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運転士が「VR」で津波シミュレーション、JR西日本とKDDI
2017年2月15日 15:35
KDDIは、VR(仮想現実)技術を活用した乗務員向けの「災害訓練ソリューション」を西日本旅客鉄道(JR西日本) 和歌山支社に納入する。
実際に乗務する路線を、標識を確認できる画質で再現。津波到達時のパニック状態を疑似体験する「体験モード」と、想定浸水浸(津波到達時の高さ)を確認しながら安全な位置に乗客を避難誘導するための「演習モード」が用意される。
体験モード
体験モードは、鉄橋付近を走行中に津波発生した状況を想定。実際の河川の映像を元に津波の映像を合成し、到達時の状況を再現した。
緊急地震速報、防災放送や乗客の声も収録しており、運転台前方の様子だけでなく、パニック状態となる車内の様子も確認できる。津波到達時の状況をあらかじめ体験しておくことで、発災時に平常心を保てるようにするトレーニングとなっている。
演習モード
演習モードでは、串本駅~新宮駅間の運転台からの映像に重ねて、想定浸水浸やハザードマップを表示。線路脇の津波対策用標識を確認しながら「この地点ではこの程度の浸水となる」というイメージを作れるコンテンツとなっている。
また、地震時の避難対策訓練にも利用できる。指導者が任意のタイミングで緊急地震速報を鳴らし、訓練対象者はコントローラーで速度を調整し、乗客を安全に避難させられるように、列車の停止位置を調整する。
津波到達時の冷静な対応で乗客の生命を守る
今回の災害対策ソリューションの対象路線は、紀勢線(きのくに線)の串本駅~新宮駅間(約43km)。本州最南端の海岸線に沿って走る紀勢線は、南海トラフ地震が発生した際に、3分の1にあたる73kmの浸水が予想されている。
JR西日本和歌山支社では、紀勢線を走る全車両に津波到達時の避難用はしごを設置。津波到達時の避難誘導をスムーズに行えるよう、線路脇の電柱などに津波到達時の水深や避難方向・避難場所を示す標識を掲示している。
加えて、和歌山大学と共同で、観光と津波避難訓練を組み合わせた教育プログラム「鉄学」を展開。地域の住民が率先的に避難できるような対策を行ってきた。
しかし、突然の被災時には、乗客がパニックになる可能性がある。特に、今回の白浜駅~新宮駅間は、地震から5分以内に10mを超える津波が到達する予想となっており、乗務員の冷静な対応が、乗客の生命の安全を左右すると言える。
体験機器は2017年4月下旬に新宮列車区と紀伊田辺運転区の研修スペースに配備される予定。JR西日本は、2017年度に対象区間を担当する全運転士に対し、2回以上の訓練を実施する計画だ。
VRは「体験型のコミュニケーション」
KDDIは、「VR」を電話やビデオチャットなどの発展形として「体験型コミュニケーション」と位置づけ。認知度の向上やVRプラットフォームの開発など、VR技術の普及に注力している。
その中で、JR西日本の持ちかけに応じ実際の現場に即したシミュレーションが求められる災害対策訓練にVRを応用。実際の業務に使える高解像度なソリューションを開発した。
VR機器は「HTC Vive」を使用。VR動画では最高レベルの画質となる9K/60fpsで撮影後、「HTC Vive」で再生可能な6K/60fpsに圧縮されている。
今回のソリューションの制作期間は3カ月程度で、導入費用は2000万円程度。主に映像の撮影に費用がかかっているという。
KDDIは今後、VRソリューションの他業種への展開も進める。今後は企業の要望による個別開発のほか、工場での溶接作業のような一般的な訓練プログラムをVR化したパッケージの提供なども検討しているという。