【mobidec 2010】
ドコモ・KDDI担当者がプラットフォームの動向を語る
11月25日に開催されたモバイル業界の講演イベント「mobidec 2010」では、「2010年代のケータイプラットフォーム市場の行方」と題し、キャリア担当者による講演とパネルディスカッションが行われた。NTTドコモからは、スマートフォン事業推進室 アプリケーション企画担当部長の山下哲也氏が、KDDIからは、ポータルビジネス部 部長の江幡智広氏が登壇した。
■スマートフォンとは何か
ドコモの山下氏は、プレゼンテーションの冒頭で「2010年はスマートフォンに始まり、スマートフォンで終わるといってもいい。めまぐるしい変化が起こっているが、目につきにくいこともある」と語り、スマートフォンに注目が集まる中で、見落としがちだという項目を挙げる。同氏は、海外の調査会社の担当者が明らかにした、「2年後に、スマートフォンの出荷台数がパソコンを上回る」という予測を「変化のひとつの数字だ」と紹介し、スマートフォンとは何か、スマートフォンで何が変わるのか、どう取り組んでいくべきか、という3点を解説した。
同氏はスマートフォンを的確に表す言葉として、アップルのスティーブ・ジョブズによる「インターネットデバイス」という発言を紹介した上で、従来の携帯電話を「見た目はスマートフォンやパソコンに見えるかもしれないが、進化しない専用デバイス」と表し、一方のスマートフォンを「パソコンと同じような性格で、細かいバージョンアップを繰り返す、進化し続ける汎用デバイス」と定義する。
そうしたスマートフォンでできることについては、Android 2.2でFlash 10.1をサポートされている点や、ブラウザのChromeで提供されているGoogleマップの連携・プッシュ通知機能などを例に挙げ、「グローバル単位でつながり、個人でも参加できる。スマートフォンはケータイではなくインターネットデバイスだ」と語り、前述のスティーブ・ジョブズの発言に帰結した。
山下氏によれば、スマートフォンによる変化とは氷山の一角であり、「情報の伝達・共有・保存が劇的に変わっている」と、世界全体で起こっているインターネット環境の進展の中にあるとする。「産業革命以来の大きな変化だと思っている。権力関係もがらりと変わる」として、先日の尖閣諸島のビデオ流出などを例に、マスメディアの相対的な衰退などを指摘。Google TVの登場やKindleの普及、iPodとサービス、Twitterといったインターネットを中心としたの情報革命の“つなみ”に言及し、「まもりを固めるという方法もあるが、グローバルの時代に逃げ場はない。ルールが変わり、インターネットのフリーの概念の中で、インターネット標準やグローバルの共通性、スピードが重要になる」と語った。
具体的には、「料理を作ったことがないのにレシピを作るのはナンセンスだ」と表現し、ソフトやサービスの仕様書は必要なく、「その時間があればソースコードを読んで理解するというのがこれからの形」であるとする。必要であればシンプルに自分でコードを書き、(足りない領域は)関係性を構築し共有するなどして協調を図ることが重要になるという。山下氏はこの3つを「オープン」「スマート」「コネクト」と3つキーワードで表した。また、エバーノートCEOの発言を例に、時間とともにユーザーにとっての価値が上がるサービスが重要になるとして、「アプリも、マーケットも、手段に過ぎない」とした。
山下氏は最後に、「モノづくりではなく仕掛け、仕組みが作れるのかを考えてほしい」「状況に応じて最適化された情報を提供するのが、最先端のプレイヤーの中で最も熱い話題」「論理ではなく、感覚に訴えるサービスに取り組んでほしい」と集まった業界関係者に訴え、「大きな流れの中で、どう進んでいくのか、新しい、違うことを考えていかなければならない」と締めくくった。
■ユーザーとの接点を拡大
