【IFA2016】

ソニー平井CEO「ラストワンインチで感動を引き起こす商品を」

XperiaやPSVR、スマートプロダクトについて語る

 フラッグシップモデルの「Xperia XZ」や、コンパクトモデルの「Xperia X Compact」をIFAに合わせて発表したソニー。そのプレスカンファレンスに登壇したのが、社長兼CEOの平井一夫氏だ。同氏は、ユーザーとメーカーの接点である「ラストワンインチ」の商品を作ることの重要性を語った。

 その平井氏が、報道陣の取材に応じた。スマートフォンやその周辺分野に関する一問一答は以下の通り。

ソニーの社長兼CEO、平井一夫氏

――プレスカンファレンスでは「ラストワンインチ」という言葉を使っていました。これまでの「感動」との関係を、詳しく教えてください。

平井氏
 昨今、すべての価値がネットワークの方に移ってしまい、お客様が使う商品、デバイスはコモディティ化しているので価値がないという言われ方をすることがありますが、私はそうは思いません。人間の五感に触れるもの(デバイス)は、いくら(価値が)クラウドにいっても必ずあります。それを説明しようとすると、2分はかかってしまう(笑)。何かいい表現はないかと思っていたとき、役員会でふと「じゃあ、ラストワンインチはどうよ」と言ったら、皆さんが「いいですね」とヨイショする(笑)。ただ、考えてみたら、これはいける。うまい表現を見つけたと思いました。

 そのお客様との接点であるラストワンインチで、感動モーメントを起こせることが、ソニーの価値だと思っています。副社長のころから「感動」や「WOW」と、ずっと言ってきました。最初は「なんなんですかね」という議論はありましたが、マネージメントが一貫してメッセージを発し続けてきた結果、社内でも浸透してきました。ワンパターンだと言われてしまうかもしれませんが、副社長のころからずっと考えていたことで、その場の思い付きとは違います。

プレスカンファレンスでは「ラストワンインチ」という言葉を使い、ユーザーとの接点であるハードウェア開発の重要性を説いた

――プレスカンファレンスでは、Xperiaの発表に多くの時間が割かれました。その理由を教えてください。

平井氏
 どの商品群、どの部署をハイライトするかは毎回議論しますが、今回はXperia XZとXperia X Compactを発表するタイミングがあり、そこを厚くしました。それから、Xperia Earをはじめとする、Xperiaの体験を広げる商品を発売、もしくは進化させるので、その報告をしたかったというのがあります。

 (Xperiaに時間を割いた理由の)1つには、ソニーのモバイルビジネスに対するコミットメントを紹介するいい機会だと思ったことがあります。年度が終わらないと分かりませんが、(モバイルの)黒字化への道が見えてきました。それも含め、力強いメッセージを出そうというのが目的です。もちろん、そこには強い商品もありました。

プレスカンファレンスでは、Xperia2機種の発表に多くの時間が割かれた

――高付加価値モデルにシフトしていますが、一方で日本では「実質0円禁止」の余波で市場が縮小しています。この点はいかがでしょうか。

平井氏
 現行の商品を含め、今までのXperiaは、日本市場で高い評価をいただいています。ソニーのスマートフォンの場合、価格が低いところで戦っても、ビジネスにならない危険性があります。台数も大事ですが、あえて付加価値の取れるところでビジネスしようというのが、基本的な戦略です。

 じゃあ、どこで差異化をするのか。(今は)ソニーの持っている撮影、撮像技術を、徹底的に盛り込んでいます。デジタルイメージングの低価格帯のものが、スマートフォンに置き換わっています。それでも、サイバーショットが1台売れなくても、ソニーのスマートフォンに変えていただければいい。それが1つのストーリーとしてできるよう、惜しみなく技術を投入しています。

 ほかのカメラメーカーは、スマートフォンをやってませんからね。そこは、(カメラメーカーという視点で見たときの)ソニーのアドバンテージです。

――スマートフォンの黒字化ということですが、注力している国はどこになるのでしょうか。

平井氏
 全地域に全展開するのではなく、中近東やアジアなどの市場で、ある程度のシェアがあり、ビジネスができているところに注力しています。中国の市場も、本当に台数を絞り、赤字が出ない程度で回していて、そちらでも黒字化しています。

