「BRAVIA Phone U1」開発者インタビュー

おでかけ転送と防水で“自由”を実現


 KDDIから発売された「BRAVIA Phone U1」は、BRAVIAのブランドで展開され、動画機能に注力し防水性能も実現したソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の端末。レコーダー連携機能や動画再生能力など、ソニー・エリクソンが力を入れたAV機能が注目される端末に仕上がっている。

 インタビュー取材では、ソニー・エリクソン・コミュニケーションズ 商品企画担当の田中氏、要素技術担当の廣田氏、ソフトウェア担当の南部氏、機構設計担当の藤田氏の4名に話を伺った。

左から南部氏、藤田氏、廣田氏、田中氏

 

AVエンターテインメントを軸に他社と差別化

――これまでも「Walkman Phone」「Cyber-shotケータイ」と発売されてきましたが、今回のタイミングで「BRAVIA」の名前を冠したモデルを投入されるのはなぜでしょうか。

田中氏
 ソニー・エリクソンでは、AVエンターテインメントを軸に他社との差別化を図っていきたいと考えています。ただ投入するだけでなく、根本には新しいユーザー・エクスペリエンスを体験して欲しい、という考えがありますので、例えばCyber-shotケータイではスマイルシャッターやデコフォトなどで新しい提案を続けてきましたし、Walkman PhoneではXminiのような音楽に特化したモデルや、ダイレクトエンコーディングなどで他社のモデルと差別化を図ってきました。

 映像に関しても新しいユーザー・エクスペリエンスをと考え、社内で議論を進めていました。調査では、動画の視聴ニーズは高いものの、接する機会がカメラや音楽機能に比べると低いことが分かっており、そこを打破するのがソニー・エリクソンの使命でもあると考え、開発がスタートしています。

 映像エンターテインメントを楽しんでもらうきっかけを作る、という点から、どんなライフスタイルでも動画を楽しんでもらえる、そのための“自由”を提供するという結論にたどり着きました。防水で水場でも映像が楽しめる自由、「おでかけ転送」で番組を持ち出す自由という、この2つの自由を提供できるタイミングでBRAVIA Phoneを商品化しました。

 コンセプトもこれらに準じて、BRAVIAの名前にあるように映像美と高画質を追求しますし、加えて、映像を楽しむ自由、持ち出す自由といった「自由」を掲げています。

 ターゲットとしているユーザー層は、実は2つあります。メインターゲットは、ワンセグケータイなどを使いこなしていて、さらにハイクオリティな映像を求めているユーザーです。

 もうひとつは、調査では全体の約6割にもなる、映像サービスを積極的に利用していないユーザーで、BRAVIA Phone U1で映像を楽しんでもらえるきっかけを提供できればと思っています。

 

画質設定を拡張、「バスルーム」サウンドモードも

動画コンテンツは高画質な映像を楽しめる

――映像関連では、「モバイルブラビアエンジン」として一歩踏み込んだ画質強化が図られていますが、強化ポイントはどのあたりですか?

廣田氏
 「モバイルブラビアエンジン」では、テレビのBRAVIAに搭載されている「ブラビアエンジン」の中に仕様されている、コントラスト・質感改善のDTE(デジタル・テクスチャー・エンハンサー)機能をモバイル向けにアレンジし、輪郭強調と彩度拡張の機能を加えて搭載しています。DTEの強みは、入力された映像を構造成分と模様成分に分け、それぞれの成分に最適な処理を施した後に合成することで、リンギング(擬似輪郭)の少ない、自然なコントラストの向上を実現しています。

 今回のBRAVIA Phone U1では、画質設定として「シャープ」「ダイナミック」「ノーマル」に加えて、新たに「ニュース」「スポーツ」「映画」「ミュージック」を追加しました。「ニュース」はテロップだけを見やすく処理するもので、アナウンサーの声を強調する音の処理も行います。「スポーツ」は芝の多い場面を想定した緑色を強調するモードで、「ダイナミック」よりもエッジ強調を抑えめにし、圧縮ノイズの低減処理も図っています。歓声を強調して臨場感を増すような音の処理も加わります。「映画」は長時間見ても疲れないように輝度を抑えめにするモードで、「ミュージック」はライブ映像などを考慮して高輝度域でのコントラストをターゲットに調整したモードです。また、本体のスピーカー出力専用で、バスルームでの反響を抑える音声出力設定も備えています。

