インタビュー

サムスンのDJコー氏、Galaxy Foldの日本展開に意欲

 2月に折りたたみタイプの「Galaxy Fold」や、フラッグシップの「Galaxy S10」シリーズ3機種を発表したサムスン。

 3月12日、東京・原宿に新施設「Galaxy Harajuku」のオープンにあわせて、サムスンのモバイル部門トップであるDJコー氏が来日、日本の報道関係者のインタビューに答えた。

Galaxy Harajuku、今後の展開

――Galaxy Harajukuがオープンした。全国展開の考えは?

コー氏
 Galaxy Harajukuは、Galaxyシリーズや、スマートフォンを使ったVRアトラクション体験、そして製品のサポートセンター窓口を用意した新たな施設です。

 これまでこうした体験空間は、新製品発売のたびに各地で提供してきました。しかしそうした場は3~9カ月間といった短期的なものでした。しかし2年ほど前から計画を進め、原宿にオープンすることになったのです。

 もしこの施設が好評で、よい効果が得られれば、日本の主要都市に拡大したいです。しかし具体的な計画はありません。本日はオープンしたところで、消費者の方々の反応を得て考えたいです。

――サンフランシスコの発表会で、折りたたみタイプのGalaxy Foldが発表された。Sシリーズに加えてFoldを提供することになったが、その背景は?

コー氏
 Galaxy Foldは、ディスプレイ開発を含め、8~9年ほど前に始まったプロジェクトです。

 2018年10月、開発者会議でいったん発表していました。これは、新しいフォームファクター(形状)や、4:3というディスプレイ比率に最適化したアプリを提供していただくためには、開発者にコンセプトを知っていただく必要があったためです。

 特に3つのウィンドウ(Foldを広げた際に3つのアプリが同時に表示される状況)が駆動するコンセプトは、1年ほど前からGoogleさんとともに取り組んできました。

――Foldのようなデバイスは今後主要な製品になるのか。フォルダブルは他社からも登場したがサムスンのアドバンテージは?

コー氏
 まずFoldの前に、サムスンは(ペン入力対応の)Galaxy Noteシリーズを開発してきたメーカーでもあることをお伝えしたいです。

 Noteシリーズは、当初、3.8~4インチだったスマートフォン市場へ、もっと没入感のある体験をもたらし、ペンを組み合わせてスマートフォンを進化させ、新しいカテゴリーを創り出せると考えて提供しました。そのペンは日本のワコムさんと共同開発したものです。

 その後、多くのメーカーから大画面のスマートフォンが登場してきましたが、私たちは、Galaxy Noteが大画面化のメインストリームを生み出したと考えています。

 一般的に、人の手で使いやすいデバイスの最大サイズは6~7インチだと考えています。サムスンでもいろいろと悩みました。現在のNote以上に大画面を提供するにはどうするか……そこで折りたたみしかないと考えたのです。

 ですが、折りたたみを実現するには多くの技術が必要でした。バッテリー技術、ヒンジのメカニズム、ディスプレイを20万回、30万回開閉しても問題ないことなどを確認し、開発を進めてきたのです。

 そして折りたたみと言っても、ディスプレイが露出するアウトフォールドも考えましたが、今回は、(ディスプレイが内側にくる)インフォールドが正しいと判断しました。かつてのフィーチャーフォンでも、折りたたみタイプは、ディスプレイが内側にくる形でしたよね。

 これが主流になるかどうか、もう少し技術的革新が必要だと思っています。それでも、フォルダブルを好むお客さまがいるはずです。

 かつてNoteシリーズを出したあと、3~4年は大画面のために購入した方がたくさんいらっしゃいました。Note 8をリリースしたころになると、全世界での調査により「ペンがあるから欲しい」というユーザー層が確実に存在することを確認しました。余談ですが、Noteにペンがもしなければ、韓国の人にとっては、食事のときにキムチがないと感じる、という話も聞いたことがあります(笑)。

――完全分離プランが日本で導入される見込みだ。どんな影響があると思っているのか。

コー氏
 料金分離制度は韓国で経験しています。日本でも、料金分離の新しいプランについてパートナーであるキャリアさんが悩んでいるという認識です。

 制度によってある程度の影響は出るかもしれませんが、お客さまが「よく作られている。生活に必要だ」と最高の経験ができる製品を提供できれば、消費者の皆様に受け入れていただけると思います。

 つまり良い製品ができると、制度や環境が変わっても、消費者の皆様に受け入れていただけると。

――SIMフリー市場についての考えは?

