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海底ケーブル工事の最新鋭シップ「KDDIケーブルインフィニティ」に潜入

 沖縄セルラーは、沖縄と鹿児島を結ぶ新たな海底ケーブルの敷設工事を開始した。20日、起工式が行われるとともに、工事を担うKDDI子会社の国際ケーブル・シップ(KCS)の新造船「KDDIケーブルインフィニティ」の内部が初めて公開された。

KDDIケーブルインフィニティ

 沖縄~鹿児島間の海底ケーブル(760km)は2020年3月竣工、同年4月から商用サービスが提供される。

災害対策としての海底ケーブル

 これまでも、沖縄と本州方面を結ぶKDDIの海底ケーブルは、宮崎県へ繋がるルートと、三重県に繋がるルートの2つがあった。

 ただ、そのどちらも東側、つまり太平洋側に敷設されたもの。そこで新たな海底ケーブルは、西側のルートを選択し、冗長化が図られることになる。

 沖縄セルラー代表取締役社長の湯浅英雄氏は「九州と沖縄を結ぶケーブルが東側に集中しているため、南海トラフ地震があれば全断しかねない。通信面で孤島になるリスクを回避する目的で、西側ルートの決断をした」と語る。

湯浅社長

 実際に、2011年の東日本大震災では、千葉沖に敷設されていた海底ケーブルが地滑りによって15kmずれるということもあった。また沖縄セルラー技術本部長の山森誠司氏によれば、2018年9月には、台風により、与那国島と波照間島、宮古島と石垣島を結ぶ海底ケーブルに被害が生じ、通信障害に繋がった。

 過去の災害を教訓に、今後に向けた対策として、沖縄~鹿児島間で、東シナ海側を通る海底ケーブルが敷設されることになった。敷設ルートは最も深いところで深度200m程度。いわゆる大陸棚で、安定した地形のルートになるという。

5G時代に向けた側面も

 新ケーブルを用意するもうひとつの理由は、2020年に5Gサービスが正式にスタートするということ。今後、IoTの拡がりで爆発的なトラフィックの増加が見込まれており、新たな海底ケーブルは、80T(テラ)bpsという能力で、これまでの8Tbpsから10倍に増強され、沖縄と本州間の通信を支えることになる。

 KDDIグループとしても、沖縄と鹿児島の間の工事は20年ぶり。事業主体となる湯浅社長は「10年に一度あるかないかの工事。沖縄本島と離島の工事も、国や県の主導で進められたが、今回は民間、それも沖縄ローカルの事業者によるもので、非常にまれ」と、沖縄に拠点を置く企業がリードする意義を語る。

総務省の杉野氏

 総務省 沖縄総合通信事務所の杉野勲所長は「通信サービスは生活を支えるインフラ。これまで(沖縄と本州を結ぶ回線は)8Tbpsだったが、今回はその10倍。5Gサービスを十分活かす容量が確保される。東シナ海側のルートでもあり、いざというときに切断されない通信。工事自体は短期間のように思えて非常に驚いた。新造のKDDIケーブルインフィニティも含め、着実に巨大なプロジェクトが進められてきている。沖縄経済は75カ月続けて拡大しているとのことだが、ICTはさらなる成長に繋がる」と挨拶した。

陸揚局
陸揚げの様子

KDDIケーブルインフィニティ

 KDDIの海底ケーブル敷設船として、4隻目になる「KDDIケーブルインフィニティ」は、2019年9月から運用が開始されたばかりの新造船。今回、メディア向けに初めて公開された。

 全長113.1m、幅21.5m、総トン数9776トン、通常の航海速力は12ノットで、約5000kmの海底ケーブルを敷設できる。最大80名まで、50日以上活動できる。360度回転できる特殊なスクリューを備え、ケーブル敷設中も、より細かく船体を制御できる。

ブリッジ
スクリューの制御装置

 現在地を正確に測位できるよう、D-GPS方式の採用で、ピンポイントの精度でケーブルを敷設できるようになったことや、ケーブルを下ろすエンジンのスペックアップなどにより、従来よりも2割ほど速く海底ケーブルを敷設できるようになった。

