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「Ingress Prime」で何が変わる? ナイアンティックが秘める狙いとは

 ナイアンティックがAR活用の位置情報ゲームの新バージョン「Ingress Prime(イングレスプライム)」を2018年にリリースする(※関連記事)。

Ingress Primeの画面。中央下部にあるロゴからメニューを呼び出せる

 2016年~2017年にかけて「Pokémon GO」が大きな話題を呼び、さらには「ハリー・ポッター」を題材にしたARゲームの開発も発表されており、同社の「人を動かすゲーム」にはまだまだ高い注目が集まる。ナイアンティックにとっては、2012年から提供されてきた「Ingress」は、ARゲームの拡大に大きく貢献した作品であり、世界中に分布するさまざまなスポットを、ユーザーの手を借りてデータ化する仕組みそのものだ。次世代の作品として登場する「Ingress Prime」はどのような仕上がりになるのか、そしてそこに込められた想いとは何だろうか。

Ingress Prime、まずはグラフィックを大幅変更

 「Ingress」は、XM(エキゾチックマター)と呼ばれる謎の物質を巡るSF作品でもある。欧州で発見されたXMは、人に大きな影響を与えることが判明し、ユーザーはその性質から人々を守ろうとするレジスタンス陣営(RES、青)か、人の進化を目指すエンライテンド陣営(ENL、緑)のどちらかに属す“エージェント”として活動する。エージェントとしての活動に欠かせないのがストーリー上、“スキャナ”と呼ばれる道具になり、そのスキャナはスマートフォンアプリである「Ingress」そのもの。仮想世界のアイテムが、アプリストアを通じて現実世界へ流出した格好で、仮想と現実の境目を曖昧にしている。

 今回、実機を使った「Ingress Prime」のデモンストレーションが国内のメディアにも公開された。

【「Ingress Prime」操作画面(無音)】

 「Ingress Prime」は、別アプリではなく、これまで提供されてきた「Ingress」のメジャーアップデートとして提供される。ユーザーのアカウント情報は従来のものがそのまま利用でき、実績やレベルを引き継ぐほか、ゲームルールは従来を踏襲するという。ナイアンティックアジア統括本部長の川島優志氏によれば、ナイアンティックのUXデザイナーである石塚尚之氏が「Ingress Prime」のUXデザインをリード。これまでの無骨なデザインからモダンなデザインへと一新された。

Ingress Primeのエージェント(プレイヤー)情報画面。従来版とほぼ同等だ
現在のバージョン(左)と新バージョン(右)

 たとえば街中を歩いている際、マップを一望する画面は従来の平面的な描写から、高さを表現するものも加わることになった。カーナビなどのバードビューのように奥行きのある画面もあれば、ピンチイン/アウトすることで平面的なマップと切り替えられる。またPokémon GOと同じように指一本で地図を回転できるようになった。

【「Ingress Prime」マップ操作画面(無音)】

 画面下部の中央にはIngressのロゴマークがあり、スマートフォンのホームボタンのように、ロゴをタップすればスキャナとしてのメニューが開く。そのメニューは「インベントリー(アイテム一覧)」、「アタック(攻撃)」、「Comm(ゲーム内チャット、ログ)」で、右上に設定やストア、オプションが並ぶ。ポータルにズームインするとそのポータルの写真が浮かびあがる。

マップのビューを俯瞰にしたところ
バースターを撃つ場面
ロゴをタップしてメニューを開いたところ

 インベントリーの画面では、ストアやポータルキーが別メニューとして用意されている。石塚氏は「ポータルキーがインベントリーを圧迫している」と別メニューとして分けた理由を挙げるが、インベントリー内の上限(アイテム2000個)とポータルキーが別になるのかという説明は行わなかった。

インベントリー画面

 街中のアートや公園などがゲーム中に登録されたスポットである「ポータル」をタップすると、ハックボタンが画面下部に表示され、その脇にリチャージボタンやデプロイ(ポータルを占拠するためのアイテムであるレゾネーターを配置する行為)ボタンが表示され、利用頻度が高いアクションをすぐ利用できるようになった。

ポータル画面

 ハックボタンをフリックすると、グリフ(より多くのアイテムを得るための一筆書きゲーム)や、ポータルのキー(鍵)をより多く得る、あるいはキーをもらわないという選択肢が表示される。デプロイするときには、最初期の「Ingress」のように、レゾネーターをぐるりとカルーセルで回して選ぶ。Mod(ポータルを強化するアイテム)は従来通り4つインストールできる。

 ポータルとポータルを繋ぐ、つまりリンクする際には、俯瞰するビューへと切り替わる。この際、プレビューの線が黄色で表示され、ユーザーが思っていたラインかどうか事前に確認できるようになる。

 自分のレゾネーターを挿したポータルへ攻撃があると、画面右下にアラートが表示される。

2018年の早い時期、まずはクローズドベータか

ナイアンティックの川島氏

 Ingress Primeは現在、専用サイトがオープンしており、メールアドレスを登録すればニュースレターが配信されるようになる。

 川島氏は、「全速力でやる。できるだけ早く出したい。当初はクローズドベータかもしれない。その場合は、2018年のできるだけ早い段階で出していきたい」と意気込む。

 今回、報道陣に披露されたバージョンは、まだグリフハックやストアなどは披露されないままだった。こうした機能がまだ開発途上ということであれば、ユーザーが実際に体験できるようになるまで、もう少し、時間が必要なよう。

 ちなみに現在のIngressのアプリと「Ingress Prime」は、一定の期間、両バージョンが並列する可能性があるものの、バージョンアップとして、いつか「Ingress Prime」へと正式移行する方向になるようだ。