 一方でアメリカは市場が大きく、競争も激しいので、あえて今の段階で入っていくことは控えています。以前だと、全世界でなるべく大きい市場に入り、台数を出してビジネスをやろうとしていましたが、それだと価格競争に巻き込まれ、(ソニーが不得意な)ミッドからローにまで手を出してしまう。そのメリハリをかなり強くして、儲けるところで儲けるというのが戦略です。今、注力しているのが日本、アジア、それから中近東になります。

――来週(取材は9月2日に行われた)、他社がFeliCa搭載スマートフォン(新iPhoneのこと)を出すと言われていますが、FeliCaの可能性はどう考えていますか。

平井氏
 FeliCaは特に日本とアジアを中心に、普及しているビジネスです。今後も、いろいろな形で、大事に育てていきたいですね。

――ソニーグループのIoTについて、どうつないでいくのでしょうか。

平井氏
 現在という意味では、一番進んでいるのがソニーモバイルの商品群だと思っています。他社との取り組みを発表していますが、やはりIoTはネットワーク上でのサービス展開を考えると、なんでもかんでも自社でやるという昔の「ソニー流」には限界があります。外のパートナーと積極的に組み、ネットワークのビジネスを展開することが重要だと考えています。

――PlayStation VRが好調とのことですが、スマートフォンでのVRはどのように考えているのでしょうか。

平井氏
 PSVRに関してはまだ発売していませんが(笑)、予約という形では好調です。ソニーにとって一番大事なのは、PSVRという商品を通じて、まずはゲーム、その次にはノンゲームのコンテンツを徹底的に楽しんでいただくことです。快適に楽しんでいただけるVRを確実にお届けすることが大事で、まずはそこに注力しています。ほかでどうするのかは、その次に考えることですね。

 ゲームというか、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)にVRを託したのは、PlayStation 4という性能の高いコンソールがあったのと、実写よりゲームの方が調整ができるからです。VRの仕上がりを細部に渡って調整できるため、本当に楽しんでいただくには、ゲームが一番いいと判断して注力しました。

 もちろん、ソニーグループにはソニーミュージックやソニーピクチャーズもあり、実写を含め、どんなものがあるのかをすでに議論していますし、一部は製作もしている状況はあります。

 VRがうまくプラットフォームとして立ち上がれば、ゲーム以外の広い世界も見えてきます。たとえば、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の前にVRで慣れてもらったり、旅行代理店がハワイのビーチはこんな感じと(お客さんに)見てもらったり、住宅や店舗をリモデリングする前にどういう風に家具を配置するのかを体験してもらったりという応用もできます。

 VRはかなり大きな市場になる可能性を持っています。ソニーは、プロフェッショナルなカメラから編集、PSVRというアウトプットまで、全部のバリューチェーンを持っています。VRという“水位”が上がると、私たちの船は大きいので、そのまま一緒に上がっていくことができます。

VRはモバイルではなく、PlayStation VRやゲームに注力する

――時計に関しては、いかがでしょうか。

平井氏
 様々なスマートウォッチが出てきましたが、本当にヒットした商品はまだまだありません。スマートウォッチは機能やバッテリーライフと、デザインなどの感性に訴えるもののバランスですが、本当に刺さっている商品がないのだと思います。

 弊社もいくつか出してきましたし、引き続きやってはいきますが、同時にスマートウォッチとは違うが、普通の時計とは違うものをやっていきます。スマートウォッチとは違うが、プラスアルファを持っているものですね。これは評価いただいているので、wena wristのチームも、FES Watch Uのチームも、(次を)考えています。

 こういうもの(FES Watch U)は遊び心があっていいと思うし、ソニーらしいとも言ってもらえます。こういったトライはどんどん続けていきたいですね。

発表されたばかりの「FES Watch U」をプレスカンファレンスで披露する平井氏

――本日はありがとうございました。