法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

これでいいの? NTTドコモの新料金プランの課題と対策

 4月15日、NTTドコモはかねてから予告していた新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」を発表した。菅官房長官の「4割下げられる余地がある」発言に端を発した値下げの流れがいよいよ具体的に発表されたことになる。

 今回の新料金プランについては、すでに記事が掲載されたが、ここでは新料金プランの内容をチェックしながら、ユーザーとして取れる対策などについて考えてみよう。

完全分離プランへ

 携帯電話を利用することで発生する月々の料金は、これまでも何度も改定がくり返されてきた。NTTドコモに関して言えば、2014年5月に発表された「カケホーダイ&パケあえる」が直近までの料金プランで、国内音声通話の定額が実現されたことなどがトピックとして注目された。

 この「カケホーダイ&パケあえる」発表から5年が経過し、新しい料金プラン「ギガホ」と「ギガライト」が発表されたが、その背景には 「分離」 というキーワードが存在している。

 これまで、私たちが各携帯電話会社と契約し、回線を利用する場合、その回線を利用するための端末も必要になるため、回線契約と端末販売が事実上、セットで提供されてきた。かつてのケータイ時代、回線契約に伴う販売奨励金を活用し、各販売店の店頭では「新規契約0円!」と書かれた広告が並び、2006年にスタートしたMNP(携帯電話番号ポータビリティ)では顧客獲得競争が激しくなり、各社の乱売に拍車を掛けることになった。

 ところが、2007年に総務省が行なった「モバイルビジネス研究会」において、こうした販売が問題視され、その後、販売奨励金を利用した販売方法は見直されることになる。

 その結果、生み出されてきたのがいわゆる端末購入に伴う「月額割引」であり、NTTドコモではスマートフォン購入に伴う割引サービスとして、2011年3月から「月々サポート」という名称で提供されてきた。

 月々サポートは機種変更や新規契約で端末を購入したとき、端末代金の負担が大きくなることから、毎月2000円前後が24回に渡って割り引くというものだ。ただし、24回の割引を受けている間に、他の機種へ機種変更をしてしまうと、割引は打ち切られるしくみとなっている。

 また、月々サポートとは別に、ドコモオンラインショップでは旧機種などを割安に販売するために、「端末購入サポート」という割引サービスも提供されている。端末購入サポートは端末購入時、一定の条件を満たすことで、端末代金を割り引く。条件は指定される料金プランへの加入などで、端末購入後、12カ月は同じ機種を使い続けるという条件も付加される。

 機種によって利用期間が異なるケースもあるが、現在は最後の駆け込みということもあり、かなり割引額が大きく、当初の販売価格の1/4程度で購入できる機種も販売されている。

 この他にもNTTドコモでは対象機種を購入したとき、永続的に月額1500円を割り引く「docomo with」を提供している。これも含め、いずれも「端末購入」と「回線契約」が紐付いた形での割引になっているため、総務省としてはこれが「携帯電話料金が安くならない原因」としてきた。つまり、端末代金を割り引く原資は、 携帯電話料金の本来のコストに上乗せされているから、安くならない というわけだ。

 こうした考えに基づき、2018年11月に総務省が「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)を通じて公開した「緊急提言」では、「通信料金と端末代金の完全な分離」を打ち出し、現在、国会ではその意向を反映した電気通信事業法の改正を進めている。

 今回、NTTドコモが発表した「ギガホ」と「ギガライト」は、この完全分離プランに基づいたものであり、これまでのような端末購入に伴う「月々サポート」や「端末購入サポート」は受けられず、その分、2割から4割は割安な料金になったとしている。

 ちなみに、auは「ピタットプラン/フラットプラン」、ソフトバンクは「ウルトラモンスター+」と「ミニモンスター」で、それぞれがすでに完全分離プランに対応済みとしており、今後、若干の手直しが入る可能性があるものの、基本的には端末の割引をなくし、これらの料金プランで利用することになる。

