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ソフトバンクの空飛ぶ基地局、地上の端末に向け電波を"狙い撃ち"可能に

 ソフトバンクと、同社の子会社であるHAPSモバイルは、成層圏から通信ネットワークを提供するプラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」による安定した通信エリアと、品質の高い通信ネットワークの実現に向けて研究を進めている。

 今回、両社は「シリンダーアンテナ」や「回転コネクター」などに関する最先端技術の取り組みを明らかにした。

シリンダーアンテナを利用したデジタルビームフォーミングで通信エリアを固定

 HAPSモバイルが開発を進める、HAPS向け無人航空機「Sunglider(サングライダー)」は、成層圏で旋回飛行しながら地上に向けて通信サービスを提供する。

 このとき、機体の旋回によって地上に形成される通信エリアが移動してしまう課題がある。この課題に対して、シリンダー形状の多素子フェーズドアレイアンテナ「シリンダーアンテナ」を利用し、地上の通信エリアを固定する技術の研究開発を進めている。

シリンダーアンテナ

 この技術は、デジタルビームフォーミング技術により、機体の旋回に合わせて電波の向きを変えることで地上の通信エリアを固定させるもの。シリンダーアンテナは、円周方向および鉛直方向にアンテナ素子が配置され、これらの素子を別々に制御することで、任意の方向に対して3次元的なビーム制御が可能になる。

 無人航空機の機体の向きの変化のほか、機首の上げ下げ、旋回時の主翼の動き、上昇や下降などあらゆる機体の動作に対応し、成層圏で飛行する無人航空機から地上の通信エリアを固定できるという。

シリンダーアンテナを利用した通信エリアの自動最適化

 HAPS用無人航空機は、1機で最大200kmの広域なエリアがカバーできる。シリンダーアンテナを利用したデジタルビームフォーミング技術により、ビーム形状および方向制御技術を活用すると、人口密度や通信トラフィックが高いエリアにビームを集中でき、端末それぞれの通信速度を向上することでネットワーク効率を高められる。

エリア自動最適化イメージ

 たとえば、災害やイベントなどにより通信エリア内のユーザー分布が変化した際は、必要な場所に向けてビームを集中させるなどの対策が打てるようになる。同技術の研究成果が評価され、2021年3月には電子情報通信学会より「学術奨励賞」を受賞している。

Massive MIMOによる通信の大容量化

 HAPSの商用化に向け、通信エリアの拡大とあわせて通信の大容量化が求められる。そこで、シリンダーアンテナによるデジタルビームフォーミング技術を活用し、5Gで使用されるMassive MIMOを使用することで、通信容量の拡大に向けて研究を進めている。

 シリンダーアンテナは、Massive MIMOで一般的に利用される平面アンテナよりも広域のエリアをカバーでき、均一な通信品質と大容量化を実現可能という。この研究成果は、2021年5月に電子情報通信学会より「奨励賞」を受賞している。

エリア拡大イメージ

回転コネクターによる通信エリアの位置安定化

 成層圏から地上に安定した通信を提供するためには、通信エリアの位置を固定させることが重要である。無人航空機は、成層圏で旋回するため機体の旋回アンテナとともにアンテナの向きが移動する。

 これによって固定した通信エリアが確保できず、安定した通信を提供することが難しくなる、ムービングセル問題が発生する。この問題を解決するために、もう一つのフットプリント(地上の通信エリア)固定技術として、回転コネクターを開発した。

回転コネクター

 回転コネクターは、機体の通信機器(ペイロード)内にある無線機と、通信アンテナの間に配置され、それらをつなぐケーブルの接点が無限に回転することで、機体が旋回しても通信アンテナの向きを固定できる装置。

 この装置を活用することで、ケーブルのねじれを解消できるとともに、複数の無線機とそれぞれ対になる複数のアンテナを搭載する場合にも通信アンテナの向きを固定できる。通信アンテナの向きを固定することで、ムービングセル問題を解決し、安定した通信サービスが提供できるという。