【WIRELESS JAPAN 2010】
KDDI黒澤氏、LTEに向けた取り組みを紹介


KDDI黒澤氏

 WIRELESS JAPAN 2010の最終日、次世代の通信をテーマとしたセッション「LTE&4G移動通信サービス構想」で、KDDI 技術統括本部 技術渉外本部 企画調査部 標準戦略グループの黒澤葉子氏は、「KDDIの次世代移動通信システムへの取組み」と題した講演を行った。

通信量の増大が続く

携帯電話市場の成長について

 黒澤氏は、現在の携帯電話市場の伸びについてのグラフを示し、「まだ成長している市場。とくに直近ではスマートフォンとモジュール系の伸びが大きい」と分析する。

 auの夏モデルについても紹介し、「ユーザー調査では、水に困った人が78%いて、防水にニーズが多いことがわかる。そこから全機種防水とした」と説明する。auのスマートフォンであるISシリーズについては、「ネットブックの画面の大きさと、いつでもどこでも起動できるスマートフォンの良さ。それらの“良いところ取り”をした」と語り、さらに日本市場向けにワンセグや赤外線通信、auのメールやLISMOにも対応すること、日本人に使いやすくカスタマイズしたau独自のマーケット「au one market」を導入することなどを紹介した。

auのオフィシャルコンテンツの進化

 黒澤氏は、auが提供してきたコンテンツ・サービスを紹介しつつ、「導入時期が新しいものほど、コンテンツのサイズは大きくなり続けている」として、データ量が増え続けていることを指摘。さらに直近でのトラフィック量の推移のグラフを示し、「2年半で2.5倍と驚異的に伸びている。とくにモバゲータウンやGREEなどSNS系は、トラフィックが過去1年間で2倍程度に伸びた。SNSなどはパソコンからモバイルへと利用が移行していることがわかる」と分析した。

 今後のトラフィックについては、「LTEの導入によりブロードバンド化が進むと、さらに増える可能性がある」と指摘し、KDDIがLTEを導入する2012年には現在の2.5倍、2015年ごろには現在の6倍にまでトラフィックが増えると予想。こうしたパソコンから携帯電話への移行トレンドと、それに伴うトラフィック増加から、通信容量の拡大とLTEなどの新技術が必要だと指摘した。

auのトラフィックトレンドトラフィック予測

増大するトラフィックへの対策

KDDIの無線インフラの進化

 このような状況を踏まえ、黒澤氏はKDDIの基盤インフラ進化について話を移す。KDDIでは2002年にCDMA 1Xを導入しているが、これについては「現在も音声通話の基盤インフラであり、音声通話サービスには当面CDMA 1Xを使い続ける予定」と説明する。データ系のインフラとしては、2003年からEV-DOを導入。そして2010年からはEV-DOのマルチキャリア化を行い、2012年よりLTEを導入する予定であることを紹介した

LTEの必要性LTE導入までのインフラ進化
Wi-Fi WINについて

 KDDIでは2012年よりLTEを導入するが、それまでのあいだは現行システムを改良することで、トラフィック増に対応していくという。

 現行システムを使った取り組みとしては、まず2009年にはWi-Fi WINを開始。黒澤氏は、「Wi-Fi WINは、ユーザーにとっては高速な通信が可能となり、大容量ファイルのダウンロードにも対応できるというメリットがある一方、事業者にとっては通常の基地局トラフィックを迂回させるメリットがある」と説明する。

 続いて2010年には宅内向けのフェムトセルとEV-DOのマルチキャリアを導入する。フェムトセルは高層マンションなど、既存の基地局の調整やレピータで対応できない場所に有効だが、そのメリットに加え、黒澤氏は「宅内にいる特定少数のユーザーでRev.Aの回線を占有するので、高品質・高スループットの通信ができる」と紹介した。

フェムトセルについてauフェムトセル。GPSアンテナを窓際に設置する
マルチキャリアの導入について

 マルチキャリア化については、2010年度中に実施するという。これは、3GPP2で標準化されているRev.Bの機能の一部を採用するもので、Rev.Bでは最大15波を重ねられるところを、KDDIでは3波を重ねられるようなシステムを採用するという。このマルチキャリア対応の端末については、2010年の秋冬モデルから対応していくという。電波を重ね合わせるので、現状の最大3.1Mbpsの通信速度は、3波のマルチキャリア化により最大9.3Mbpsとなるという。