デジタル化された海図
船内の様子をブリッジ内のモニターでチェック
機関の様子もわかる
船内各所のカメラが捉えた映像もブリッジで確認できる

 海底ケーブルは、人力で運び込まれ、船内にあるケーブル格納庫(回転するバスケット型)に収納される。実際に敷設する際には、フロアを縦断して船尾にまでケーブルが通じ、リニアケーブルエンジンで船尾からケーブルを送り出し、滑車で海底へ下ろされ、敷設されていく。

ケーブル格納庫。直径16m
青い網がかかっている部分は、下のフロアに通じる穴。通信ケーブルがここを通っていく
ケーブルが通るフロア
ケーブルを送り出す装置。バックテンションを掛けながら送り出す
この装置でケーブルを左右に自動で動かす
埋設する際には、この黄色い埋設機が活躍する
埋設機を担ぎ上げて船外で出すAフレームと呼ばれる装置
ケーブルを出す船尾の滑車
銀色のシートをかぶせられた中継装置。ケーブルとケーブルを繋ぐもので、温度管理のためにシートをかぶせられている

 深度200m程度より浅い場所や、漁船の往来が多い場所などでは、ケーブルを海底へ埋めて敷いていけるよう、プロウと呼ばれる専用の埋設機を海中に下ろし、鋤で海底を耕すようにして、ケーブルを置いていく。プロウは海底からさらに3m程度まで掘削できる。

埋設のイメージ

 今回の工事では760kmを結ぶ予定で、そのケーブルを「KDDIケーブルインフィニティ」へ積み込む際には、人力で作業し、2週間程度の期間がかかった。

 KDDIケーブルインフィニティ船内には、敷設するケーブルに問題がないかテストする施設、あるいは大規模災害時に海上から携帯電話のサービスエリアを構築する「船舶型基地局」のアンテナが用意されている。

洋上での活動するためのボート
最大80名乗れる救命艇
テストルーム
サンプルの海底ケーブル。今回は8芯のものが採用されている

ケーブル故障を修理する方法

 KDDIケーブルインフィニティのような海底ケーブル敷設船の主な仕事は、新たなラインの設置に加えて、既存ケーブルが故障した場合の修理も含まれる。世界中の事業者が、それぞれ担当エリアを分けて工事を担っているとのことで、KDDIは「Yokohama zone」と呼ばれる日本近海および太平洋の日本方面を担当している。

 ではどういった場合にケーブルが破損するのか。たとえば、陸地に近い場所であれば、台風がやってくると川から大量の土砂が海へ流れ込み、それに海底ケーブルが壊されることもある。

ROV
ROVのカメラ
ROVをクレーンで船外へ

 故障が発生した場所を突き止めるには、まず陸揚局(海底ケーブルが陸上へ上陸している場所の施設)から、海底ケーブルへ電流を流す。それによって発生する磁力をもとに、KDDIケーブルインフィニティに搭載される海中作業用ロボット(ROV)が探索し、損傷した場所を割り出す。

 故障した場所の手前でいったんケーブルを切断。故障していないケーブルをアンカーにひっかけて海上へ浮上させ、ブイを取り付けていったん放置する。

 もう一方の海底ケーブルも同じような手順で引き上げ、故障している部分を切り離す。その後、先に海上へ持ち上げていた海底ケーブルを船内に引き入れ、故障した部分をカットしたケーブルとあらためて繋ぎ直す。

 場合によっては埋設することもあり、埋設まで含めると、復旧作業は5日程度かかるという。そうした故障は年間20~30回程度発生。主に東シナ海で、200mより浅い場所での故障が多いという。

 新設・故障対応のほか、大規模災害時の船上基地局といった機能を持つKDDIケーブルインフィニティ。さらに電力ケーブルの敷設にも対応しており、2023年ごろと見込まれる洋上風力発電所の建設でも活躍が期待されている。