた。

スマホ時代に向けた対策

ネットワーク基盤高度化対策本部の検討内容

 ドコモが掲げる今後の目標は「5000万台のスマートフォンに耐えられるネットワーク作り」だ。これまで同社では、2014年にスマートフォン4000万台という目標を示してきたが、今回明らかにされたネットワークの高度化は、2015年~2016年までを見据えた土台作りということになる。さらに、拡張性(スケーラビリティ)を重視しており、土台をきちんと構築できれば、その先も柔軟に対応する、という方針になる。

 12月20日のspモード障害が発生した直後、ドコモでは社長直下の組織「ネットワーク基盤高度化対策本部」を設置。以降、1月26日までに7回の会議を行い、原因の特定や対処、今後のプランを策定した。まずspモード、そしてパケット交換機関連の不具合については、障害を引き起こした直接の原因に対して内部処理の見直しや負荷軽減など、対処療法と言える処置を1月12日までに終えている。

spモード障害の概要パケット交換機障害の概要

 次に大きな課題となるのが、スマートフォンの普及で顕在化した“バーストトラフィック(瞬間的な通信量の急増)”だ。インターネットサービスと親和性が高いスマートフォンは、アプリを入れれば入れるほど通信頻度が高まり、常時接続に近い状態にしようとする。もし接続ルート(パケット交換機とspモードシステムを繋ぐ伝送路)が故障すると、ネットワークから切断されたスマートフォンは、再接続しようとしてしまう。これが数台ならともかく、ある地域全体で繋がりにくい状態となれば、数万台、数十万台というスマートフォンが一斉に再接続しようとするため、システム側に大きな負荷がかかり、“バーストトラフィック”として輻輳(ふくそう、通信処理が滞る状態)を引き起こす。

spモード関連の障害対策のスケジュール
パケット交換機障害の対策について

 そこでドコモでは、4月下旬までに端末側ではなくネットワークを改修して、通信中のユーザーのみ、再接続する形にする。スマートフォンが再接続処理を行うのは、切断時に基地局側から「ネットワークから切断された」と通知が行われるため。就寝中など、ユーザーが操作しておらず通信していないスマートフォンに、切断通知を行わないことで、バーストトラフィックを防ぐのだという。ただAndroidはアプリを何も入れなくても28分に一度、ネットワークへの接続を試みるため、仮に切断通知が届かなくても、そのうちネットワークに繋がるようになる。多くのユーザーがアプリをどんどん使うようになると、この手法もどの程度効果があるか不透明になるが、現段階では一定の効果があるとドコモでは見ているという。

 バーストトラフィックについては、もう1つ、サービス制御装置(IPSCP)と呼ばれる機器が故障した場合への対応が8月上旬までに行われる。携帯電話は定期的に位置情報をネットワークへ通知するが、故障などで予備機へ切り替える際の位置情報更新処理を変更して、再接続信号のバーストトラフィックが発生しないようにする。

これまでに行った対策これまでに行った対策のイメージ

 このほか、2012年度末までには、5000万台のスマートフォンに備えるべく、装置の処理能力や方式、そして障害発生時の機能やユーザーの情報がネットワーク装置の間で一致しない状況をあらためて確認する。さらに設備増設を簡単に行えるようにしたり、冗長化を見直して信頼性を高めたりする。2014年度末までは、設備の増設を継続的に行う方針だ。障害発生時には、今後、発生から30分程度を目処に情報を公開する。Webサイトやドコモショップ、電話窓口などに情報を示し、ユーザーがすぐ確認できるようにする。

バーストトラフィック対策などを行う発生から30分での情報開示も

ドコモのネットワークはどうなるのか

 今年度だけで、法律上“重大な事故”とされる障害が5回発生したドコモのネットワークに対し、iモード時代に培われたシステム群、あるいはドコモ側の考え方がスマートフォンに対応しきれていないのではないか、と見る向きは少なくない。今回の会見でもそういった点を突く質問が多く投げられた。

ドコモ山田社長

 ドコモのspモードを支えるプラットフォームは、もともとパソコン向けISP「mopera U」向けに開発された「MAPS(マップス)」というシステムと、ドコモがiモード向けに構築した「CiRCUS(サーカス)」というシステムをベースにしたもの。今後展開する対策の道筋は、こうしたシステムからの脱却になるのか、あるいは現在のシステムにつぎはぎを当てていくのか問われた山田社長は、「かつてのGRIMM(グリム、iモード初期の基盤システム)からCiRCUSは、ISP提供機能が拡張に追いつかず、全てを入れかえるような改修だった。しかしMAPSではサービスとISPが分かれている。今回は5000万台に耐えられるシステム作りを目指すが、まずは基礎となる部分を作りたい。(MAPSの)拡張が可能なのか見直していきたい」とコメント。別の質問でも拡張性が課題とされ、まずは既存システムの点検を行う方針が示された。