 

ソニー製Blu-rayディスクレコーダー連携の「おでかけ転送」

――映像関連ではレコーダー連携機能として「おでかけ転送」対応がアピールされています。

南部氏
 目玉機能として搭載したのが「おでかけ転送」ですね。ハンディカムで録画した映像やレコーダーで録画した地上デジタル放送などの映像、アクトビラのコンテンツを、レコーダーからUSB経由で携帯電話に転送できるもので、デジタルの著作権処理に対応したのも特徴です。端末のmicroSDカードに転送するのですが、端末上で暗号化されたコンテンツを復号化しながら30fpsを実現するのは苦労した点でした。

 コンテンツの映像ビットレートは、384kbps、768kbpsから選択して転送できます。ワンセグより高ビットレートで、持ち出して見るには十分な画質だと思います。

 端末側では、再生中の機能にも改善を図り、サイドキーでの操作が分かる「ガイド表示」機能を設けました。また、早送りスキップは30秒ずつ、巻き戻しのスキップは10秒ずつと、使い勝手にもこだわっています。レジューム連携では再生位置をレコーダーと同期できますし、大量に録画しているユーザーに便利な未再生ファイルを示す「NEW」のマークもレコーダーと連携できます。

 今後は、レコーダー側で実現している機能に端末側でも対応したいですね。「おでかけ転送」は個人的にも欲しかった機能ですし、連携機能は今後も発展させていきたいですね。

田中氏
 レコーダー連携では転送先がmicroSDカードのみになるので、2GBのmicroSDカードをパッケージに同梱するなど、すぐに使えるようなパッケージ内容にしました。USBケーブルや卓上ホルダもパッケージに同梱しています。

 

水やBRAVIAをイメージしたデザイン

左が製品版のトップパネル。角度が変わっても深みのある赤が表現されている

――ボディデザインや防水機構についてですが、コンセプトはどのようなものでしょうか。

田中氏
 デザインのテーマは、防水に対応しながら、テレビのBRAVIAの佇まいに近づけることで、水の波紋をテーマにした曲線を用い、側面では水面に映る光の輝きイメージしました。

 ボディカラーのレッドはBRAVIAのブランドカラーをイメージした赤で、イメージした色を再現するのに苦労しました。

藤田氏
 トップパネルはインモールドを採用したものですが、彩度の高い赤を再現するのが難しく、最終的には樹脂材料自体に色を混ぜることで実現しました。当初と比べて深みのある赤が実現できました。

――“BRAVIAの赤”はコレ、という厳密な決まりがあるのでしょうか?

藤田氏
 今回はBRAVIAのブランドカラーそのものを施したのではなく、BRAVIA Phone U1の形状や、ターゲットである若年層を意識して輝度や彩度を優先した赤にしています。また、KDDI以外のキャリアで発売されたBRAVIA Phoneの赤とも異なる色にしています。

田中氏
 サファイアブラックは、よく見ないと黒か紺か分からないほど濃い紺色で、テレビの本家BRAVIAにラインナップされているカラーをイメージしました。ゴールドも同様に本家のBRAVIAにラインナップされたことがあるカラーからエッセンスを取ってきています。

 

ガスケットに工夫、防水でも薄型で持ちやすく

――防水性能を備えていますが、見た目はこれまでとあまり変わりません。

田中氏
 映像に注力すると、液晶が大きくなり機能が満載で大型のボディになることが多く、ワンセグなど映像に対して意欲的なユーザー以外は敬遠しがちになると思います。

 防水とワンセグに対応しながらも、端末のサイズを抑え、一般的なユーザーにも選んでもらいたいという思いがあり、ワンセグ・防水・回転2軸ヒンジでは現在最薄の端末となっています。機構開発には苦労が多かったと思います。

