「LYNX 3D SH-03C」開発者インタビュー

3D液晶搭載のAndroid端末と個性豊かなiモード端末のラインナップ


シャープのドコモ冬ラインナップ

 シャープは今冬、ドコモ向けには7機種の新モデルを投入する。そのうち「LYNX 3D SH-03C」は、3D液晶を搭載するAndroidスマートフォンとして注目されている。一方のiモード端末も、オーソドックスなハイスペック端末だけでなく、フルタッチで光学ズーム搭載機やプロジェクター搭載機、木製筐体など個性的なモデルが揃っている。

 今回はSH-03Cを中心に、それらドコモ向けラインナップについて、開発を担当したシャープの通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部の木戸貴之氏と岡安昌利氏に話を聞いた。

――まずシャープのドコモ向けラインナップの概要からお願いします。

木戸氏
 市場を見ますと、普通のケータイ、いわゆるフィーチャーフォンは買い換えサイクルが長くなっていることもあり、出荷台数は徐々に減ってきています。その一方、スマートフォン市場は、順調に伸びてきています。シャープとしては、ドコモさん向けには、夏のLYNX SH-10Bからスマートフォンを投入していますが、当初の予想以上に一気にスマートフォンへとアクセルがかかっています。しかし一方で、フィーチャーフォンのユーザーはまだ多いだろう、とも分析しています。そしてフィーチャーフォンについては、ハイエンドとローエンドに2極化している状態だと考えています。

SH-01C

 そうした背景の下、シャープの今冬ラインナップは、PRIMEシリーズの「SH-01C」は14メガのカメラを搭載する、いわばフルスペックのモデルになっています。「SH-02C」はSTYLEシリーズで、コンパクトでスタイリッシュなデザインになっていますが、カメラの画素数が違うだけで、中身的にはSH-01C相当のハイスペックなものになっています。

 さらにそれに加え、昨冬シーズンにも非常に好評だった「Q-pot.」さんとのコラボレーションモデルも、またやろうということになり、「SH-04C」を用意しました。今年はビスケットをデザインモチーフにしており、2色あわせて3万台の限定数で販売します。ちなみにSH-04CはSH-02Cをベースにしており、同じように最新のハイスペックなモデルにもなっています。

SH-02CSH-04C

 以上の3機種が、いわゆる普通のフィーチャーフォンです。さらに今回はバリエーションとして、フルタッチ仕様のiモード端末としてPROシリーズと「TOUCH WOOD」をラインナップしています。

 PROシリーズは光学3倍ズーム搭載の「SH-05C」とプロジェクター搭載の「SH-06C」の2モデルがあります。ズーム付きカメラもプロジェクターも、モジュールのサイズが大きく、主流の折りたたみ型ケータイでの実装は難しかったのですが、スマートフォンの普及に伴い一般化したフルタッチ型ケータイの形状にちょうどハマり、今回製品化することに成功しています。

 TOUCH WOODは、数年前から展示会などで提案し続けていた木製筐体のモデルになります。フルタッチと言うこともありPROシリーズと兄弟機として開発する予定だったのですが、サイズを小さく収める必要があったため、中身は新規設計になっています。

LINX 3D SH-03C

 これらのiモード端末に加え、今シーズンはAndroid端末の「LYNX 3D SH-03C」を投入します。3D液晶を搭載するモデルになります。3D液晶は、2002年の「SH251iS」や2003年の「SH505i」でも製品化していたのですが、今回は技術的にも解像度や明るさを改善しました。また、ゲームや映画も3Dが一般的になったことで、3Dのコンテンツも充実してきており、当時とは3Dを取り巻く環境も大きく変わっていると思います。

 ただ、3Dコンテンツといっても、テレビ向けの3Dコンテンツがそのまま見られるわけではないので、LYNX 3D用に作らないといけません。プリインストールしたコンテンツについては、一部はソフトバンクの「GALAPAGOS 003SH」と同じですが、そのほかはSH-03C用に撮り下ろしています。

岡安氏
 買ってすぐに楽しんでいただけるプリインストールコンテンツに加え、メーカーサイトの「GALAPAGOS SQUARE」からも3Dコンテンツをダウンロードしていただけるようになっています。こちらのサイトにあるコンテンツは、基本的にSH-03Cだけでなく、ソフトバンクの003SHと共通になっています。これまで、メーカーサイトはキャリアごとに別々のものになっていましたが、スマートフォンでは全キャリア共通としました。とくに3Dはどんどん広げたいと考えていますので、キャリアの垣根も外し、すべての端末で使えるようにしています。

シャープの岡安氏

――今回、裸眼で3Dに見える液晶を採用されていますが、その狙いは。

岡安氏
 市場にある3Dテレビというと、専用のメガネをかける必要がありますが、ケータイは持ち歩き、常に使うものなので、常に3Dメガネをかけ続ける、ということはできないと思います。そこで、裸眼でも見られる液晶を採用しました。また、スマートフォンは縦位置・横位置の両方で使うので、そのどちらでも3Dで見られるようになっています。仕組みとしては、視差バリア式と呼ばれる方式のもので、右目と左目にそれぞれ別の画像を見せることのできる液晶を使っています。