コー氏
 SIMフリーについては、韓国でS10を発売した際、反応が良かったのです。消費者の選択肢を広げられるものと感じました。

(※編集部注:同席したサムスン関係者によれば、韓国内では、携帯電話会社から2年契約と割引付きで端末を購入できる一方で、期間拘束なしで割引もない形で端末だけ購入できる。コー氏の発言は後者を指したもの)

――Galaxy S10シリーズが発表された。その中でGalaxy S10eをラインアップに加えた理由を教えて欲しい。

コー氏
 一般的にサムスンがフラッグシップが発表する際に、消費者のみなさまは「S10、S10+を発表するだろう」と感じていたと思います。

 その前のGalaxy S8を出したころから、欧州を中心に「(ディスプレイが)フラットなモデルは登場しないのか」という問い合わせが増えました。そして、女性を中心に、もう少し小さなフォームファクターを求めることがありました。

 もうひとつ、フラッグシップ同等ながら、仕様を少し減らすことで、適切な価格で提供できないのかという要請もありました。

 3つの要求条件に耳を傾けて出した回答が「Galaxy S10e」ということになります。

――フラッグシップのモデルが、Sシリーズ、Note、Foldと増えてきている。

コー氏
 発表会などでもお伝えしましたが、消費者の方々の要求は高度化しています。

 それぞれの製品の誕生の背景を見ると、Foldは新しいスマートフォンとしてフォーカスが当てられています。Galaxy S10eもさまざまな要求へ対応するために開発しました。そして5G対応機種である「Galaxy S10 5G」を韓国、米国などで発売します。

 さまざまな要求条件に対応するのは大変でもあります。究極的には、消費者の方々から愛され信頼されるには、市場へ迅速に対応することがサムスンのやるべきことだと考えています。

 たとえばNoteシリーズについては、ペンとフォルダブルを組み合わせればNote化するといったアイデアもあります。でも現在は技術的な課題があり、何も決まっていません。ただ単なるアイデアレベルで、まだ秘密です(笑)。

――修理を受けるとのことですが、日本ローカルだけなのか、旅行者も利用できるのか?

コー氏
 今回、サムスンが日本で初めての試みとして、日本で購入された方はもちろんグローバルを念頭に置いて原宿に置くことになったのです。必要に応じて拡大していく方針です。

 私の経営哲学は、「Galaxyブランドを愛されるものにする」というものです。Galaxyを購入された方がいつまでも楽に使い続けられるようにしたいと考えています。

――世界トップシェアだと思うが、今後も維持するために、社員にはどんなプレッシャーをかけているのか。

コー氏
 私は誰かにプレッシャーをかけることはできません(笑)。ただ、多様化する需要にどう対応するのかお話ししておきたいです。

 たとえばインドでは、Galaxyのフラッグシップは全体の15%にも達していません。残り85%の要求条件へ対応するためAシリーズと呼ぶラインアップを用意しています。

 インドは若い世代の人口が多いです。Aシリーズはフラッグシップに適用しなかった技術を採用し、インドや中国に展開しています。4つのカメラなどはフラッグシップの前にAシリーズで採用しているのです。

 またインドはオンライン市場が活性化しています。2019年1月にはオンライン専用のMシリーズを発売しました。

 そのうちM10は、若者が購入しやすい価格で、新しい技術を導入したモデルです。発売から、M10で2分で15万台、M20で5分で数十万台売れました。今回、日本へ来る前にインドを訪れたのですが、その際には、M30の2万台の在庫が30秒で売り切れました。

 サムスンはニーズに対応していくために努力しています。そうした成功事例は他のマーケットにも広がっていきます。

 1位を守り続けるのは非常に難しいことなのです。スマートフォンの技術はコモディティ化しており、多くのメーカーが参入しています。ですので、お客様が考える意見へ迅速に対応していかねば1位になれないと思っています。

 私がこういう話をすると、社員がストレスを感じるかわかりませんが、居眠りをすると死ぬと言ってます(笑)。寝るなという話ではないですよ。

――日本でもGalaxy Feelというミッドレンジが人気だと聞いている。今後、そうしたラインアップを増やす計画はあるのか。

コー氏
 日本市場では、これからフラッグシップで挑戦し続けたいと考えています。

 一方で、パートナーの携帯電話事業者からは、長持ちするバッテリーのことや、「こうした価格帯の製品をサムスンが開発すれば、日本の消費者が喜んでいただける」という声をいただきました。パートナー様の料金制度もあって、高評価を得たと認識しています。

