インタビュー

小林総務政務官に聞く、菅官房長官「4割」発言の真意とは

 菅義偉官房長官が8月、「携帯電話料金は4割程度下げる余地がある」と発言したことを受け、今後の政策への注目が高まっている。

 通信行政を担当する小林史明総務大臣政務官(自民党)は、「決して政治が民間に口を出して民業を圧迫しようということではない」と説明。本誌では、菅官房長官の発言の真意、その狙い、今後の展開について聞いた。

小林政務官

菅官房長官の発言は「環境が整ってきたからこそ」

――菅官房長官の「4割」発言の一報に触れたときには、まず驚きと混乱がありました。

小林氏
 決して政治が民間に口を出して、民業を圧迫しようということではありません。

 私なりに捕捉させていただきますと、以前から(菅官房長官の考えとして)携帯電話の料金は高いのでは? と問題意識があったのだと思います。

 菅官房長官は、「国民にとってちょっとおかしい」ということに、政策で解決してきた政治家だと思います。たとえば、(日本へ渡航する)観光ビザはなぜ厳しいのか、外国人観光客が少ないのか、と考えて対策した結果、800万人だった訪日観光客が2800万人にまで増えました。また、薬価の点数で社会保障費が伸びているのでは? ということで、薬価の改定を実施しました。

 携帯電話の料金については、OECD(経済協力開発機構)のデータや家計調査から、以前から(菅官房長官が)口にしていました。

――なるほど。

小林氏
 私が(2017年8月に)政務官へ就任した後、MVNOとMNO(大手キャリア)の関係において、MVNOにとって“ちょっとしたいけずなこと”があると、いろいろなMVNOから聞いていました。その後、有識者会合を立ち上げ、今年、中古端末や4年縛り、SIMロック解除などいくつか方針を打ち出しました。

 また防衛省が使っていた帯域を開放したことで、楽天の新規参入に繋がりました。

 これらで、ユーザーにとっての選択肢が増える、競争環境が整うことが見えてきました。そういうタイミングで、ある程度見えてきたので、もう一度あらためて(4割下げられると)発言したと理解しています。

「メッセージを出すことも政治家の重要な仕事」

――環境が整ってきたから、ということですか。事前に菅官房長官から「こういう話をするよ」と連絡があったわけではないですよね。

小林氏
 ええ、連絡があったわけではありません。4割がどこから来ているのか、どれくらい確かなことなのか、それはまさにこれから(の議論)だと思っています。

 楽天さん自身も、「半額くらいでやりたい」とおっしゃっているので、それを見守っていきたいですね。

――OECDのデータも、2017年にとりまとめられたものを見れば、比較対象とされる各国のプランは、プリペイドや後払い、容量も少しずつ異なるなど、単純な比較が難しいもののようです。OECDに加盟する36カ国も、経済力や国土の広さに違いがあり、平均値での比較は不適切に思えます。

小林氏
 その感覚でいくと、確かにモバイルの世界を見てきた者からすると、OECDのデータだけを見て言うことではない、というのはわかります。

 その一方で、政治家の仕事として、メッセージを出していくことも大事なことです。どれくらい本気なのか、それを口にすることは重要な仕事だと思うのです。

 (官房長官の発言は)本気度を提示した、ということだと理解しています。そして我々自身は、環境を整えていく立場です。検討会を新たに立ち上げていくのですが、もともと(2018年前半に開催された)「モバイル市場の競争環境の検討会」を受けてフォローアップの会合を行う予定としていました。これから立ち上げるものは、そのフォローアップ会合です。情報通信政策を見直して行く中で、その1つの項目として取り入れていくと。

 既に実施した検討会で、接続料についても議題に上がっていました。制度設計は今後のフォローアップ会合で、ということになっていました。

 ですので、フォローアップ会合を実施する予定は以前から決まっており、そこで取り上げる議題も決まっていたのですが、「4割発言」の後で、唐突に立ち上がったように見えてしまったかもしれません。

楽天がソフトバンクと組むのはアリ?

