インタビュー

シャープが「AQUOS zero5G basic」「AQUOS sense5G」で目指すもの

 シャープは、5Gスマートフォンの「AQUOS zero5G basic」「AQUOS sense5G」と、4Gスマートフォンの「AQUOS sense4」「AQUOS sense4 plus」を発表した。

 それぞれ「どんなユーザー層にとって使いやすいか」をきちんと練られ、仕上げられた機種だ。

 今回は5G対応の2機種の特徴、狙いについて、シャープのスマートフォン事業を担う通信事業本部のキーパーソンである、中野 吉朗本部長、パーソナル通信事業部の小林 繁事業部長、商品企画部の清水 寛幸課長に聞いた。

左から清水氏、中野氏、小林氏

「AQUOS zero5G basic」が目指すもの

 5G対応機種の「AQUOS zero5G basic」は、チップセットにSnapdragon 765 5Gを採用したハイパフォーマンスなミドルクラスの一台だ。

 ここ2年ほど、「AQUOS zero」は、ハイエンドモデルのひとつとして、高い処理能力と軽さ、有機ELディスプレイといった特徴を打ち出してきた。その5G版ということで、最軽量を追求するかと思いきや、バッテリーも4050mAhと十分な容量を確保。そして有機ELディスプレイは引き続き採用する。

 「basic」と名前は、これまでAQUOSのラインアップでは、ミッドロー(中下位)機種で“売れ筋”のsenseシリーズで用意されてきたもので、ある程度スペックを絞りつつ、価格も抑えた機種に冠されてきた。シャープでは今回発表した機種いずれも価格を明らかにしていないが、「AQUOS zero5G basic」は、Snapdragon 765 5Gを採用するモデルといったあたりがひとつのヒントになりそう。

 シャープの小林氏は、1年前の発表会で「なんとなくハイエンドが終焉を迎えると指摘したが、実際にそうなってきた」と語る。つまり、携帯電話を買う人は、カメラやゲームにこだわり、ある程度高くともハイエンドモデルを手にする人と、検討を重ね必要十分な一台を選ぶ人という2つの方向に分かれてきた。このうち「必要十分な一台」としてシャープは「AQUOS sense」シリーズをラインアップ。また今春~夏のハイエンドとして「AQUOS R5G」を提供してきた。

 すると、「かつてなんとなくハイエンドを選んできた人のニーズ」の受け皿がないことに気づいた、と小林氏。

 毎日、一定時間ゲームをしたり、何かしらスマートフォンで楽しんだりする層は、かつて手頃な価格で入手できた当時のハイエンドで、さまざまなコンテンツを楽しんできた。しかし今やハイエンドは10万円程度がざら。たとえばシャープのスマートフォンで、2017年5月に発売された「AQUOS R」は実質負担額が当時3万円台前半とされた機種。そうした感覚で、今、ハイエンドを選ぼうとしても……という状況だ。

小林氏
 「決して特殊なニーズではなく、新たなマジョリティだと思っています。そしてコロナ禍で“ニューノーマル”な中では動画やゲームをスマートフォンで楽しむ人が増えてきたことも、調査の結果わかってきました。使い込むなら性能が高いほうがいい、今買うなら5Gがいい、そんな方に提供するのが『AQUOS zero5G basic』なんです」

 その特徴として、Snapdragon 765 5G、4倍速表示&タッチ操作4倍速の6.4インチOLEDディスプレイを採用。ディスプレイはHDR対応で、10bitの映像をそのまま再現できると小林氏。LDAC、aptXといった高音質サウンドもサポート。効果的な放熱のため、グラファイトシートを3枚、活用する。

 これらの要素のうち、Snapdragon 765 5Gについて小林氏は「いわゆるフラッグシップスマートフォンが、瞬間的に高い性能を出すパフォーマンスとすれば、Snapdragon 765 5Gのピークはそこまで高くありません。でも、それなりの性能を長く出せる長距離ランナーのようなチップなんです」と説明。プロゲーマーチームで、シャープがスポンサードする「DetonatioN Gaming」のメンバーからも、高く評価を受けたという。

 また小林氏は、カメラにも注目してほしいとアピール。特にAQUOSスマートフォンとして、AIモードのひとつで、ナイトモードを初めて採用。暗い場所でもしっかり明るく撮影でき、白飛びせずに、人物撮影の際にも表情をしっかり記録されるようになった。モードを切り替えずに、シャッターを切るだけでナイトモードとして撮影できるようにしたのは、こだわったポイントだそう。その仕組みも、複数の写真を一度に記録して合成し、より美しい1枚に仕上げている。

 このほか光学3倍ズームカメラ(デジタルズームは最大8倍)、画角125度の超広角カメラも特徴のひとつ。焦点距離で言えば、F1.8の標準カメラ(4800万画素)は35mm換算で26mm、超広角が15mm、ズームは79mmになる。ToFセンサーはないが、ポートレートでは超広角と標準(広角)で同時に記録し、RGBの差分からボケ効果を加える。4800万画素の標準カメラは、1200万画素モードで撮影するときには1.6μmセンサーとして動作する。

 basicモデルとあって、5Gでの最軽量ではない。また過去の「zero」で採用されたパラレル充電にも非対応。それでも防水防塵をサポートし、おサイフケータイも利用できる。zeroシリーズらしく、処理性能の高さと、映像美に優れる有機ELディスプレイが大きな特徴。ちなみに「basic」としては3.5mm径のイヤホンジャックを搭載し、microSDカードにも対応した。画面内指紋認証センサー、顔認証にも対応。Android 10搭載で、今後、最大2回のバージョンアップが保証される。