基本サービスを内包した「ギガホ」と「ギガライト」

 では、具体的に今回発表された「ギガホ」と「ギガライト」は、どのようなプランなのだろうか。詳しい内容は本誌の記事を参照していただきたいが、ここではそれぞれのプランの特長とチェックすべきポイントについて、確認してみよう。

 まず、今回発表されたプランは30GBまで使うことができる「ギガホ」(月額6980円)、1GB/3GB/5GB/7GBの段階定額となる「ギガライト」(月額2980円/3980円/4980円/5980円)の2種類になる。

 大容量プランと段階プランの2種類という構成は、内容に若干の違いがあるものの、基本的にはauやソフトバンクと横並びだ。他社と少し違うのは「ギガホ」を契約し、30GBを超えたときの制限速度が1Mbpsと比較的高めに設定されている点で、送受信ともに1Mbpsの速度が確保されていれば、標準的な画質の動画くらいなら、視聴できる。一方、「ギガライト」の7GB超過時の通信速度は、従来同様、128kbpsに抑えられている。

 今回の「ギガホ」と「ギガライト」がこれまでの「カケホーダイ&パケあえる」やかつての「タイプXi にねん」などと 決定的に違うのは、必要な基本サービスがほぼセットになっている 点だ。

 「ギガホ」と「ギガライト」には基本使用料(月額料金)にspモードなどの「ISP料金」、それぞれのプランごとに決められたデータ量が利用できる「データ通信」、音声通話のための「音声プラン」、ファミリー割引のグループ内で利用できる「家族間国内無料通話」が含まれている。

 従来は音声プランが含まれていたものの、各料金プランごとに音声定額サービスなどが決められ、ISP料金やデータ通信などはオプションとして、追加契約が必要だったが、今回は音声定額サービスがオプション扱いとなっている。

 ちなみに、音声オプションを契約しないときは20円/30秒の通話料が従量制となり、「5分無料通話オプション」は月額700円、「かけ放題オプション」は月額1700円で契約できる。従来プランでは有料のオプションサービスでありながら、キャンペーンという形で実質的に無料で提供されてきたテザリングについては、今回はそれぞれのプランの中に含まれることになった。

 また、「ギガホ」の月額6980円、「ギガライト」の月額2980円/3980円/4980円/5980円という料金は、いずれも2年の定期契約をした場合の金額で、2年契約をしないときはそれぞれの月額料金に1500円が加算された金額が請求される。2年の定期契約をしたときも自動更新の有無を選ぶことができる。

 期間拘束とも呼ばれる定期契約についてはモバイル研究会でも是非が議論されてきたが、他の会員サービスでも年次契約と月額契約で差があるものは数多く存在しており、2年定期契約をすることで、月額料金が割り引かれるしくみは、そのまま継続することになった。2年定期契約が廃止され、月額料金が高くなってしまうことを考慮すると、現実的な判断と言えそうだ。

 ちなみに、2年定期契約については、一般的に「2年縛り」などと表現されるが、端末代金の24回分割払いや月々サポートの24回適用も「2年縛り」と表現されることがある。その結果、まったく 意味が違うものなのに、これらが混同されてしまう ケースが散見される。

 2年定期契約はあくまでも契約が2年間の単位になっているだけで、端末代金の支払いの24回払いとは結び付いていない。たとえば、何らかの理由でNTTドコモを解約した場合、端末代金の分割払いの残債があるときは、そのまま継続して支払うことができる。

 逆に、月々サポートが残っているときは、NTTドコモとの契約が存在しなくなるので、当然のことながら、適用を受けられなくなる。このあたりは新聞などの一般メディアなどでも混同した記事が散見されるが、今回の発表を機に、しっかりと各方面に周知する必要がありそうだ。