 昨年のspモードの障害で“他人のメールアドレスになる不具合”が発生したとき、電話番号とIPアドレスを紐付けるという手順を疑問視する声も一部であった。今回の会見でも、そうした仕組みがドコモ特有のものか問われると副社長の辻村氏は「KDDIもソフトバンクモバイルもIPアドレスを識別に用いて、電話番号と紐付けるという処理は同じだと思う。世界のキャリアでも同じ」と述べ、IPアドレスと電話番号を利用する仕組みは特殊なものではない、とする。

 ただ、spモードシステム内のユーザー認証などで独自仕様があり、そこでの手続き(プロトコル)に落ち度があったため、メールアドレスに関する不具合が起きたと釈明。また別の質問に答える形で「電話番号を使って個人を認証するのは世界で使われているが、その認証結果をサービスに応用するのは、世界の中でもかなり我が社は進んでいるところだと思う。そうしたスマートフォン上のサービスは、他国であまりないかもしれない」と辻村氏は説明。これまでフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)で培った各種サービスをスマートフォン向けに提供する、という日本市場ならではの要素がドコモの独自性を招いていることを示唆した。

iモードサービスはスマホに必要か

 日本市場ならではの要素となるiモードサービスを、スマートフォンで提供する意義について問われると、辻村氏は「iモードユーザーが現在5000万人いるが、それがスマートフォンに移行する。おサイフケータイやiコンシェルといったサービスを使いたいという要望があり、それを整備することが必要。ただその一方で、スマートフォンはオープンで、アプリを制約すべきではない」と語る。

 山田社長も「当社がスマートフォンを提供しようとしたとき、『iモードメールが使えるなら買う』『おサイフケータイが使えるようになったら買う』といった声があった」と語り、spモードという形で、既存サービスをスマートフォンにも展開したのはユーザーのニーズに応えたこと、とあらてめて説明した。

辻村副社長

 ただ、今後のメールシステムについて問われた辻村氏は「重要なテーマ。いわゆるキャリアメールはスマートフォンに乗り換えた後も引き続き提供すべきと考えているが、その一方で、たとえば米国ではFacebookが利用され、メールを使わない形になってきている」と述べ、全体の動向を見ながら、検討を進めるとした。

 さらに、「見通しの甘さ」が25日の障害の原因とされたことに関連し、スマートフォン時代を迎えながら過去の常識に囚われていたのではないかと問われると、山田氏は「障害を起こし、認識が甘かったのは事実。我々としてはトラフィック対策をしっかりやってきたと思っていた。制御信号は、これまでわずかな数値で無視してもよいものだったが、急激な伸びが掴めなかった。韓国も大変と聞いていたが故障がどの程度か掴めていなかった。いかに対策していくか、しっかり考えたい」と語った。

モバイルならではのアプリを

 スマートフォンのトラフィック、特に制御信号の増加が課題となる中で、その大部分を占めるアプリについては、辻村氏が「グーグルとも話を始めているが、アプリ開発者・提供事業者と連携して進めたい。ドコモだけでできることではなく、海外の通信事業者と協調し、アプリ提供者側へメッセージを出したい」とする。

 スマートフォンはパソコンと同じ、とする辻村氏は、アプリ開発者へぜひ理解して欲しいこととして「VoIPを悪者にしているつもりはない。スマートフォン上のVoIPアプリは、常に“こちらは生きている”とPingと呼ばれる信号を数分に一度出す。有線ネットワーク(固定網)では、そうしたデータをどれだけ流しても問題ないが、無線は繋ぎっぱなしになると足りなくなる。そのためセッションは続いているが、無線通信としては毎回切断し、通信するたび接続しなおしている。こうした有線と無線の違いはぜひ理解いただきたい」と述べた。具体的にどういった仕組みになるか、まだ定まっていないが、辻村氏は、GSMA(世界の携帯電話事業者の業界団体)などを通じて、アプリ開発側へ何らかのメッセージを出したいとした。

料金値上げはなし

 このほか、これまでの計画と比べ、新たに500億円を追加し、障害対策の投資にあてることが示された。計画では2014年度までにspモードシステムで400億円、パケット交換機で1200億円投資することになっているが、このうち今回の障害対策による新規分がそれぞれ150億円、300億円となっている。さらに当面の対処費用として40億円かかるため、その合計が約500億円という見積もりになる。このうち、パケット交換機の300億円については2/3がLTE向けになる。

 新たな投資がかさむことになるが、山田氏は料金値上げは行わない方針を示した。また販売奨励金を下げて投資にまわすという考え方については、「奨励金は他社との競争上の施策で増減がある。一方、インフラをしっかりするのは、我々の責任で、しっかりやっていきたい」と述べ、両者を混同しないとした。




(関口 聖)

2012/1/27 14:03