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KDDI、「船舶型基地局」初運用の裏側

 KDDIは、北海道胆振東部地震に伴い初めて商用運用した「船舶型基地局」を報道関係者向けに公開した。

「船舶型基地局」を運用したKDDIオーシャンリンク
左側にあるKDDIとauのロゴが入ったドーム状の設備が衛星通信用のアンテナ。右側にあるグレーの筒がサービス用アンテナ

 今回、船舶型基地局として活躍したのは海底ケーブル敷設船「KDDIオーシャンリンク」。同船を保有するグループ会社、国際ケーブル・シップ(KCS) 取締役 運航部長の皆田高志氏によれば、通常は切断された海底ケーブルを修復する業務を担っている船だが、2017年2月より災害時に船舶型基地局として稼働できるように通信用の衛星アンテナが設置された。

 携帯電話端末と通信するためのサービス用のアンテナや制御装置など、その他の通信機材は可搬型となっており、その都度船内に運び込んで設置する。今回の対応では、KDDI側のスタッフ8名が担ぎ込む形で搬入し、設置したという。通信機材は800MHz帯用のもので、3Gと4Gをサポートしている。

衛星通信用のアンテナは常設。中にパラボラアンテナが収納されている
サービス用アンテナは仮設。2本のアンテナで扇状のエリアを作る
制御装置も可搬型
3Gと4Gをサポートする

 KDDI グローバル技術・運用本部 グローバルネットワーク・オペレーションセンター 海底ケーブルグループ グループリーダーの矢島一巨氏によれば、KDDIオーシャンリンクに出動指令が出たのは、9月6日11時40分。同日18時には横浜港を出港し、苫小牧港に向かった。

 当初の計画では、苫小牧港で船舶型基地局を稼働させる予定だったが、航行中に現地の電力が復旧したため、苫小牧港には入らず、9月8日14時の時点で日高沖に停泊。同日19時43分から沖合い約10kmの地点からむかわ町と日高町の沿岸地域約20kmのエリアをカバーする形で電波を発射した。

 実際に乗船して対応に当たったKDDIのスタッフによれば、サービス用アンテナは10mほど伸ばせるようになっており、無風であれば船の高さと合わせて30mほどの高さから電波を発射できるが、今回は風が強かったことと、そこまで高さを出さなくとも十分にエリア化できると見込んで伸長せずに運用したという。

 また、1本のアンテナでカバーできるのは120度ほどの角度。今回は2本のアンテナで約240度を扇状にカバーした。陸上では簡単に思えるこうしたエリア作りも、波がある海上では難しい。KDDIのスタッフは船の向きが変わる度にコンパスを見ながらアンテナの角度を手動で微調整していたという。

 KDDIオーシャンリンクの船長を務める鈴木昭一氏によれば、船舶型基地局を運用する際には可能な限り船を同じ場所に制止させておく必要があり、これが難しいのだとか。今回、電波を発射した場所も通常の航路とは異なり、周囲の漁具に注意しながらアプローチする必要があり、これも大変だったという。

KDDIオーシャンリンク 船長の鈴木昭一氏
KDDI グローバル技術・運用本部の矢島一巨氏(左)と国際ケーブル・シップ 取締役 運航部長の皆田高志氏(右)
今回のプロジェクトに参加したKDDIスタッフ

 その後、陸上基地局の復旧が進んだため、9月11日8時半で船舶型基地局としての役目を終え、苫小牧港に入港。横浜で積んだ水、パン、五目ごはん、発電機といった約3トンの支援物資を下した。

船舶型基地局の運用を終え、水、パン、五目ごはん、発電機といった約3トンの支援物資を苫小牧港で下した

 実は船長の鈴木氏は出身が根室とのことで、「緊急で出港してきたのでバタバタした感はあるが、何とか来られてよかった。こうした機会はあって欲しくないが、何か災害があれば協力できればと思う。時間があまり無い中で支援物資をどのくらい届けられるのか分からなかったが、少しでも届けられてよかった」と語る。

KDDIオーシャンリンクに搭載された「MARCAS-IV」
遠隔操作で海底で作業を行う
2つのアームでケーブルなどを掴む

 今回の地震では、KDDIが船舶型基地局を初運用したほか、NTTドコモも大ゾーン基地局を初めて運用した。ライフラインの一つとして重要度が増している携帯電話網を災害時にいかに維持するか、通信事業者の努力が続いている。