ファミリー割引グループを軸に割引サービスを提供

 さて、次に「ギガホ」と「ギガライト」に適用される割引サービスについて、チェックしてみよう。これまでの料金プランでは、NTTドコモに限らず、さまざまな割引サービスが存在し、なかには期間限定の割引キャンペーンなどがあったため、ユーザーを混乱させる要因となっていたが、ここでは今回発表された「継続的に受けられる割引サービス」について、確認してみよう。

 まず、NTTドコモはかつてのケータイ時代から家族での利用を強みとしてきたこともあり、「ファミリー割引」を提供してきた。契約者本人から三親等以内の家族を対象に、最大20回線までのグループを作ることができ、「ギガホ」と「ギガライト」ではこのファミリー割引グループ内での国内音声通話が無料となっている。

 そして、今回はこのファミリー割引グループ内で、「ギガホ」と「ギガライト」を契約した回線が2回線のときは月々500円、3回線以上のときは月々1000円を回線ごとに割り引く「みんなドコモ割」が提供される。ただし、注意が必要なのは対象となる回線が「ギガホ」と「ギガライト」を契約している場合のみ。従来の料金プランを契約している回線は、割引額を変動させるグループの対象にはなるが、割引は受けられない。

 また、ファミリー割引グループ内で、ドコモ光が契約しているときも携帯電話及びスマートフォンの月額料金を割り引く「ドコモ光セット割」も提供される。「ギガホ」の場合は月々1000円、「ギガライト」の場合は月額料金の段階が1GB以内では割引がなく、3GB以内のときは月々500円、5GB以内と7GB以内のときは月々1000円が割り引かれる。「ドコモ光セット割」は「ギガホ」と「ギガライト」以外も割引の対象で、ウルトラシェアパック30では2500円が割り引かれるなどの設定がされている。

 さらに、長期ユーザーを優遇する施策として、「ずっとドコモ特典」が提供される。dポイントクラブのステージ(契約年数で決まる)によって、プラチナは3000ポイント、4thは2000ポイント、3rdは1500ポイント、2ndは1000ポイント、1stは500ポイントがそれぞれ誕生月に獲得できる。この獲得はユーザー自身の申し込みが必要なので、注意が必要だ。

 この他には「ギガホ割」と「はじめてスマホ割」も発表されたが、これらはいずれもキャンペーン割引なので、前述の通り、ここでは割愛する。

新料金プランは安いのか? 高いのか?

 ここまでの新料金プランの説明を読んでみて、読者のみなさんはどのように感じただろうか? 今回の新料金プランは安いのか、高いのかが気になるところだ。

 まず、前提として、確認しておきたいのは、どんな料金プランであれ、使う人によって、どうしても「合う」「合わない」、つまり、「安くなる」「安くならない」が出てきてしまう。仮に安くなる場合でもその幅には人によって開きがあり、誰でも一律、同じように安くなるわけではない。

 NTTドコモでは今回の「ギガホ」と「ギガライト」について、約2割から約4割、安くなると説明していたが、最大の約4割に該当するのは月にデータ通信料が1GB以下のユーザーで、「ギガライト」に切り替えることで、約4割安くなり、NTTドコモの契約数の内、約4割がこれに該当するという。

 一連の携帯電話料金の議論を見てきた読者なら、この「1GB以下のユーザーが約4割、存在する」という表現には、やや疑問を持つかもしれない。というのもかつて2015年に総務省が開催した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」において、「ライトユーザー向けの1GB以下のプランが必要」とされたとき、どの程度のユーザーがこれに該当するのかは、メディアを含む一般向けには開示されず(有識者のみに開示)、「本当に1GB以下のユーザーがそんなにいるのか?」と議論になったからだ。当時、情報開示が拒まれたものが今さら料金プランの根拠として使われるなど、どこか不自然な印象を持つのは筆者だけではないだろう。