 ただ、まだ世の中には2Dのコンテンツも多く、たとえばAndroidマーケットにあるアプリもほとんどは2Dなので、2Dでも綺麗に見られる切り替え式となっています。

――縦でも横でも3Dに見えるのですね。

木戸氏
 これは大きいですね。画面的に、横位置のワイド画面の方が3Dにしやすい面があります。8年前のモデルでは、それができず、辛いところもあったのですが、今回大きく進化したポイントです。

――3Dのコンテンツを作ることはできるのでしょうか。

岡安氏
 カメラを使って、3Dの写真を撮影することができます。SH-03Cはカメラが1個なので、本体を水平に動かし、右目と左目の写真を別々に撮影することで、3D写真を作ることができます。普通の2Dの写真を3Dに変換することも可能です。

シャープの木戸氏

木戸氏
 8年前のモデルでも、2D写真を3Dに疑似変換することはやっていたのですが、当時は厳密に1ドット単位で奥行き感を計算していました。静止画ならばそれでも良いのですが、動画では追いつかないところがあるので、今回はAQUOSで使っているのと同じような技術を使っています。

岡安氏
 動画に対応できたことで、今回はワンセグも3D変換できるようになっています。

――3Dのコンテンツは、どのようなフォーマットを使っているのでしょう。共有などはできるのでしょうか。

木戸氏
 3Dの写真は「MPO」というファイル形式を使っています。たとえば富士フイルムさんの3Dデジタルカメラで撮ったデータも、そのままSH-03C上で3Dで見ることができます。この形式はCIPA(カメラ映像機器工業会)で規定されているものですが、まだ共有サービスなどでは対応していないところも多いようです。

岡安氏
 動画に関しては、右目の映像と左目の映像を横につなげた、いわゆるサイドバイサイドの映像に対応しています。形式自体はただのMP4やWMVです。

木戸氏
 3D動画をお客様ご自身で作っていただく環境はまだ整備されていませんが、たとえばパナソニックさんのレンズ交換カメラにある一眼で立体映像を撮影するアダプタなどを使えば、比較的簡単な処理でSH-03Cで見られる動画を作ることができます。

Android的なメニューも3D化できるが、SH-03C独自のランチャーメニューも3D表示される

――静止画や動画などの3Dコンテンツ以外には、3Dはどのように使われているのでしょうか。

木戸氏
 今回はメニューも3D化できるようになっています。アイコンに立体感を出すなどすれば、よりわかりやすくなると考えています。しかし3D表示時は、左右の目のために解像度を分割するため、片目で見える横方向の解像度が半分になってしまいます。たとえば縦に1ドットの表示できなくなるので、メールやWebなど、文字を表示するのにはあまり適していません。

 将来的にメールで使うとしても、デコメアニメの延長かな、と考えています。Webブラウザに関しては、ページに埋め込まれている3D画像部分だけを3D表示する、というのは技術的にも手間がかかるので、厳しいところがあるかと思います。

 今回は映像コンテンツ中心で3Dを使っていますが、今後はユーザーインターフェイスにどのように3Dを溶け込ませるかがポイントになると考えています。このあたりは、ほかのデバイスのユーザーインターフェイスを含めて、シャープとして全社的に検討しているところです。

全体的に丸みを帯びたデザインとなっている

――スマートフォンも選択肢が増えつつありますが、SH-03Cはどのあたりのユーザー層をターゲットにしているのでしょうか。

木戸氏
 今回のドコモのラインナップで言うと、SH-03CはSTYLEに近いゾーンを狙ったスマートフォンになります。メインはやはり男性になると考えていますが、女性にも使っていただきたいと考え、デザインは少し柔らかめにしています。

 最近のスマートフォンは、ディスプレイ側の面がみんな真っ黒ですが、普通のケータイと同じように、今回はディスプレイ周辺にもカラーを付けています。また、カラーもスマートフォンらしからぬ色を用意しました。あとはディスプレイ周囲のリングも、クリスタルを基調としたデザインとしました。

――おサイフケータイやワンセグに対応されているのも、そうしたユーザー層を意識した結果なのでしょうか。

木戸氏
 当初、スマートフォンは“2台目”としてお使いになる方が多いと見ていたのですが、先行するiPhoneやXperiaのユーザーさんを見ていると、1台目としての買い換え需要が非常に多いように見受けられます。1台目として考えると、いままで使われてきたケータイの機能を落としたくはないので、それらを搭載しています。特におサイフケータイについては、お客様のニーズも高く、シャープはmovaの時代からやっていることもあるので、真っ先に取り組むべきと考えました。ワンセグや赤外線通信は前の「LYNX SH-10B」から引き続きの搭載となります。まだまだ十分とは言えないかも知れませんが、携帯電話から機種変更するお客様に、これまでの携帯電話で使っていた機能や使いやすいユーザーインターフェイスなどを提案していくことが重要だと考えています。