 日本ではミッドレンジへ進出するというよりも、パートナー企業やお客様の意見に耳を傾けて、要求にあわせて製品をどう提供できるか考えています。

 もうひとつ、携帯電話事業者さんとお話をすると、日本ではまだフィーチャーフォンユーザーがたくさんいると聞いています。そうした方々が無理なくスマートフォンを使えるようになるのか。ユーザービリティを考えており、どうすればスムーズに取り込めるか、パートナーと一緒に議論しています。

 繰り返しになりますが、ニーズにあわせて提供できるかどうかを考えており、フィーチャーフォンからの乗り換えという点ではミッドレンジやそれ以下のモデルになるのではないかと思います。

Galaxy Fold、日本には?

――Galaxy Foldを日本市場へ出す考えは?

コー氏
 日本へフォルダブルを導入するため、キャリアさんと調整しています。もちろん採用されるかどうかは、キャリアさん次第です。

 数量が、グローバルに限られているところがあるため、全世界のキャリアへ提供できるわけではありません。

サムスン関係者
 キャリアさんと検討中ですが、年内に導入することを希望しています。

――Galaxy Foldの用途として、イメージしていることはあるか。

コー氏
 さまざまな用途があるでしょう。発表会では、画面の左にYouTube、右では友人とのチャットアプリ、そして動画に関したショッピングを表示するといった使い方をご紹介しました。

 アーリーアダプターは、PCで提供されるようなマルチメディア機能を求めています。たとえば20代の若者に、Foldでのタイピングを経験してもらったのですが、今PCを使っていますが、Foldでも楽に利用していただけると思います。そして、クルマの中で、地図内で目指しているところが見つかれば、画面を開いて没入感のある使い方ができます。

 ランニングするときに、画面をおいて番組を視聴しています。この場合、一般のスマートフォンを利用するよりもFoldのほうがより良い経験ができました。それに対してタブレットを勧める声もあるでしょう。ですが、出張中のような場合、Fold1台で済みます。ゲーム、ハイクオリティのサウンド、エンターテイメントなどを総合的なセグメントだと思います。

Galaxy10周年、これからの5G時代に

――Galaxyブランド10周年で印象に残っている機種は?

コー氏
 Galaxy10周年ですが、1、2とそれぞれの製品で課題を解決しようと頑張った記憶があります。その中からひとつだけ選ぶのは難しいですね。韓国のことわざには、「指が10本あれば、全部噛んでもいたい」というものがあります。つまり初代から最新まで、それぞれ痛みがあって、嬉しいこともありました。

 ですが、もっとも時間をかけたものは、S10が一番だと思います。S10を準備する中では一回も居眠りはしなかったです(笑)。

――日本市場で、iPhoneはまだ根強い人気がある。ミッドレンジは中国メーカーが人気だ。どう対抗するのか。

コー氏
 つまりは信頼されて、愛されることが第一だと思います。ですけれども、2019年は非常に重要な1年とも考えています。

 今後2~3年の革新は、過去の10年で成し遂げた技術革新を乗り越えることになると思います。5GとAIで支えられるものになるからです。

 5Gは速度向上や低遅延、大容量が特徴です。しかしそれだけではないのです。5Gがインフラになると、LTEで経験できなかったことが日常になります。

 LTE時代はスマートフォン単体でしたが、5G時代ではAIが加わり、ARや、VRもあり、スマートデバイスになっていきます。

 個人の枠を超えて、オフィスなどでシームレスな体験が拡大していきます。サムスンが目指すのは、新しいモバイル経験の革新になります。その経験は没入感があり、イノベーティブなものになります。その裏付けには、AI技術があります。デバイス、プラットフォーム、この経験、デバイス、プラットフォームの枠を超えると思います。

 クロスデバイス、クロスプラットフォーム、クロスブランドを達成する方法はひとつだけです。それはオープンコラボレーションです。

 ですので、サムスンは、開発者会議でオープンにし、どの環境とも協業できるようにしてきました。これは今後も続けていきます。

 日本市場では、サムスンの存在はまだ小さいですが、競争よりもエコシステムを作っていけることができればいつかは信頼していただけると思います。