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デュアルSIM発表に興奮~アップルのイベントから見える未来

来年は第4のキャリアからも?

 9月12日(米国時間)に開催されたアップルのスペシャルイベント。スティーブ・ジョブズシアターでプレゼンを取材していたが、会場で思わず声を出してしまったのがiPhoneの「デュアルSIM」を発表した瞬間だった。

 フィル・シラー副社長は新型iPhoneがeSIM技術を用いて、2つの番号を持ち、同時待ち受けができる「DSDS」に対応するとした。

 世界的に販売されるのは、eSIMを内蔵しつつ、これまで通りにnanoSIMカードスロットが備わったiPhone XS、iPhone XS Max、iPhone XRとなる。ただし、中国や香港では、nanoSIMカードが2枚入るiPhone XS Maxが販売される。

 eSIMで契約できるのはベライゾン、ボーダフォン、AT&T、Tモバイル、ベル、EEなど、世界でも一部のキャリアしか対応しない。残念ながら、日本のキャリアのロゴを発見することはできなかった。

 ちなみに、KDDIによれば、「日本でどのように展開されるのかこれから議論となる。販売端末は他社と同じで、アップルのいうDSDS機能は具備しており、SIMロックを解除すればそれに対応するキャリアの回線は利用可能。当社自身が取り扱うかは詳細が決まり次第ご案内する」(広報)とのことだった。

 ソフトバンクは「提供予定だが時期は未定」(広報)と語るが、本格的な検討はこれからのようだ。また、NTTドコモは「(自社・他社iPhone向けに)eSIMを提供することについては、ユーザーのニーズや反応を見極めながら検討していきいく」(広報)との回答だった。

来年は第4のキャリアからもiPhone登場?

 アップルが発表したキャリア一覧のなかで注目は「Jio」という会社だ。Jioは2016年9月に参入したばかりのインドのキャリアだ。わずか1年半で市場シェアで15%で第4位で、契約者数は2億人を突破しているという。

 そのネットワーク責任者だったのが、タレック・アミン氏で、元々はアメリカのTモバイルやファーウェイでの経験を持つ人物だ。なぜ、タレック・アミン氏の名前を出したかと言えば、今年になって、楽天がCTO(最高技術責任者)として引き抜いたばかりなのだ。

 アップルのeSIM導入に積極的なJio。そのネットワークをよく知る人物が楽天モバイルネットワークに参加したとならば、「楽天でもeSIM」という期待をしたくなる。

eSIMに積極的なアップル

 これまでもアップルはeSIMを積極的に取り入れてきたメーカーと言える。

 iPad ProではSIMカードスロットとは別にApple SIMを内蔵。海外渡航時に安価なプランを契約できる。Apple Watch Series 3のセルラーモデルでもeSIMを採用し、iPhone経由で、キャリアのプランに加入できるようになっている。

 iPhone XS、iPhone XS Max、iPhone XRはeSIMとSIMカードスロットというiPad Proと同等の組み合わせだが、フィル・シラー副社長は「Apple SIM」という言い方はせず「eSIMテクノロジー」と言っている。この場合、アップル独自技術かも知れないし、GSMAの標準技術ということも考えられる。

 もし、後者だった場合、日本でeSIMに積極的なIIJ(インターネットイニシアティブ)のサービスを使える可能性が出てくる。IIJ広報部技術広報担当の堂前清隆氏は「IIJはフルMVNOとしてeSIMへの対応を進めている。現在、IIJが着手しているのは、GSMA標準のRSP(Remote SIM Provisioning) Phase 2に相当する技術で、この標準規格に則った機器で動作することを確認している。iPhone新機種について、eSIMが搭載されていることがAppleから発表されたが、このeSIMについての詳細は公表されておらず、現在IIJが手がけているeSIM技術がiPhone新機種のeSIMに適合するかについて、現時点で判断することはできないと考えている」とのことだった。

 ちなみに筆者の調べでは、アップルのiPhoneはGSMAに準拠しているようだ。

デュアルSIMのメリット

 そもそも、デュアルSIMになることで、どんなメリットがあるのか。フィル・シラー副社長はデュアルSIMにより「2つの電話番号を持て、2つの異なるプランを利用できる。海外旅行に行った際、自分の番号を維持しつつ、現地のSIMカードでデータ通信ができる」という点をアピールしていた。

 eSIMを採用することで、例えば、新品のスマホを開封し、起動させ、カメラでQRコードを読み込めば、キャリアのサイトに飛び、オンラインで契約作業を進めるといったことも可能になると言われている。設定メニューから、接続先のキャリアを自由に変更するということも不可能ではない。

 確かに、中国などでは安価な料金プランを使うため、複数のSIMカードを持つのが当たり前となっており、デュアルSIMのスマホやケータイが人気という背景がある。日本でも、音声通話定額のキャリア契約と、データ通信料金の安いMVNOを組み合わせ使うという方法が考えられる。

 しかし、最近ではキャリアの料金プランも多様化されており、50GBでカウントフリーの大容量プランから、1GBから小刻みに使えるプランまで揃っている。わざわざキャリアとMVNOの2つの契約して、一つのスマホで使うというのに、どれだけの価値があるか未知数なところもある。

 「海外で現地のSIMカードで安価に通信ができる」といっても、これまた最近はNTTドコモやKDDIが24時間980円で、海外ローミング時に国内のデータ通信量を使えるサービスを強化するなど、必ずしも海外の現地SIMカードを使わなくてもいい状況になりつつある。

 もう少し早くiPhoneがデュアルSIM対応してくれれば、いろいろと面白い状況になったように思うが、キャリアの料金プランが増え、海外ローミングも充実したことで、デュアルSIMの活用場面が少なくなりつつある。

キャリアや他のメーカーはどう対応する?

 アップルのスペシャルイベントを取材したのち、ホテルに帰ると、エレベーターホールでKDDIの高橋誠社長に偶然遭遇した。高橋社長から「新しいiPhone、どの機能が気になった?」と聞かれたので、「もちろんDSDSです」と即答したら、高橋社長は一瞬苦笑いし、「いずれかのタイミングで、きちんと説明するから」と言って、エレベーターを上がっていった。

KDDIの高橋誠社長(左)とNTTドコモの吉澤和弘社長(右)
ソフトバンクの榛葉淳副社長

 先日、グーグルが10月9日に発表するであろう新製品のスマホ「Pixel 3」が、NTTドコモとソフトバンクで扱われるという報道があった。筆者も同様の情報をつかんでいるのだが、Pixel 2はすでにeSIMに対応し、デュアルSIMとして使えるスマホになっている。

 つまり、NTTドコモもソフトバンクも、新型iPhoneに続き、Pixel 3を導入するタイミングでも、eSIMやデュアルSIMへの対応を迫られるということになる。

 サムスン電子やソニー、シャープなど、キャリアの意向に沿ってスマホを作るメーカーであれば、キャリアが嫌がりそうなデュアルSIMなどの対応はして来ないだろう。しかし、アップルやグーグルと言ったキャリアの意向を聞かない企業が、今まさにキャリアにeSIMやデュアルSIMを強制し始めている。

 果たして、アップルやグーグルによって、日本のキャリアがeSIMやデュアルSIMを当たり前のように扱うようになるのか。今後、状況は一変するかも知れない。

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