――これからソフトバンクが株式を公開する方針です。一部では、楽天がソフトバンク株を手にしたら……と語られることもあります。

小林氏
 そこはまさに民間ベースのお話です。それはそれでいいんだろうと思いますし、民間の事業戦略ということになるのでしょう。

 我々は電波を割り当てると言いますか、やりたい方がいらしたら、機会を整備していくことです。そしてユーザーが不利益を被らないよう、セーフティネットの整備も大切です。

打ち出したガイドライン、その振り返りは

――ユーザーからすると、たとえば端末代金は数年前に3万円で購入していたものが、今は8万円払っているように見える場合もあります。過去にもフォローアップ会合はありましたが、検証というよりも、次々と新たな提起だけしてきたように思えます。過去の政策をどう評価していきますか。

小林氏

 この国の行政全体で言えることです。いかにPDCAを回していけるのか、課題意識を持っており、どの省庁でもやっていかねばならないことです。

 総合通信基盤局長に就任した谷脇(康彦)氏が、かつての「モバイルビジネス研究会」を担当していたころの課長で、(過去の政策を振り返るには)良いタイミングと言えるかもしれません。今まで「やったほうがいいよね」と思われていた点――たとえば複数年の縛りや、なぜ中古端末に選べないのか、MNPでの手続きがやりづらかったことなどを一度整理して、今夏、ガイドラインを打ち出しました。これまでの宿題を整理した形ですので、それを含め、どう評価していくか、一度やっていいかもしれません。

――最近発表されたMNPのガイドラインは、Webでの手続きを来年5月までに整備するという形です。ユーザーからすると、実施までの時期が悠長に感じられ、総務省は指導しているようで、実際はできていないのでは? と思えます。また中古端末についても、数年前のAndroidスマートフォンに誰がセキュリティパッチを提供するのか。物によってはメーカーが撤退していることもあります。本当にうまく進むのでしょうか。

小林氏
 基本的にはお客さまの選択肢を増やしていくということでやってきました。

 一方、MVNOもあまり選ばれてきませんでした。消費者として、最適なプランを選べているのか、賢い選択ができているのか。選択肢があっても、ちゃんと選べているのか。

 そこを邪魔しているものがあれば行政として取り除きます。その後、ちゃんと選べるのか。(市場の)可能性はあるのだと思います。

MVNOとサブブランドを同じく扱う

小林氏
 そしてMVNOとMNOには、次の領域で競争していただくことで、話を進めたいとも思っています。サブブランドと普通のMVNOが差別的に取り扱われないよう、明文化していきます。

 今年前半の有識者会合では「同じ料金で、同じ帯域幅を借りているはずなのに、サブブランド(およびMNO子会社のMVNO)のほうが速いのではないか」という指摘がMVNOから挙がりました。調べてみると、確かにサブブランドのほうが速かったのですが、その分、お金を払っていることが判明し、不正ではないことが明らかになりました。

 でも、そういう疑義が挙がるのであれば、運用で対応していた部分を、不正が行われないよう明文化していくというわけです。

――最近、MVNOの速度差別を禁止するという報道もありましたね。

小林氏
 それはまさに今申し上げたことです。今春の検討会で、データを開示してもらい、不正がないことがわかったのですが、今後も不正がないようにルール化しようと。

――なるほど。一方で、報道に対してユーザーの受け止め方として「私が今利用しているMVNOのサービスが速くなるのか」という感想を抱いた人もいるようです。

小林氏
 実際は、MVNOからの疑問をもとに調査し、今後も気持ちよく競争していただくために整備することにした、というわけです。

――では、大手キャリア(MNO)の料金が4割下がったとしてMVNOへの影響はいかがでしょうか。

小林氏
 基本的には、無理矢理料金を下げたいというわけではなく、競争環境を整えていくことで、(料金が下がる)そういう状況を作りたいのです。ではMVNOはどうするのか。

 MVNOとしても、民間の事業として競争環境があることを理解した上で参入されてきたと思います。ですのでまさに工夫していただくことになるでしょうし、MVNO事業の継続が難しければ、統合などで骨太の経営にしていくということもありえるでしょう。

 無理にMVNOの振興を図るわけでもありません。MVNOに対するフェアな環境を作ってきましたので、そのなかで判断していくことになります。

――官房長官からは、「4割発言」の根拠の1つにOECDのデータとの比較がありました。ただ、日本は、携帯各社が災害対策に費用を投じ、地下や新幹線でも利用しやすい。そうした環境の違いをどう見ていますか。

