インタビュー

ドコモの「ギガホ/ギガライト」「スマホおかえしプログラム」ができた理由

「違約金1000円議論」は今後、どう影響する?

 NTTドコモが6月から、新たな料金プラン「ギガホ」「ギガライト」と、ハイエンドスマートフォンを対象にしたプログラム「スマホおかえしプログラム」の提供を開始した。

 これまでは、携帯電話の購入時に、何らかの割引が適用されることがほとんどだったが、今回の新プランと販売プログラムは、いわゆる完全分離プランに対応。端末代金と通信料金を分けることになった。

 一方、携帯電話の料金については、2018年8月、菅義偉官房長官の「4割下げられる」発言以降、政治・行政からの要求が続いている。

 はたしてドコモでは、どういった経緯で新プランが開発されたのか。今回は、「ギガホ」「ギガライト」「スマホおかえしプログラム」それぞれの開発現場をリードした料金制度室の御牧宏一郎担当課長、金東賢氏、販売部の杉崎晴彦営業戦略担当課長の3人にインタビューした。

左奥から杉崎氏、金氏、御牧氏

 あわせて取材のタイミングでは、ちょうど「違約金は1000円に」という総務省の案が提示された直後となったため、今後への影響についても意見を聴いた。ドコモとしての今後の方針は政策が固まり次第ということになるが、現場の目線からはどう見えているのか、その感触をお伝えしたい。

抜本的な見直しが必要になっていた

 今回、ドコモが新料金プランを発表する前段階として、2018年夏には菅義偉官房長官が携帯電話料金の値下げに関して発言した。それを受け、ドコモの吉澤和弘社長も値下げの方針を示していた。

 一方、ドコモの料金プランそのものを見ると、これまで提供されてきた「カケホーダイ&パケあえる」は登場から丸5年を迎えるタイミング。毎年、何らかの改定が実施されてきた。

 たとえば2年前の2017年には「docomo with」が追加されたが、それ以外にもカケホーダイ以外にシンプルプランが追加されたり小容量のシェアパックが追加されてきた。

 ドコモにとっては、ユーザーごとのニーズや、ライトユーザーに対応すべしという声に応えてバリエーションを拡充してきたが、「複雑で理解しにくい、どれが自分に適しているかわからないという指摘をいただくようになりました」と御牧氏。

御牧氏

 外部からの値下げ圧力というより、ドコモにとっても抜本的な見直しが必要な時期にさしかかっており、御牧氏は「わかりやすくシンプルで、長く利用していただけるもの」を目指すことになったと説明する。

シェアパック、なぜなくなった?

 ドコモの料金プランは、他社にない形として、これまでデータ通信量を家族で分け合う「シェアパック」が特徴となっていた。しかし「ギガホ」「ギガライト」でシェアという概念は取り入れられなかった。

 御牧氏と同じ料金制度室の金氏によれば、「シェアがわかりにくい」という声が多かったことが理由のひとつ。

金氏

 たとえば、シェアパックの中に、高校生など子供が使う回線があれば、その回線だけが飛び抜けて通信量が多くなってしまう、といった場合もよく見受けられた声だ。

 また、ドコモにとっては、ユーザーにお得感を提供したくとも、還元を実感してもらえないというギャップがあった。

 他社で取り入れられていた「パケットのギフト」のようなサービスは、複雑になるため、これまで見送られてきた。新プランでも、ギガホは30GBという上限はあれど制限速度が1Mbpsであり使い放題に近づけたこと、ギガライトは無駄なく利用できることから、導入しないことになった。

 ちなみに30GBという上限については、ごく一部のユーザーが過度に利用してしまうと不公平な形になってしまうため、ひとまず設定された格好。そもそも今後の5G時代では、使い放題にする可能性があるとドコモ吉澤社長もコメントしているが、御牧氏は「料金競争には終わりがないんです。生き物ですから」と述べ、今後も改定を続けていく姿勢を示す。

わかりやすい「しっかり料金シミュレーション」

 新料金プランの導入にあわせて、話題になったのがドコモのWebサイトに導入された「しっかり料金シミュレーション」。

 これまでも、ユーザー自身が自分の環境に近い条件を入力することで、料金がどうなるか、シミュレーションできる機能はあったが、「しっかり料金シミュレーション」はユーザー1人1人の利用実績を読み込み、新プランと比較するため、個別具体的な比較ができ、わかりやすいと評判になった。

