【WIRELESS JAPAN 2009】
KDDI小野寺社長、「アンビエント社会」の実現に向けて


KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏

 22日の「WIRELESS JAPAN 2009」にて、KDDI 代表取締役社長兼会長の小野寺正氏による基調講演が行われた。「KDDIの描くICTの役割」と題し、携帯電話を取り巻く市場状況、auが標榜する「アンビエント社会」などについて解説した。


アンビエント社会でバーチャル偏重から脱却

 小野寺氏はまず、携帯電話業界の現状を解説した。「もしかすると聴講客の皆さんは『端末機の販売台数低減』が市場を取り巻いている現状と誤解されているかもしれない。我々通信事業者から見た場合、付帯事業である端末機販売の台数減は確かにあるのだが、通信による売上、トラフィックビジネスそのものの売上が落ちている」と発言。市場的に新たな局面を迎えていると率直に認めた。

 またauでは800MHzの電波帯において、ぶつ切りされた3種類の帯域の免許を持っているがこの再編に現在取り組み中。期限は2012年7月で、投資額は5年間で累計5000億円程度に及ぶという。さらに2012年2月には新しい携帯電話規格「LTE」もスタートする予定。2014年度までに全国96.5%のエリアカバーを目指している。

 小野寺氏はLTE導入の理由について、ビットあたりのコストを挙げる。「パケット定額サービスの導入によって通信量はどんどん増加しているため、設備を増やせばそのぶん収益が上昇するという状況にはない。そのためにはいかにコストを下げるかが重要だ」とし、新規格による通信速度の向上などは副次的な結果であると説明する。現方式と比べて単純試算でも1/5になると見込まれており、その分の通信容量を確保できることが最大のメリットだ。


携帯キャリア各社の売上。端末の販売台数だけでなく、通信料収入自体も落ち込んでいるというLTEの導入計画

 パケット通信料の増加が示すように、携帯電話は一般市民の生活に深く根ざしている。auではこれらの状況を踏まえ、携帯電話やICTの存在によって将来実現すべき社会を「アンビエント社会」という言葉で表現。具体的には「一人一人の価値観、ライフスタイルに応じた創造活動を支援(できる社会)」としており、小野寺氏は「これまでバーチャルな世界におけるコミュニケーションが中心だったICTを拡張し、現実世界のデジタル・デバイド解消、自己実現に役立つような枠組み」と補足。ICTの存在を意識せずにサービスを享受できる将来像を示した。

 アンビエント社会では価値観やライフスタイルの多様化も重視されており、auでもさまざまな用途の携帯電話を夏モデルとしてすでに販売中。電子書籍の閲覧に特化した「biblio」などはその代表例という。

 biblioには無線LAN機能を内蔵した。小野寺氏が「携帯電話といえば外で使うものだが、大容量動画の閲覧のために宅内で利用するケースも増えている」と語り、通信量削減の観点からも無線LAN機能の重要性は高まっているとした。auではこのほか、携帯電話に挿入して利用するmicroSDカード形式の無線LANカードも試作している。


アンビエント社会の定義バーチャル偏りがちだったICTをリアル(現実世界)へ拡張するねらいがある

エアコンレス基地局の研究など、環境問題も重視

 小野寺氏はここでWIRELESS JAPAN 2009会場で展示されている「実空間透視ケータイ」、高速化された赤外線通信規格「Giga-IR」への対応、沖縄県のユビキタス特区で実証実験中の放送サービス「MediaFLO」についても言及。電波の届かない「不感地帯」を解消するため、高分離度アンテナを用いてよりコンパクトかつ低廉に建設可能な無線リピーター(レピータ)についても研究を進めている。

 中でもMediaFLOについてはそのメリットを指摘。「ワンセグをはじめとした放送サービスのエリアとは、携帯電話の通信エリアとはまったく考え方が違う。放送では、地上のある一定の高さにアンテナが立てられている前提のため、携帯電話での視聴に適していない場合もある」とし、映像の快適な視聴にはMediaFLOの利点が大きいと説明する。


研究分野の1つ「MediaFLO」。ワンセグよりもさらに携帯端末を意識しているという放送サービスだ高分離型アンテナを用いた無線リピーター(レピータ)の研究事例

 またICTにおける今後の課題として環境問題への配慮、特にエネルギー消費量低減に向けての取り組みが必要だと小野寺氏は語る。ICT自体を活用してヒトやモノの移動を抑えることに加え、ICTの運用に伴う電力消費量自体の削減という両面からのアプローチが必要だと解説する。

 KDDIの全電力消費量のうちオフィス使用分はわずかに1.6%で、残るすべては基地局、センター施設の使用分。サーバーや通信関係の設備類は発熱を伴うケースがほとんどのため、これらの熱量を制御するエアコン設備もまた消費電力を増大させる要因になっている。エアコン不要で運用できる基地局設備や、太陽電池と蓄電池を併用した給電手法について現在研究を進めているという。

 加えて、小野寺氏は携帯電話リサイクルへの積極的な協力を求めた。「利用者の思い出である写真などが納められているため、すぐには廃棄しづらいのだとは思う。auとしては新しい端末へデータを移行させる仕組みなども用意しているのでぜひ協力を」と聴講客に語りかけた。

 講演終盤のまとめとして、小野寺氏はアンビエント社会の概念を再び提示。ユビキタス基盤を発展させ、生活空間にICTを溶け込ませる必要性を例示。「利用者が情報を取りに行くPULLから、PUSHへの進化などを目指したい」と語っている。


KDDIの電力消費量。約98%を基地局およびセンターが消費しているエアコンを必要としない基地局設備の開発にも取り組んでいる



(森田 秀一)

2009/7/22/ 19:00