インタビュー

「AQUOS zero2は“細マッチョ”なスマホ」、開発者インタビュー

 シャープが冬モデルとして発表した、軽量ボディーの「AQUOS zero2」。昨今のスマートフォンは、さまざまなコンテンツを楽しみやすくするため、ディスプレイサイズが大型化の傾向があり、それに伴いバッテリー容量も増加され、端末が重たくなってきている。

AQUOS zero2

 スマートフォンの大型化が進む中、新たな価値として“軽さ”を提案したのが、2018年12月に発売された初代モデルの「AQUOS zero」であった。AQUOS zeroでは、6インチのスマートフォンながら約146gの重さを実現し、当時、筆者も実機を触ったが中身が入っているか疑うほど軽く感じたのを覚えている。

 初代モデルでも充分軽く感じたが、後継モデルのAQUOS zero2はさらに軽量化に成功し、最終数値は141gとなった。

 そんなzero2が、従来モデルよりさらに軽量化を実現した構造の秘密や、パフォーマンスを維持する仕組みなどについて同社の開発陣に話を聞いた。

話を聞いた4名。左から通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の小林繁氏、同事業部 商品企画部 課長の楠田晃嗣氏、同事業部 商品企画部 主任の篠宮大樹氏、システム開発部 課長の田邊弘樹氏

初代zeroの“軽さ”がゲーマーに評価、zero2の開発へ

――まず、zero2の開発背景を教えてください。

楠田氏

楠田氏

 初代のzeroは、ハイスペックで軽いというコンセプトで発売しました。ゲームを重視というよりは、「エンタメガジェット」として打ち出した形です。動画などのコンテンツに加え、ゲームも楽しめるというコンセプトでしたので、eスポーツの大会にも出展し、zeroを体験してもらうような取り組みを実施してきました。

ゲームイベントでのアンケート結果

 実際にゲームイベントで体験してもらった方に、zeroのよかったところをアンケートで聞いたところ「本体の軽さ」を挙げる方が最も多くいらっしゃいました。ゲーム好きな方にとっては、メモリなどのスペックの項目が一番に評価されると想定していましたが、パフォーマンスやディスプレイの項目を抜いて、軽さの項目がトップとなったのは、予想外でしたね。

 お客様の方の声を聞いてみると「俺ってこんな重たいスマホでゲームをしていたんだ」と、自身が使われているスマートフォンの重さと比べて、改めてzeroの軽さを感じるお客様が多かったです。「この端末なら(長時間持ち続けても)疲れることがない」という声をいただき、zeroは、ゲームに相性がいい端末だと確信しました。

 ゲーム市場の変化も開発背景の一つです。「ガチ層」とよばれるプロを目指してゲームをしている方、「ライト層」といわれる短時間でゲームを楽しむ方々がいらっしゃって、その間にいる「エンジョイ層」がかなり市場では広がってきていると思います。

 エンジョイ層の方々は、決してゲームに“課金しない”というわけではなく、プレイ時間も比較的かなり長い方だと考えています。他の層と違う点として、さまざまな人とコミュニケーションをとりながら、「FPS」や「TPS」などを和気あいあいと楽しむ層だと思います。

 スマートフォンは、ゲームをしながら、SNSなどでコミュニケーションがとりやすいデバイスです。コミュニケーションをとりながらゲームを楽しむエンジョイ層に向けて、開発をしようと決めました。

――なるほど。こうしたコンセプトはいつごろから検討していましたか。

楠田氏

 zeroを発売した時には、企画検討が始まっていました。市場の反応を見ながら、コンセプトの練り直しをしていましたね。

小林氏

小林氏

 zeroは世界最軽量を売りにしていましたが、“軽さ”がどういうお客様にうけるのか、我々も自信持てていなかった部分もある中で、思いのほか、ゲーム市場での盛り上がりがありました。それが潜在的な市場のニーズだったのだと思います。

 かつてシャープを好きだった方は、40代~50代に突入しています。20代や30代のお客様は他社さんのスマートフォンを使われている方が多いです。そうした中で、新しいお客様を獲得したいという気持ちがあります。ゲームの人口は基本的に30代が多いと言われているので、そのような方たちにAQUOSの良さを届けたいと思い、開発に至りました。

ゴリゴリじゃない、細マッチョな「ゲーム系フラッグシップ」

楠田氏

 ゲームに着目をしていく中で、ゲーミングスマホはすでに市場にありました。商品企画の中で議論がありましたが、ガチ層の人は、ゲームをファッションとして見られています。そうした方にはLEDが光ったり、冷却ファンがついていたりするようなゴリゴリの“マッチョな”ゲーミングスマホ方がニーズはあるとは思います。