KDDIの江幡氏は、同社が進めている方針に沿う形で「ユーザーとの新たな接点を拡大することが重要」とプレゼンテーションを始めた。同氏はその拡大方法について、「オープンなインターネットの世界では、外部のパートナーとの連携が重要。これまではキャリアのポータルだったが、ユーザーが集まるところに接点を持ち続けることが重要になる。マルチデバイス・マルチアクセスを志向しながら展開する。パートナーとのビジネスを最大化するクラウドが重要になる」という方針を示し、コンテンツ関連で積極的に提携を拡大している同社の戦略を語る。
同氏はAndroidにおいて課金システムの改善や月額課金システムを導入している点に触れたほか、今後も提携を拡大していく方針を改めて示し、「多くのコンテンツプロバイダーと仕事をしていきたいと考えている」と語った。
■ドコモ山下氏、KDDI江幡氏でパネルディスカッション
パネルディスカッションの時間では、モバイル・コンテンツ・フォーラムの常務理事の岸原孝昌氏をモデレーターに議論が行われた。まずはシンプルに「モバイルコンテンツビジネスは今後どう変わるのか?」という問いがなされると、山下氏は「モバイル・ケータイといった、そういう分け方は無くなるのではないか」と予想し、江幡氏は「マルチデバイス・マルチアクセスの時代には、広い意味でグローバルのビジネスになるだろう」と、より広大な市場に変化していくとの見方を示した。
コンテンツプロバイダー(CP)にとっては、スマートフォン、フィーチャーフォンのどちらに向けてコンテンツを提供するのか、どちらも対応していくのかなど、検討課題が増えている状況だが、山下氏は、「全部やる必要はない。ターゲット層によってデバイスは決まる。HTML5ではそういった差を吸収できる部分も大きくなるが、なにをやりたいのか、どこに出したいのかで決まる」としたほか、江幡氏は「自分たちだからできる、という考えを中心にすると、ユーザーにも分かりやすいのではないか」と特徴付けが重要になるとした。
ターゲットとするユーザー層が持っている端末すべてに対応するのか、といった問題に対しては、山下氏はAPIの公開で他社から提供されサービスが活性化するという例を挙げて「こういう狙いはアリだと思う」とした。
スマートフォンの普及が叫ばれる中では、シェアの転換期が気になるところだが、市場の15%を超えると急速に拡大が始まるという事例を基に、これがいつ訪れるのかが問われた。山下氏は、「来年(2011年)に折り返し地点、ターニングポイントがくると考えている。年明け早々には、海外でも大きな動きがあるだろう」との見方を示すとともに、安価なAndroid端末が登場する可能性についても「今後、店頭価格100ドルなどで中国市場で出ると言われている。今のレベルのスマートフォンでも、1万円台が視野に入っていると考えていいと思う」と、大幅なコストダウンが見込まれていると予測した。
江幡氏も同様で、「来年の早い段階で、機種変更を含めて動きがある。普及層に広まる時期は、思ったよりも早くくるのではないか」とこちらも予想を上回る速度でスマートフォンの普及が進むとの見方を示した。
オープンなプラットフォームの時代には、CPが課金のシステムに踏み込むことも可能だが、これまでなら会員数100万人が成功事例として扱われることに対し、山下氏は、「世界のインターネット先端層の人口から考えて、1億がひとつの基準、大きな分岐点になる」とした。また、CPにおけるアプリやサービスの開発段階では、端末やプラットフォーム固有の情報をどこから提供してもらえばいいのか分からないというCPもいるとのことで、こういった点については、Androidでは端末メーカーに比較的情報が多いものの、実装は自由であり、明確な答えはないという結論になった。
パネルディスカッションの最後では、山下氏から「先が分からない時代だが、インターネットの世界はもともと分からない。全力疾走する勇気、リスクをとる覚悟が真剣に問われている」と語られ、江幡氏は「ここ1~2年で大きく変わらないといけない。皆さんも、今までの時代とは違うんだと思いながら、一歩を踏み出してほしい」と締めくくった。
(太田 亮三)
2010/11/25/ 21:00