 販路などは今後、明らかにされる。8GB/128GBおよび6GB/64GBというメモリーとストレージの組み合わせが異なるバージョンが用意されており、販路によって異なるスペックになるようだ。

300万台の系譜を次ぐ5G時代の必要十分「AQUOS sense5G」

 日本でもっとも売れた“Androidスマホ”といえば、実はシャープのAQUOS sense3だ。2019年冬に登場し、1年で約300万台の出荷を記録した。

 「AQUOS sense3」は、“なんとなくハイエンド”が終わりを告げる時代に向けて、割安な価格で、“必要十分なスペック”を目指して開発された機種だった。そのsenseシリーズとして5Gに対応し、来春登場する「AQUOS sense5G」はどんな1台になるのか。

 清水氏は「5Gは、決してARやVR、クラウドゲーミングといった新しい用途だけではありません。たとえば検索も、動画も高速になって使いやすくなる。そこで『みんなの5Gスマホ』を目指すことにしました」と説明。その特徴として「レスポンス」「電池」「使いやすさ」の3点を挙げる。

 チップセットとして、Snapdragon 690 5Gを採用。「AQUOS sense3」のSnapdragon 630から約2.4倍の性能向上となった。ストレージもUFS 2.1で、処理性能の基礎をこれまでよりも一気に向上させる。

 バッテリーは4570mA(sense3は4000mAh)でこちらも十分なスペックアップをはかる。1日1時間使う程度なら、1週間、充電なしで使えるという。

 そして「使いやすさ」として、もっとも特徴的な機能となるのが「テザリングオート」。清水氏は「任意の場所でONにできる機能です。たとえば自宅についたらONするようにしておけば、テレビなどの機器が5Gへ繋がります」と説明。法人でも便利に使える機能、とアピールする。

 このほか、5Gとは直接関わりないが、スクリーンショットを簡単に撮れる「ClipNow」の使いやすさ向上や、画面分割のボタンをアプリ切替時にすぐ表示するようになるなど、スマホとしての使いやすさも追求。その部分で「Payトリガー」と呼ばれ得る機能は、指紋センサーの長押しで呼び出せるもので、あらかじめ登録したコード決済アプリを指紋センサー長押しですぐ呼び出せるようになっている。

 さらにAndroid 11を出荷時から搭載。今後もバージョンアップが保証される。

 ボディは、アルミバスタブ構造を引き続き採用。sense3と同じく染色で仕上げられた。

同じデザインのAQUOS sense4。LTE対応。sense5Gとの違いは側面のライン。sense5Gはアンテナ用に樹脂素材のラインが入っている
AQUOS sense5Gの側面にあるライン

 トリプルカメラを採用し、手ブレ補正は動画でも利用できる。写真撮影はナイトモードにも対応し、シャープならではの機能として「AIライブシャッター」をsenseシリーズとして初めて採用した。

 清水氏の語る「AQUOS sense5G」は、5G時代を迎えるスマートフォンとして十分な使いやすさ、パフォーマンスとは何か、シャープ開発陣が追求し、導き出した回答のひとつと言える。

中野氏が語る「シャープ、2020年秋冬モデルの狙い」

 最後に、スマートフォンを含む、シャープの通信事業を率いる、中野 吉朗本部長の言葉を紹介しよう。シャープ全体として何を考え、どんな機種を提供しようとしたか、端的に語られている。

8K+5G、AIoTで8つの事業分野

中野氏
 まず最初に、スマートフォン事業だけではなく、シャープ全体の考え方についてご紹介させてください。

中野氏

 先日、当社の創設108周年を迎えるにあたり、会長兼任CEOの戴正呉からステートメントを発表しておりますが、シャープは、「8K+5G」、そしてAIoTで、産業、セキュリティ、スマートオフィス、エンターテインメント、ヘルス、オートモーティブ、教育、スマートホームという8つの分野に取り組んでいます。

 そのなかでも通信分野で重要視しているのは「8K」「5G」でエコシステムを作るというものです。たとえばノートパソコンの「ダイナブック」と8Kのソリューション、ICT教育スクールでも通信との組み合わせがあります。

 さまざまな取り組みを進めていくなかで、全てがスマートフォンと関わるわけです。中核のデバイスになると。

「5Gが普通になる」時代、計画を半年以上前倒し

中野氏

 一方、今春、5Gサービスが始まりました。シャープは、唯一、全てのキャリアにデバイスを提供したメーカーです。スマホに加えてルーターも用意して、多くの方に使っていただいている。

 グローバルでの5Gの動きを見ると、中国などで、通信とサービスがあわせて成長してきています。そうした中で、シャープとしては、やはり日本の5Gを全力で普及させたい。

 コロナの問題があって、ニューノーマル時代とも言われるなかで、社会と人々を豊かにするには5Gは重要。シャープとして「5Gノーマル」、5Gが普通になる、と捉えています。

同時に発表されたAQUOS sense4
同時発表のAQUOS sense4 plus。デザインテイストも異なり、ディスプレイも一番大きい。今回の4モデルのなかでは、少し異色の仕上がりだ

 もちろん、5Gはエリア、サービスの拡充も大切です。そうした中で、端末は「手が届く」ことが重要でしょう。5Gの開始時に購入された方は、イノベーター、アーリーアダプター層が中心だと思いますが、今後は、マジョリティに寄り添うことが大切。そこで今回提供するのが「AQUOS zero5G basic」と「AQUOS sense5G」というわけです。

 春の発表会で「2021年に全ての(AQUOSスマートフォンの)シリーズを5G化するとお伝えしましたが、今回、2020年度中に全てラインアップを5G化することになりました。AQUOSはディスプレイ技術、UI、アプリの開発、充実のサポートを組み合わせ、「楽しめるデバイス」として提供します。半年以上前倒しして5G化に取り組みます。