 一方でエンジョイ層の方は、まず通常のスマートフォンとしての使い勝手が確保されていて、さらにゲームを楽しみたいというニーズで、ゲームがすべてではないというお客様です。

 最終的にたどり着いたのは、軽量でも中身はパワフル、ゲーミングスマホではない「ゲーム系フラッグシップ」という位置づけですね。

――発表会でもエンジョイ層に向けたスマホというメッセージがありました。「ゲーミングスマホ」として打ち出した方が、ユーザーにとっても分かりやすいのではとも思います。

楠田氏

 ゲーミングスマホと比べられるだろうなとは思っています。比較したときの違いを明確に出さないと中途半端な端末になってしまうことは、不安としてはありました。ですが、軽さがゲーム好きな方にうけたというのは自信になりましたし、軽さはお客さまとって価値になると思います。

 見た目的には、普通のスマートフォンですし、ゲーム向きとは感じられにくいです。ただ、ディスプレイや放熱制御など中身はこだわっています。まさに“細マッチョ”スマホです。

小林氏

 外観からゲーミングスマホとわかるようなデザインの方が分かりやすいとは思います。ただ、分かりやすいこととお客様が欲しいことは必ずしも一致していないです。自分に合ってるものを見つけるのは意外と単純ではなかったりします。zeroに取り組んだのも変化をつけながら新しいものに取り組むためで、技術とニーズをつなぎ合わせていくことは大事だと思います。

発表時よりさらに軽く141gに、軽さと強度の実現

――発表会後の追加の発表でさらに軽量化されたことが発表されました。

篠宮氏

篠宮氏

 最初の発表時は143gで、世界最軽量を目指すとしていましたが、最終的には141gで世界最軽量となりました。

 初代モデルよりも軽くするために基板の重さを25%削減し、内部の絞り込みを頑張りました。143gから141gにできた理由は、一言で説明するのは難しいです。さまざまな部分での小さい数字の積み重ねですね。

 軽量化も大切ですがそれと同時に必要とされるのが、強度です。まずは強度を保てるようにして設計します。そうした中で、その部品が強度の担保に役立っているか検証を重ねていきます。不必要な部分は、絞っていき、その積み重ねで141gという重さを実現できました。

zero2(左)とzero(右)の基板

 この点は、他社さんが真似できるところではないと自信を持っています。初代zeroで軽量化に取り組んだからこそできるところです。

――その軽量化のノウハウの具体例を教えていただくことはできますか。

篠宮氏

 内部の部品は回路部品以外にも、機構系の部品が入っています。強度を維持するために存在しているので、増やせばその分強度は確保できます。しかし、軽量化とは相反します。強度を維持しながらどれだけ削減できるかが軽量化へのポイントですね。

小林氏

 軽いからといって強度を犠牲にはしていません。ひねりなどに対する強度も確保しています。たとえば、ジーパンの後ろポケットに入れたときの負荷はかなり大きく、その場合、どこにどれくらいの負荷がかかることは、ノウハウとして持っています。全箇所を強くするわけではなく、局所的に弱いところを重点的に強くするというのは、一般的に取り組んでいるかと思います。

 最初はエンジニアも、ちょっと多めに強度を保つようにしていますよ(笑)。軽さと両立する上で、ここは削ってもいいといったポイントは知っていて、最後にそうしたところを削っています。

3130mAhのバッテリー容量は妥当?

――確かに強度も重さと引き換えなところがありますが、バッテリー容量もその一つだと思います。どのようにして今回の容量を決めましたか。

篠宮氏

 もう少しバッテリー容量を増やしたかった気持ちはありますね。

小林氏

 ゲームをやる方って、充電しながらプレイされる方も多くて、そういう方は意外とバッテリー容量に対して寛容な方も多くいらっしゃいます。

篠宮氏

 正直なところを言いますと、ゲームをすれば電池容量を多く積んでいてもみるみる減っていくものです。特に位置情報を利用したゲームなどはモバイルバッテリー必須の場合が多いです。

小林氏

 同じ冬モデルのsense3では、1週間の電池持ちを掲げていますが、その測定の仕方とゲームでの使われ方はあまりにもかけ離れていて、どれくらいの容量を設定したらいいか測定が難しいです。

 「最軽量じゃなくてもいから、電池容量を多くして」などのお客様の意見が出てくれば、そちらが正解になるのかなとは思います。電池持ちも大切ですが、今回はターゲット層を優先してこの容量にしました。

篠宮氏

 充電しながらでも発熱しにくい「パラレル充電」をサポートしていますので、そこでフォローできる部分でもあります。一般的に考えれば、不必要な機能かもしれませんが、パーツを1つ追加し、重量が増えるにも関わらずあえて搭載しているのは、充電しながら使ってもらうことを想定しているからです。