おサイフケータイや赤外線通信機能に対応し、カメラには9.6メガのCCDを搭載する

岡安氏
 もともとPRIMEシリーズのようなハイエンド端末を使われていたお客さまには、3D液晶も楽しんでいただけるかと思います。しかしSTYLEシリーズを使われていた方にとっては、まだスマートフォンに乗り換えるにはハードルが高いところがあるかと思います。そのハードルをできるだけ下げるために、おサイフケータイやワンセグ、赤外線通信、spモードなど重要な要素になります。とくにSTYLEシリーズのお客さまは、spモードに興味を持たれる方が多いようです。このように、いままで使っていたケータイと同じことができる、ということをスマートフォンの購入条件にされている方が多いように感じられます。そういった方が乗り換えられるように、ケータイでは当たり前の機能やスペックをフォローしました。

――他社はスマートフォンも防水化しましたが、シャープさんも考えられているのでしょうか。

木戸氏
 もちろん検討しています。今冬のシャープのiモード端末では、PROシリーズ以外はすべて防水です。これらを使っている人が移行することを考えると、防水は外せません。どのメーカーもやってくると思うので、避けられない要素だと考えています。

――今回、Android 2.1で発売され、春に2.2へとアップデートが提供される予定ですが、最初から2.2ではない理由は?

木戸氏
 品質や安定性の評価期間をどれだけ取るか、ということがあると思います。今後は最新のOSを搭載すべく、取り組んでいきたいと思います。ただ、6月くらいにさらに次のバージョンがリリースされるとなると、すぐには対応できないとは思いますが、その次のシーズンには対応するようにします。

 年に何回もあるバージョンアップにキャッチアップしていくのは大変ですが、一方でAndroidを採用することで、開発もずいぶん効率化できるようになりました。そこは活かしていきたいと思っています。

iモード端末にもフルタッチの個性的なモデルを投入

――今回のラインナップを見ると、それぞれの機種で個性があって、棲み分けがはっきりしていますね。

木戸氏
 ここ何シーズンか、その部分は意識してやっています。モデルごとのキャラクター性をあえてばらけさせ、ラインナップの幅を広くしています。

――フィーチャーフォン側でいうと、TOUCH WOODは展示会でずっと前から見ていましたが、本当に製品化するとは驚きでした。

木製筐体を採用するTOUCH WOODの裏面

木戸氏
 TOUCH WOODは、1万5000台限定で販売いたします。本当はSH-05CやSH-06Cと同じベースで作る予定だったのですが、同じように作ってしまうとサイズ的にコッペパンのような大きさになってしまうので(笑)、よりコンパクトに設計し直しました。

 筐体は檜を特殊な圧縮加工して作っています。檜は木材にした後も、独特な香りの樹液が出続ける性質があります。圧縮加工の過程で樹液は絞り出されているはずなのですが、それでもまだしみ出てきます。香りもまだしますし、磨くとピカピカになりますよ。

――修理とかが大変そうですね。

木戸氏
 背面パネルは自然素材を使っていて、木目は個体ごとに異なるので、もし修理交換すると、模様は変わってしまいます。

――フルタッチの端末だとデザインがみんな一緒になりそうなものですが、TOUCH WOODのような方向性もできるのですね。

木戸氏
 これが主流になるとは言えませんが、新しい取り組みとしてご提案してまいりたいと思います。

――光学3倍ズームのSH-05C、プロジェクター内蔵のSH-06Cともに、大きなモジュールをよく搭載できていますね。

木戸氏
 中身の機構的には、強烈な裁き方をしています。光学ズームは、折りたたみ端末に搭載するのは諦めていましたが、フルタッチが一般化したことで成立しました。同じようなデザインのスマートフォンでも可能なものになります。

過去にソフトバンク端末で採用されたカメラモジュール(左)とSH-05Cに搭載されているカメラモジュール(右)では薄さが大きく異なる。SH-06Cのプロジェクタは上端に内蔵されている

――プロジェクター内蔵のSH-06Cも、展示会のコンセプトモデルから製品化されました。2010年のCEATECででていたプラズマクラスターイオン発生機搭載ケータイや非接触充電対応ケータイ、二眼の3Dカメラ搭載ケータイなども商品化されるのでしょうか。

木戸氏
 プラズマクラスターイオン発生機の搭載は、コンパクト化等、現状では課題も多い状況です。空気を流すためのファンが必要になるので、プロジェクターやズーム搭載機よりも製品化の難易度はずっと高くなっています。

 非接触充電については、技術的には実現が近いかと思います。しかし、非接触充電器とケータイの電池パック、特定の端末専用で作っても意味がありません。規格化されている技術なので、どの充電器とどのケータイの組み合わせでも使えるようにすることに意義があると思います。とくにスマートフォンや防水端末では、いちいちキャップを開ける必要がなくなるので、非常に有利だと考えています。

 二眼3Dカメラについては、スマートフォンの形状で出展していましたが、あれはショー用に作ったカメラとディスプレイがついているだけのデバイスなので、まだ製品化の段階にはありません。しかし、流れとしてはその方向性になるかと考えています。

――本日はお忙しいところありがとうございました。



(白根 雅彦)

2011/1/17 11:00