【WIRELESS JAPAN 2009】
ウィルコム喜久川社長、XGPの技術的優位性を解説


ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏

 ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏は、「ウィルコムが目指す、もうひとつの未来」と題し、エリア限定サービス中の「WILLCOM CORE XGP」について、高速データ通信サービスを提供するにあたりどのような点で優位と言えるのか、技術的な根拠を説明した。

 XGPによるデータ通信サービスは現在エリアとユーザーを限定して試験的にサービスが行われているが、喜久川氏は「実際に世の中に出してみて、我々がこれまで言っていた通りのスペックが出ており、『結構速いじゃないか』というご評価をいただいている」と述べ、現在のユーザーからは良い反応を得られていることを紹介した。

 XGPが高速データ通信サービスに適している理由として喜久川氏は、「TDD」「スマートアンテナ」「256QAM」という3つの要素を挙げ、それぞれについて詳しい説明を加えた。

 TDDは、基地局から端末への「下り」方向の伝送と、端末から基地局への「上り」方向の伝送を、短時間で切り替えながら同一周波数で行う通信方式のことだが、これは将来的に海外でXGPのサービスを展開しようとしたときに優位性を発揮するほか、後述のスマートアンテナとも親和性の高い技術だという。

TDDは用意する周波数帯域が1つで良いので、国際展開が比較的容易としている上りと下りの伝送特性が同じほうがスマートアンテナ技術と親和性が高い

 携帯電話では下りと上りの伝送でそれぞれ別の周波数を利用する「FDD」方式が主流だが、この場合2つの周波数帯域をペアで用意する必要があるため、国によっては導入しようとする通信サービスに適した空き周波数が確保できない場合がある。特に、高速データ通信サービスを実現するには従来よりも広い帯域を連続して使用しなければならないので、周波数割り当てが十分に整理されている国でないと帯域を用意するのが難しい。TDDでは必要な周波数帯域が1つだけなので、電波という限られた資源を使って高速なサービスを提供するにはTDDのほうが適しているというのが喜久川氏の主張だ。

 世界の移動体通信市場で最も顕著な伸びを見せている中国では、国策としてTDDによる3G携帯電話技術「TD-SCDMA」が推進されてきたほか、次に控える通信方式として「TD-LTE」が検討されている。また、京セラらが開発したTDDのデータ通信方式「iBurst」は、世界12カ国で運用開始されており、8カ国で試験導入が行われているという。TDDのXGPは国際的に「協調が取りやすい」(喜久川氏)方式であり、同社もTDD陣営の一員として世界にTDD技術を広げていきたいとしている。

 2つめのスマートアンテナは、周波数帯域を効率良く使用するために、ユーザーのいる方向に向けて基地局の指向性を絞り込む技術だが、これを採用するにあたってもTDDであることが好都合としている。

 基地局は、ユーザーから送られてくる「上り」の信号を利用して、ユーザーの方向を演算によってはじき出し、「下り」の出力パターンを変更する。しかしFDDの場合、上りと下りで周波数が異なるため伝送特性に違いが生まれ、最適な出力パターンを精度良く求めるのが難しいという。スマートアンテナは現行PHSでも導入を始めている技術だが、喜久川氏は「実際のフィールド環境でこれを実現できているのはTDDだからこそ」と話す。

 3つめの256QAMは、従来よりも複雑な変調方式であり、一度に送信できるビットの量を増やすことができる。HSDPA等で使われる「16QAM」に比べ2倍、HSPA+、モバイルWiMAX、LTEで使われる「64QAM」に比べ約1.33倍のデータを一度に伝送可能となる。

 しかし、変調が複雑になるほどノイズ等には弱くなり、品質の良い無線環境でないとエラーが起こりやすい。そのため、256QAMは「移動体通信では実用困難ではないかと言われていた」(喜久川氏)技術であり、他の通信方式では現在のところ採用されていない。しかし、XGPは先のスマートアンテナの効果が発揮されやすいため、他の基地局の電波との干渉が起こりにくいというメリットがある。また、マイクロセルのため基地局から端末までの距離が他の方式に比べ平均して短い。これによって256QAMでの伝送が可能となり、同社の試験では基地局から400~500メートルの範囲なら実用的に256QAMが利用できているという。

基地局から400~500m程度の範囲で256QAMが実用的に利用できる256QAMの採用により、上下対称でも下り20Mbpsを確保

 XGPのライバルとなっているモバイルWiMAXは、現在のデータ通信では上りよりも多く使われる下り方向の伝送により多くの時間を割り当てているが、XGPでの割り当ては上下対称となっているのが特徴だ。その分、下りの速度では不利になる可能性があるが、256QAMを実用化したことにより、上下対称でも20Mbps(規格上の理論値)という十分な下り通信速度を確保できることになった。

 また、上りも下りと同じ20Mbpsが確保できるため、これまでになかった新しい分野でのモバイルデータ通信の利用が可能となる。典型的なのは動画の伝送で、街頭に設けた気象・交通情報用カメラにXGPを搭載すれば映像伝送用の有線回線が不要となるほか、これまで中継車を経由して送信していたテレビの取材映像も、カメラから直接アップロードするといったことが実現できるとしている。

 そのほか、ユーザーの集中する都市部では現行PHS同様に基地局を密に配置したマイクロセルの形態でエリアを構築していくが、トラフィックの少ない郊外や地方ではマクロセルを展開することもできるように設計されており、基地局から約2キロメートルの距離で数Mbpsの通信が行えることを確認しているという。

 正式サービス開始に向けては、2.5GHz帯という直進性の高い周波数のため電波が屋内へ届きにくく、それに関して現在調整を行っているほか、スマートアンテナ技術についてもパラメータの調整中であるという。喜久川氏は「現在と同じアンテナでも、チューニングによって屋内浸透も含めエリアを広げられるだろうと考えている」と述べ、エリア、スピードとも10月の本サービスまでに改善を図っていく姿勢を改めてアピールした。

東京駅近辺などの高トラフィック地区では半径100メートル以下のXGPセルも既に存在する郊外では半径数キロメートルのマクロセルも構築可能



(日高 彰)

2009/7/22/ 22:25