ディスプレイの一部分を黒くしてなめらか表示に

――続いて、話題になった4倍速ディスプレイについて教えてください。

篠宮氏

 発表会の際には、4倍速を中心に紹介しましたが、ゲーミングに最適なディスプレイにするためには、3つの要素があると思います。それはハイレスポンス、ゲーム画質、屋外視認性です。

 ハイレスポンスの面では、ディスプレイとタッチパネルの4倍速化が挙げられます。通常、画面更新は60Hzですが、zero2では120Hzにし、間に黒フレームを挿入することで、240Hzを実現しています。

 黒フレームを入れたところがポイントです。人の目は実は思った以上に、目に表示されていたものを覚えていることがあります。結果的に重なり合うように表示されてしまうため、そこをリセットするために黒フレームを挿入しています。

――この現象は、どのようなきっかけで気付かれたのでしょうか。

小林氏

 テレビ業界ではもともと知られていたことです。こうした「網膜残像」と呼ばれる現象は学術論文もあり、よく知られている現象ですね。

 スマートフォンで、網膜残像が問題になることは今までありませんでしたが、今回はそこの問題解決にチャレンジしました。

篠宮氏

 実際には、黒フレームは全面に表示して切り替えている訳ではなく、黒い領域がローリング(上から下に移動)する方式で挿入しています。

小林氏

 黒い領域が多くなればなるほど、消えている率があがります。そうすると、画面が暗く見えてしまいますので、明るさとのバランスで、黒の領域の大きさを決めています。

篠宮氏

 ローリング方式の方が、なめらかに見えることが分かっています。すべてが黒くなく、基本的には表示している部分があるので、視認できている分なめらかに見えます。

小林氏

 液晶ディスプレイでは一部分を黒くするといったことはできないので、有機ELとの相性がとてもいい技術です。

小林氏

 発表会では詳しく触れませんでしたが、ほかにもレスポンスを高めるため、タッチパネルで検知してから、ディスプレイに出力するまでの一連の内部処理も最適化しています。内部処理を具体的に言いますと、CPUやGPU、RAM、ROMなどのコンピューティングリソースの一連の動きです。

田邊氏

 高速な読み書き性能を持つ「UFS 3.0」のROMを搭載するといったハードウェアのアプローチもあります。

演色をせず、ゲームクリエイターが意図した色にするディスプレイ

篠宮氏

 画質面では、ポリシーを見直して、コンテンツクリエーターが意図した色が出るようなチューニングにしています。

 スマートフォンの黎明期は「SDR」の表示が多く、画質に対してお客様が満足しなかったことがあり、演色をしていました。最近では、コンテンツが進化してきまして「HDR」「Dolby Vision」といったもの、またゲームもリッチなグラフィックになっています。

 開発するにあたって、ゲームベンダーの方々に話しを聞いて回ったところ、みなさんがこだわりをもって絵作りをされていることが分かってきました。それに演色をかけてしまうと、色味がおかしくなってしまいます。

 たとえば、カードゲームでのレアカードは“金色”で、ノーマルなカードは“黄色”だったりします。そこに演色をかけてしまうと、区別がつかなくなってしまうことがありました。

小林氏

 ノーマルカードをレアカードにしてしまうシャープの技術といえるかもしれません(笑)。

楠田氏

 クリエイターの方は、その色の差をこだわって作られています。そこを再現してほしいと言われました。

演色の有無の例。下の端末は演色の影響で、画面中央の人だかりが見えづらくなってしまっている。上の端末は演色されておらず、くっきりと表示されている。

――なるほど。ゲームベンダーとのコミュニケーションはこれまでのモデルではありましたか。

篠宮氏

 多少はありましたが、ここまで、大きくかかわらせていただいたのは初めてです。

楠田氏

 クリエイターの方と直接コミュニケーションし、画質のチェック項目のリストを見せていただきながら、実現していきましたね。

――発表会では、「ミリシタ」(※)が出ていましたが、協力して取り組んでいるところですかね。

篠宮氏

 バンダイナムコさんとは、過去の機種から長くやらさせてもらっています。

篠宮氏

 一緒に商品をプロモーションすることは、これまでもありましたが、今回は開発面とのつながりができました。

 (※編集部注:バンダイナムコエンターテインメントのゲーム。正式名称は「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ」)

――画質だけでなく、タッチパネルのチューニングなどはベンダーとコミュニケーションしましたか。

篠宮氏

 端末自体は、貸し出しをしています。ただ、動きに関しては、スポンサー契約を結んでいる「DetonatioN Gaming」(プロeスポーツチーム)に貸し出していまして、使用してもらっています。そこからフィードバックはもらっていますね。

