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ドコモ完全子会社化に危機感、KDDIとソフトバンクと楽天らが意見書を提出

 KDDIとソフトバンク、楽天モバイルなど電気通信事業社28社は、NTT(持株)によるNTTドコモの完全子会社化に関して、意見申出書を総務大臣に提出する。

 同社によると、同意見書は、NTTによるドコモの完全子会社化が、NTTの一体化、NTTの独占回帰につながり、公正な競争環境が失われることで、利用者利益を損なう恐れがあり、公正な競争環境整備を求める要望となる。

 意見書を提出するのは、KDDIやソフトバンク、楽天モバイル、沖縄セルラーなどのMNO事業者のほか、オプテ―ジやQTnet、ソラコム、ビッグローブ、LINEモバイルなどのMVNO事業者や、UQコミュニケーションズなど28社。このほか、ジュピターテレコムなど9社が趣旨に賛同している。

KDDI 理事 渉外広報本部 副本部長 岸田 隆司氏

 会見では、37社を代表してKDDI 理事 渉外広報本部 副本部長の岸田 隆司氏とソフトバンク 渉外本部 本部長 渉外担当役員代理 松井 敏彦氏、楽天モバイル 執行役員 渉外部長 鴻池 庸一郎氏が登壇し、KDDI 岸田氏が代表して同意見書の趣旨を説明した。

ドコモ分離の経緯

 ドコモは、そもそもNTTより移動体通信事業を分離する形で1992年に分社した会社。巨大なNTTの在り方に関する政策的議論を経て分社化したもので、NTTという巨大企業から「『資本的な支配』や『ボトルネック設備(光ファイバー網など)』から切り離すドコモ分離」で、NTTグループと競争事業者との公正競争が求められてきたという。当時は、「出資比率の低下」と「完全民営化」によって資本的な支配を切り離すことになっていた。

 また、NTTはその後1999年に「NTT(持株)」と「NTT東西」、「NTTコミュニケーションズ(NTTコム)」に分離分割するが、当時の答申では持株会社を持たずに双方が独立し、互いに競争する関係を構築するというものであった。しかし、蓋を開けてみると持株会社が存在することとなったため、禁止行為規制を設けて公正な競争環境整備を図ってきたという。

 今回、ドコモがNTTの完全子会社化となることで、1999年当時の審議会の答申に逆行する形となる。

NTT法に定める事業内容

 NTT法では、NTT(持株)の目的と事業内容を定めており、NTT東西の株式保有や助言、電気通信技術に関する研究の実施が挙げられている。ドコモの完全子会社化は、そもそもNTT法で定める事業内容にそぐわないものではないかと指摘する。

 ドコモとNTT東西が資本的につながることで、事実上巨大な市場支配力を持つNTT一体化につながることとなり、ドコモ完全子会社化の会見であった「NTTコムなどのドコモグループ入り」が実行されれば、更に市場支配力が増大するという。

競争政策の反故「公開の議論で審議するべき」

 これらの公正な競争環境整備のための政策を反故にし、ドコモを完全子会社化するのであれば、「NTTの在り方に係る政策的措置」や「公正競争要件」などの競争政策を見直す必要がある。環境変化に応じて競争政策を見直すのであれば、まずは検証し必要な競争政策について議論しなければならないと指摘する。

 これまでのNTTの在り方についての措置は、審議会での政策議論を踏まえて実施されてきたものであり、審議会の延長線上で今後の在り方を議論するべきとし、競争環境の変化を理由に“なし崩し的に”完全子会社化を認めるわけにはいかないとしている。

環境変化に応じた競争ルール作り

 5G通信を支えている光ファイバーは、今後繊密な基地局展開でより多くの光ファイバーが必要となる。光ファイバーの設備シェアは、NTT東西が約75%のシェアを持っているという。また、民営化前の電電公社から継承した全国の電柱や全国約7200の局舎を保有しており、これらのボトルネック設備を保有するNTTグループが、5G時代においてはこれまで以上に優位性を持つと指摘する。

 公正な競争環境を構築するためには、NTT東西のボトルネック設備を、NTTグループ(ドコモ)と競争事業者で“完全に”同等な条件や環境で利用できることが必要だという。

 たとえば、接続卸料金について、ドコモと他社に全く同じ料金で提供していても、卸料金自体が高ければ、公正な競争環境ではないという。ドコモはNTTの完全子会社であるため、卸料金が高くなっても全体の収益には影響しない(グループ間でお金が動くだけ)だが、他社は業績に直結する。

 また、提供時のインターフェースなどがNTTグループに有利なもので提供されていると、外見上では同一条件を確保できていることになるが、実質的な同等性を担保できない可能性があると指摘する。

 これに関して、ソフトバンクの松井氏は、NTTは公平性を担保するというが、実効性に疑問があるとし、現状よりももう一歩踏みこんだ何らかの措置を議論で決めていかなければならないとコメント。

 また、楽天モバイルの鴻池氏も、「基地局設置においてNTTの光ファイバー網をお借りしているが、接続料金の高止まりは、新規参入事業者にとって公正な競争環境を阻害されかねない」と指摘した。

66が100になることへの危機感

 同会見では、NTTグループ以外の電気通信事業者がドコモ完全子会社化への危機感を示した形となった。

 現在でも、ドコモ株式の約66%をNTT(持株)が持っており、一定の支配力が働いている。しかし、この保有率が100%になることで、一般の株主や市場を意識することなく「持株会社の意思や考えに基づく経営方針」に舵を切ることになる。

 本来であれば、NTT(持株)が保有するドコモ株式を段階を経て売却し、ドコモの完全民営化となるべきだが、元の鞘に収まる格好となり、再び巨大なNTTグループが市場を支配するのではないかという危機感を感じ取れた。

 同意見書を提出した各社は、現段階でTOBを止める手段は持ち合わせていないとし、同意見書では「公開の場での議論」と「環境変化に応じた競争ルールの整備」を求めていくことになる。

 「競争ルール」に関しては、「NTT東西の光ファイバーなどのボトルネック設備の利用に関する、NTTグループと競争事業者間の完全な同等性の確保とルールの厳格な運用」と、「NTT東西とドコモの一体化を明確に禁止する」などを求めていくという。