新バージョンで大きく変わることは

 今回のデモンストレーションはここまでで終わりとなり、グラフィックの変更に関する説明が中心だった。ゲームデータは従来版Ingressと同じで、ゲームルールも同じという。これだけではインターフェイスが変わるだけと思われるかもしれない。

 だが、新バージョンが開発された最も大きな狙いは、ナイアンティックのフラッグシップに位置づけられる「Ingress」の開発環境やサーバー周りなどを一新することにあった。

 5年前、ナイアンティックはグーグル社内の一部門だった。当時の環境から「サーバーも、クライアントも非常に贅沢な作りだった」と川島氏。今回、ポータルキーの一覧でポータルの写真もあわせて表示されるようだが、通信量は抑えるなど、現代的なアプリとして刷新されることになる。

ナイアンティック日本法人の村井氏

 Pokémon GOと同じくUnityを活用することで、今後の機能追加に必要な開発期間も非常に短くなると川島氏。ナイアンティック全体として、効率的にアプリ間でデータを共有できる仕組みになるとのこと。たとえばPokémon GOでは川など地形によって出現しやすいポケモンが異なる仕掛けが用意されているが、必要に応じて、ナイアンティックが手がける他のアプリの要素がIngress Primeへ導入することがこれまでよりも容易になるという。

 川島氏は「Ingressの存在意義は、ナイアンティック製品のコアだけではない。最前線にいるような、いろんな実験、いろんな試みができるということにある。サーバー部分が最も新しくなることで、挑戦的なことができる準備が整った」と意欲を見せる。

 ナイアンティック日本法人社長の村井説人氏も「ナイアンティックのチャレンジを見て欲しい。未来の開発に注力できるバックエンドに変わった。Ingressはフラッグシップになるサービスだと認識している。新しいチャレンジをしていきたい」とその意義をアピールした。

熱いコミュニティに支えられるIngress

ナイアンティックの須賀氏。2018年1月~2月ごろ、米国本社勤務になるという

 ナイアンティックでアジア統括マーケティングマネージャーを勤める須賀健人氏は、ここ最近、Ingress Primeの開発に注力していたため、現在のIngressには大きなアップデートができなかった、と説明。それでも、約1カ月前の2017年11月、大阪で開催したIngressの世界大会(EXO5大阪)には約6000人のユーザーが参加したことから、アップデートがなくともイベントで帰ってきてくれる、参加してくれるユーザーがいることが「大きな驚きだった。こんな素晴らしいコミュニティに恵まれているゲームは、他にないのではないか。いっそう気を引き締めて行かねばならない」と熱っぽく語る。

 川島氏も「Ingressの楽しさがわかるのは、プレイ開始から時間が経ち、コミュニティと繋がる局面ではないか。Ingress Primeでは、そうしたところに近づける工夫みたいなものを今回、入れていきたい。開発チーム内でも激しい議論があるが、ひとつは新しいユーザーがもっと入りやすくなる工夫。ソーシャルな面にも注目して、熟練したプレイヤーが始めたばかりの人を助けやすくする仕掛けなど、何かできないか考えている」と今後の取り組みを示唆するコメント。

 新たなプレイヤーに対しては、現在のバージョンではやや親しみづらかったところが課題のひとつであったとの認識も示された。「Ingress Prime」では、具体的な手段は明らかにされなかったものの、よりプレイしやすくなるような工夫をこれから実装していく考え。既存のプレイヤーに対しては、その最高レベル(かつてはレベル8、いったん開放され現在は16)を開放するかどうか社内で常に熱く議論されているという。

アニメ作品やVRへの取り組みも

 Ingress Primeの開発にあわせ、アニメ作品が制作されていることも明らかにされた。ただ、披露された映像は、建物とポータルとリンクのようなものが描かれた2~3秒程度の無音の映像。テレビ放送なのか、あるいはネット配信なのか、いつごろ楽しめるのかなど、不明な点はまだまだ多いが、川島氏は「非常に良い形で作っている」と期待を持たせるコメント。

【「Ingress Prime」制作中のアニメティザー動画】

 新たな取り組みとして川島氏はVRゴーグルを使ったIngressの楽しみ方にも触れる。これは、IngressのマップをVRゴーグルで歩く、あるいは浮遊するかのような視点で体験できるというもの。川島氏は「作戦をするときには、必ず司令官がいます。現地のプレイヤーとやり取りしながら、『このポータルを獲得して』『リンクを張って』とリクエストする。これから3~4年先にIntel Mapを担当する人は、Ingress Primeでどうやるのか……という回答として、VRを開発している。いずれはダウンロードして楽しめるようにしたい」と説明。現在はまだ一般公開するものではないが、ARだけではないアプローチを探っていることも明らかにした。

VRで見ている画面
【「Ingress Prime」開発中のVRコンテンツ】

 「Ingress Prime」では、ゲームだけではなく、アニメ、VRと、さまざまな角度からその世界をさらに広げようとする試みがすでに始まっている。サーバーサイド、あるいはアプリの開発環境といった点からも、ナイアンティックの未来に向けた礎となるプロダクトという位置づけになり、かつてIngressをプレイした人、あるいはこれまでプレイしたことがない人にとっても、同社が提唱する「リアル・ワールド・ゲーム」の魅力に触れる良い機会になりそう。アプリ本体に限ると、今回開示された新要素の大半はグラフィック面のものであり、新機能や仕組みの面は今後となったことで、やや肩すかしに感じた部分もあったが、新たな体験を提供しようとする「Ingress Prime」とともに街へ出かけたくなったのも事実。一日も早いローンチを期待したい。