 大幅な料金プランの見直しを予定する中で、利便性向上のために「しっかり料金シミュレーション」を開発することが決定。料金プラン側の細部を詰めながら、並行して開発が進められた。

中下位機種向けだったdocomo withは……

 新プランの導入にあわせて、新規受付が終了したのが、ミドルレンジのスマートフォンを対象にした「docomo with」。割引なしの対象機種を買えば、通常よりも1500円安い月額利用料になるというものだった。

 なぜ6月以降も新たな受付が継続されなかったのか。5月末には一定規模の駆け込みもあったようだと語る杉崎氏。もともとdocomo withは完全分離プランの思想を取り入れたものだった。

杉崎氏

 しかし、docomo withが適用されるためには、対象機種の購入が条件。これが分離プランではない、という指摘もあったことから、「ギガホ/ギガライト」では対象機種といった条件を設けず、docomo with相当の料金プランを実現することになった。

アップグレードな考え方は以前から検討

 一方で、今回取り入れられた「スマホおかえしプログラム」は、やはり高額になるハイエンドモデルをいかに買いやすくするかという観点から生まれてきたアイデア。

 とはいえ、急に生み出されたものではなく、たとえば他社で導入されてきたアップグレードの仕組みなども研究を進めてきたという。

代物弁済という考え方は何が違う?

 「スマホおかえしプログラム」では、36回の割賦でハイエンドスマートフォンを購入し、2年利用してからドコモへスマホを返すと、残りの割賦が免除される。

 これは、割賦の残りがいくらであっても免除という形になるが、法律上、代物弁済という契約で実現している。代物弁済は、いわば物々交換に近い考え方だが、自動車購入における残価設定ローンやリースに近い、と捉えた人も少なくないだろう。

 では、残価設定ローン、リースとはいったい何が違うのか。杉崎氏はスマートフォンの所有権がユーザーにあることが大きな違いと解説する。つまり「スマホおかえしプログラム」では、ユーザーはスマートフォンを一度購入し、その後もずっとスマートフォンの所有権を持ち続ける。

 スマホおかえしプログラムを利用して、代物弁済によりスマートフォンを手放すこともできるが、プログラムを利用しないという選択肢もある。さらには、ドコモではなく他の中古事業者へ買い取ってもらうことも、ユーザーの自由だ。

 ドコモの法務部門とさまざまな検討を重ねる中で、「これならいける」と採用された代物弁済だが、杉崎氏は「いろいろな考え方があるでしょうが、(ユーザーを)縛りたくなく、お客様に自由な環境をきちっと残したかった。また所有権をドコモが持つというのは、その台数からいって非現実的であり、意味がないこととも考えました」と語る。

9500円→1000円、影響する?

 これまでも競争促進のために有識者による議論が進められ、新たな規制やガイドラインが導入されてきた日本の携帯電話業界。

 だが2018年~2019年にかけた動きは、従来と大幅に異なり、菅義偉官房長官の発言を皮切りに、業界各社の自主的な動きに任せるガイドラインではなく、義務を課す法改正という形となった。さらには2019年6月には、改正された電気通信事業法の細かな部分(総務省令)で、中途解約時の違約金にまで言及される話が進んでいる。

 取材時は、省令案が検討の遡上にあがった段階であり、まだパブリックコメントなども募集されていない段階であったが、御牧氏や金氏にとっては、2019年6月の動向は、想定を超え、唐突な印象を受けたものであったよう。

 ただ、NTTドコモとしては「省令やガイドラインが示され、新プランがそれにマッチしていなければ、それにあわせていく」というスタンスだ。

 そうした上で、御牧氏は、一般的な考え方として、「携帯各社全てが一律で“行き過ぎた囲い込み”について見直すという形であれば、大きな問題にはならないのではないか。それよりも既存の条件で契約を行っている多くのお客様の契約の形がそのままであれば、競争が進まないのでは?」と疑問を呈す。これからの契約ではなく、大多数を占めるこれまでの契約形態にメスを入れなければ、効果がないのでは? という指摘だ。

 そうした点はありつつも、ドコモとしては今後示される省令にあわせて柔軟に対応していく方針。今回のギガホ、ギガライト、そしてスマホおかえしプログラムがどうユーザーへ受け入れられるか、そして法改正の影響がどうなるか、引き続き注目を集めそうだ。