藤田
 防水だから大きい、持ちづらいというのは避けたい、という考えが当初からあり、特にこだわったのが端末の持ちやすさです。その際にポイントとなるのは、背面(バッテリー側)の角のアールの大きさで、ここが角張っていると持ったときのあたりが強くなるので、ここのアールを大きくとれるよう、構造的な配慮を行いました。

 具体的には、防水のためのゴムのガスケットの位置を工夫しました。背面でも外側に近い位置でガスケットをめぐらせようとすると、ガスケットの場所を確保するためどうしても角のアールを大きくとれないのですが、BRAVIA Phone U1ではよりテンキー側に近い位置にガスケットを配置し、角のアールに影響が出ないようにしました。

 ボディは薄いパーツで構成されているので、ガスケットのゴムの反発を押さえて組むために強度解析を繰り返し、つめの位置の最適化を図りました。

 ガスケットをテンキー側に近づけたことで、テンキー周辺の枠の幅が広がり、テンキーのサイズが小さくなってしまうという問題がありましたが、キーの構造の調整を重ねて現在のようなサイズを実現し、使いやすいフィーリングも確保しています。

田中氏
 ワンセグなど映像を目当てで購入しても、利用頻度が高いのはメールなどですから、キーの使い勝手は最後まで検討を続けていた部分です。

――防水端末はソニー・エリクソンとして過去にも発売されていますが、その頃のノウハウが生かされたということでしょうか? また、防水関連の部材に変化はあったのでしょうか。

藤田
 NTTドコモ向けの「SO902iWP+」で防水を実現していますが、基本的にはその時のノウハウがベースになっています。防水関連の材料について、大きくは変わっていません。スピーカーについては以前は防水シートを貼り付ける構造で、音作りという面では苦労する構造でしたが、現在はスピーカーユニット自体が防水性能を備えています。

 

ワンセグのUIを改善、長時間視聴モードも

――そのほか、こだわった部分などはありますか?

田中氏
 映像エンターテインメントをテーマに、初期設定の待受画面はステージの“カーテンアップ”をイメージし、その先に広がる世界への期待感を盛り上げるデザインにしました。また、動画のフォルダをサムネイル表示する機能では、可能な限りすばやく表示できるよう、端末の性能をあますところなく使うチューニングを施しています。また、メニュー画面の中の「ビデオビューアー」では、ワンセグのクリップからほかの動画までが一覧で確認でき、動画コンテンツを一元管理できます。

南部氏
 ワンセグの視聴では「長時間モード」を搭載しています。電池の残量を気にしてワンセグを使わない人が意外に多いので搭載しました。品質を保ったまま電力消費を抑えるモードで、通常と比較して約1時間半以上も視聴時間が長くなります。

 また、従来のワンセグアプリでは、選局が完了しデータ放送を受信するまでサブメニューを操作できませんでしたが、BRAVIA Phone U1では改善されています。

田中氏
 デコレーションメールを作成するユーザーインターフェースが通常のメールに統合されたバージョンを搭載していますし、デコレーション絵文字は約3000種類を搭載しました。絵文字の選択時には、ジャンル別に探すこともできます。

――今回はBRAVIA Phoneということですが、今後Walkman PhoneやCyber-shotケータイの開発もされるのでしょうか?

田中氏
 AVを軸に差別化を図っていきたいというのは共通するテーマで、その都度、新しいユーザー・エクスペリエンスを提供したいと考えています。今このタイミングで提供すべきものがあり、1年後には違うものがあるでしょう。3つのブランドは並行して考えていきたいですし、そのエクスペリエンスを実現できる技術的な進歩もひとつのタイミングになると思います。

 BRAVIA Phone U1では、動画を楽しんでいる一定のユーザーがより楽しめる内容になっていますし、それ以外のユーザーでも満足できる内容を盛り込みました。「おでかけ転送」と防水で“自由”を実現し、映像の自由を加えたこの端末をきっかけに、新しいユーザー・エクスペリエンスを楽しんでもらえればと思います。

――本日はどうもありがとうございました。

 



(太田 亮三)

2009/12/11 11:00