小林氏
 日本の状態がどうなっているのか正確に伝えていく、国民と共有する必要があると思います。そういう中での料金であることを共有することは重要で、大前提としてあるでしょう。中位くらいの料金で、安定したスピードが出ていると。

 ただ、競争環境を見ると3社で膠着状態だったのは事実で、今回、楽天の参入で競争環境を作っていけることになったわけです。

 菅官房長官も、総務大臣を経験していらっしゃるので、携帯電話会社の取り組みはよくご存じです。その上で、冒頭申し上げたように、政治家としてメッセージ、今回提示した改革をやりきるという覚悟を伝えるためのアクションだったのだろうと推察しています。

環境整備が政治・行政の役割

――料金の4割減って、本当に実現できるのでしょうか。

小林氏
 もし楽天が掲げている計画が実現されたならば、ある種、そうなるのでしょう。

――それは、携帯大手の料金がそうなるべき、そうなったほうがいいと政策を整備されていかれるのでしょうか。あるいはMVNOを含め、ユーザーの平均的な料金水準がそうなるべきという形なのでしょうか。

小林氏
 あくまでも、政治・行政が言っても、民間の料金が下がるということではないでしょう。ただ民間企業がそういう選択をすることはあって、ユーザーにとって選べることは重要です。料金が高止まりしているのであれば競争環境を整備するのが我々の仕事です。

 阻害要因が何なのか、たとえば接続料は以前から指摘されており、フォローアップ会合でも取り上げます。そうやって壁を1つ1つ取り外して、民間企業がやりたいことにチャレンジできる環境にしていきます。

――なるほど。ただ、政策として目標を掲げつつ、自由経済ですからそれを押しつけることはできませんよね。そのあたりを、もどかしく感じることがあります。

小林氏
 それは、政治や行政に対して、かなり万能感を抱いていらっしゃるのかもしれませんね。我々はルールメイカーで、インフラを作る立場です。土台を作れども、実際に何をやるかは民間次第です。

 官房長官の発言は、政治家としてのビジョンを示したものであって、必ずそこに向けて(強制的に)やるというわけではありません。

意見交換会、非公開は「社内の会議だから」

――なるほど。今回の取材では、政治・行政の役割と、民間の役割という基本をあらためて解説していただいている格好になってきた気がします。ちなみに、先般、総務省、公取委、消費者庁で意見交換会が実施されるとの発表がありました。非公開で開催されるそうですが……。

小林氏
 基本的に組織内の意見交換は非公開なのです。“社内”の打ち合わせをオープンにするのか、ということと同じなんです。もし正式に政策として打ち出していくということであれば、有識者会合で議論することになります。そういう切り分けなんです。

――意見交換会を実施すると発表されたこと自体が異例ですか。

小林氏
 珍しいですね。ただ、多く注目をいただいていることから発表はしようと。ただ、国民に対してどうコミュニケーションしていくか、意識を高めていくべきだと私は思っています。

 たとえばMVNOができても、なかなかシェアが上がらない。制度を作っても選ばれなければ世の中は変わりません。行政の仕事は、制度を作るまでになりがちです。そこの架け橋は政治家の仕事でしょうし、ちゃんと国民の皆さんへ伝えていけるか、今後の課題ですね。

――では公開で実施される有識者会合で、構成員の方々の意見がちょっとユーザーの感覚からズレているのでは? ということがあります。

小林氏
 構成員の方々については、詳しい方に入ってきていただきたいですね。ただ、詳しすぎてどっぷり浸かってしまったら見えない視点もあります。広い視野で見ていただく必要があり、バランス感覚が重要でしょう。

 実際に、通信分野とは違う、とある検討会を開くときには、偏りがあるよね、ということで構成員を選んだこともあります。

次の議題は「接続料」

――今後のスケジュール感を教えてください。

小林氏
 既にガイドラインで打ち出したことについては、民間の方々次第です。

 一方で、課題として残っている接続料は2019年3月末までにはしっかりやっていきたいですね。

――接続料については、どんな方向で進めていかれるのでしょうか。

小林氏
 そこは本当にこれからです。たとえば「接続料の根拠」「接続料の適正さ」という論点があるでしょう。

 「4割発言」に対しては、そんなにびっくりしないでくださいね、とお伝えしたいです。我々がしっかり準備してきた改革案を公開の場で議論し、打ち出してきたことを踏まえたものです。

――なるほど。今日はありがとうございました。