熱を抑えつつ、パフォーマンスを維持

田邊氏

 これらの端末性能を維持するため、パフォーマンスの出し方について考えました。

 最初に説明したいのが、ゲーム専用機とスマートフォンでの違いです。ゲーム専用機は、まずハードウェアがあり、それに合わせたソフトウェアがあります。

 スマートフォンの場合は、さまざまな端末でアプリが動作するように設計されています。ということは、ソフト(アプリ)は同じでも、ハードウェアはどんどん進化していくという世界です。

 コンテンツを作る方は、すべてのレンジのスマートフォンでゲームを楽しんでもらえるように、ゲーム内にフレームレートや解像度などの設定項目を設けていることが多いです。その中で、最近流行りの「FPS」「TPS」では、フレームレートが重要で、お客様も気にしています。

 ゲーム専用機は、専用のコントローラー部がありまして、手に触れるところは熱源ではありません。スマートフォンでは直接触る部分が熱源ですので、ストレスに感じやすいポイントでもあります。

 こうしたゲーム機との違いから、体感温度を抑えつつ、最高設定のフレームレートを維持できるように開発しました。

C社の例はゲーミングスマホだという。熱くなってもパフォーマンスを維持する傾向にあるという

 ゲームによりサポートされているフレームレートは異なりますが、我々が目指したのはそれぞれのゲームで用意されている一番いい設定で、少なくとも1プレイは快適に遊べるようにこだわりました。

 アプリによっては、そうした設定がなく、端末に依存して解像度が決まる場合もあります。そうしたアプリ向けに、端末側で設定を変更できる「ゲーミングUI」を用意しました。

 設定がないアプリでもゲーミングUIで解像度を落とせば、高フレームレートで長く遊べます。

実際に開発メンバーが100タイトル以上のゲームをプレイして検証

パフォーマンス担当の開発メンバー
実際に社員がゲームをプレイして検証。右上のホワイトボードの正の字は60、120Hzで動作したゲーム本数の数

田邊氏

 私のグループでは、実際にゲームをプレイして、8月くらいから動作検証をしました。ゲームごとにベストなパフォーマンスは違うので、一番いい状態を出せるように、100タイトル以上のゲームを時間をかけて評価しました。

 実際に検証していく中で、ゲーム内の画質設定を高めにしないとフレームレートが上がらないゲームや、ゲーミングUIの設定でなく、ゲーム内の解像度設定をHDにして初めて120Hzが出せたなど、さまざな結果が出ました。

小林氏

 最近は90Hzをサポートしたスマートフォンが増えてきています。シャープでは、5年以上、倍速ディスプレイをやっていますが、こうしたコンテンツが自然に高フレームレートをサポートしてくれると、メーカーとしては嬉しいですね。

田邊氏

 パフォーマンスを維持するための放熱構造については、基本的には、初代モデルと同じですが、ゲームでの利用が想定されるため、熱源がCPU、GPUに偏ります。

放熱構造

 そこから熱が伝わりにくくするため、内部の部品である樹脂キャビにすき間をもたせるといった工夫をしています。

解像度変更や通知をブロックできる「ゲーミング設定」を用意

篠宮氏

 先ほど説明がありましたゲーミングUIは、端末内の「AQUOS便利機能」の中に搭載してあります。4倍速ディスプレイ、ゲーム画質、通知機能のブロック、解像度切り替えができます。

 ほかにも、画面録画や攻略情報が検索しやすくなるようなUIを通知領域に表示させられます。

ゲーミング設定は「AQUOS便利機能」の中に
ゲーミング設定
通知ブロック
解像度設定
この画面でアプリをゲームとして登録すると、ゲーミング設定が適用される
画面録画設定

通知領域にゲーミングメニューを表示させることもできる。画面録画や攻略情報のWeb検索などが可能
メニュー内の検索キーワードは設定可能。ゲーム名は自動で端末から表示される

――ゲーミングUIの機能拡充は予定されていますか。

楠田氏

 もう少し入れたい機能はあります。そこをどのタイミングで入れるかは検討していきたいです。これだけでは終わらせない予定です。

小林氏

 やがては、すべてのAQUOSシリーズに導入することを想定しています。お客様からのフィードバックで、機能を育てていきたいと思います。

――最後に質問です。ゲーミングスマホでは周辺機器がありますが、今後そうしたものは検討していますか。

小林氏

 周辺機器メーカーさんとのお付き合いは増えてきてはいます。他メーカーさんでは専用機器がでていますが、周辺機器メーカーさんからは「汎用機器でやっていきたい」という声もあります。そうした機器との動作検証は我々もできるところではありますね。その検証をどこまでやるかというところだと思います。

 最初から周辺機器を想定して開発したモデルではありませんが、興味はあるところです。

楠田氏

 アクセサリーメーカーさんとの会話は始めていて、推奨するデバイスを選定するところは始めています。

――本日はありがとうございました。

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