LTEの課題と将来への技術

LTEのエリア導入イメージ

 そしてLTEは、2012年4月より商用ネットワークとして導入する予定であると説明するとともに2014年時点で現在のRev.Aに相当するエリアの実現を目指しているとした。

 具体的なエリア展開のイメージとしては、まずは新800MHz帯を中心に導入する。そして1.5GHz帯は、データ通信の需要が多い地域に向け、容量を補完する帯域として使う。ただ、すぐにLTEへ移行するわけではなく、音声通話にはCDMA 1Xを使い、またLTEがカバーできないエリアではEV-DOを引き続き利用する。そこで黒澤氏は、CDMA 1XやEV-DOとのハンドオーバーが重要になると指摘する。

 黒澤氏は、「エリアフリンジ(エリアの縁)において必要になるインターワーク機能については、標準化が行われている」とし、EV-DOからLTEのシステムに切り替わる仕組みも紹介した。ここでは、コアネットワークを共通化することで、よりシームレスに切り替えられるようになるという。

 音声についても、異なる通信方式を繋ぐインターワークが重要になると指摘する。LTE搭載のハンドセット端末は、電源を入れるとLTE上で端末位置を登録し、着信があるとLTE経由で通知し、応答は1Xで行うという仕組みになる。黒澤氏は「LTEでセットアップして1Xに渡す、という仕組みも標準化が行われている状態」と紹介した。

 さらにネットワーク側としても、回線交換設備の交換が必要になると言う。黒澤氏は、「内部処理をSIP化し、VoIP処理に対応する将来の拡張性を備えたものにする。2015年ごろまでに回線交換システムを巻き取る」と説明した。

データ通信のインターワーク交換網のIP化
LTEで実現できること

 LTEによって実現するサービス・機能として、黒澤氏は、「LTEは速度が速いだけでなく遅延も少ない。エンターテイメント用途からシンクライアントなどの業務用途まで、さまざまなところでユーザーエクスペリエンスが改善される。さらに機器間通信のモジュールもLTE化し、あらゆるものがLTEになる可能性もある」と語った。

 また、LTEの後の方式、いわゆるLTE-Advancedについて黒澤氏は、KDDI研究所でさまざまな研究を行っていると紹介する。

 たとえばセル境界などで複数の基地局がある環境で、通常なら干渉のため、伝送速度が落ちる場合、複数の基地局がMIMOとして連携することで伝送速度を向上させるという「マルチサイトMIMO技術」を研究しており、「実際に横浜駅周辺で電波伝送実験をしたところ、改善を確認できた」という。

 機器間通信モジュールの増加により、無数の端末がネットワークに繋がる状態を想定したアーキテクチャの研究も行っている。具体的には、これまでコアネットワークが担当していた機能の一部を、基地局などネットワーク側に処理をさせ、たとえば基地局間で直接通信できるような仕組みを研究しているという。

マルチサイトMIMOについてミニマム・コア アーキテクチャについて

インフラ面での環境対策や災害対策

 このほか、KDDIによる環境配慮の取り組みも紹介された。その1つが、ベースバンドユニットなどを屋外に設置できるようにして、基地局の小屋のエアコンを不要にする取り組みだ。電力消費を低減できるだけでなく、省スペース化や軽量化、ファンレスによる低騒音化も実現できているという。

 太陽電池と蓄電池、商用電源を組み合わせたトライモード電源を導入した基地局についても触れ、「3つの電源方式を組み合わせ、省電力に適したものを使うことで、CO2排出量を2~3割削減できた。トライアルで6局設置しているが、これを10局まで増やす予定」とした。

エアコンレス基地局についてトライモード電源について
移動基地局について

 災害時への対策についても紹介する。まず災害時に通信が増え、輻輳状態になることへの対策としては、重要でない通信を制限する仕組みがあるとする。バックボーン回線が切断されたり、基地局が損壊したりした場合への対応策として、バックボーンに衛星回線を使う移動型の基地局車両を全国の拠点に10台配置しているという。黒澤氏は、「緊急車両としての届け出が出されていて、被災時にも速やかに移動できる」と紹介した。

 基地局の電源が断たれた時の対策としては、基地局に蓄電池や自家発電装置を内蔵しているという。さらに緊急時の移動電源車両も、全国に50台配備しているという。


 



(白根 雅彦)

2010/7/16/ 20:31