 また、この1GB以下のユーザーが約4割も存在することについて、こんな見方もある。NTTドコモは長期ユーザーが多く、ビジネスユーザーが多いことでも知られる。昨今、BYOD(「Bring Your Own Device」の略/自分の端末を業務用に持ち込むことを指す)の動きも一般化しているが、企業に勤めている場合、会社から端末(今どきならスマートフォンが多いことが予想される)が支給され、自らの回線(端末)はほとんど通信をしないため、もっとも安いプランに切り替えているビジネスパーソンも少なくない。あるいは契約上、回線は保持しているものの、実質的にはほとんど利用しなかったり、ほぼ着信用などに使われる契約も存在するはずだ。こうした稼働率が低い回線を含んでいるからこそ、「約4割安くなる対象」が約4割も存在する結果が導き出されたのではないだろうか。あまり、そう考えたくないが、一部には「約4割、値下げが可能なユーザー層を探した結果、ここが見つかった」という指摘もあるくらいだ。

 そして、競争環境という意味でも疑問が残る。本来、総務省としては、各携帯電話会社間で競争環境が働き、料金の低廉化が進むことを目指して、さまざまな議論を進め、省令や法改正を検討してきたはずだ。

 しかし、主要3社の分離プランが出揃ってみたところ、実は競争環境どころか、本来、各社が持っていた料金プランの個性が失われ、 実質的に『横並び』になってしまった のは何とも皮肉な話だ。すでに分離プランを導入済みとしているauとソフトバンクもおそらく料金プランの微調整はしてくるだろうが、「大容量プラン」と「段階定額」という2つの選択肢で構成する料金プランの方向性は変わらない。下手に「シンプルな料金プランにすべき」と連呼してしまったがために、こういう結果を招いてしまったとも言えそうだ。

 たとえば、ある携帯電話会社の料金プランはシンプルに2つから選べるが、別の携帯電話会社は幅広いユーザーの細かなニーズに対応するため、料金プランを細分化するという方向性もあり得たはずだ。本来、そういう各社ごとの工夫ができるからこそ、競争環境が生まれるわけで、「とにかく端末購入補助をやめろ」というような小手先の修正ばかりにとらわれてしまったために、こういった『横並び』を生み出してしまったのではないだろうか。

 ちなみに、実際に安くなるかどうかという点については、ユーザーごとに利用状況が異なるため、一概に比較できないが、まずはNTTドコモが公開中の「料金シミュレーション」で比較してみることをおすすめする。すでに新料金プランでのシミュレーションにも対応しているため、現在の利用料金と比較してみるといいだろう。

 ただし、注意が必要なのは現在の利用料金の内、端末代金の分割払いや月々サポートの金額を含まず、あくまでも回線の利用料金のみを比較することだ。前述のように、今回の「ギガホ」と「ギガライト」では通信料金と端末代金が分離されているため、端末を購入しても月々サポートなどの端末購入補助が受けられず、端末そのものは基本的に定価で購入することになるためだ。

混乱を招く「シェアパック」廃止

 今回発表された新料金プランの「ギガホ」と「ギガライト」により、NTTドコモの料金体系は大きく変更することになったが、いくつか混乱や誤解が危惧される要素もある。そのひとつがシェアパックの廃止だ。

 NTTドコモはケータイ時代から家族の契約をまとめる「ファミリー割引」などを強みとしてきた実績があり、スマートフォン向けには2014年5月発表の「カケホーダイ&パケあえる」で、データ通信量を家族間で共有する「シェアパック」を提供してきた。

 ところが、このデータ通信量をシェアするという考え方が「わかりにくいのではないか」という指摘があり、今回の「ギガホ」と「ギガライト」では完全に廃止されている。その代わりとして、ファミリー割引グループ内の対象回線を個別に割り引く「みんなドコモ割」や「ドコモ光セット割」を提供しているが、それだけでは対処できない課題が残されている。

 シェアパックは家族でデータ通信量をシェアするプランだが、もし、主回線の契約者が新料金プランに移行してしまうと、当然のことながら、子回線のユーザーはいきなり1人ずつ個別のパケットパックに移行することになってしまう。ドコモショップでの手続きであれば、ショップスタッフが「影響が出ますよ」と教えてくれるだろうが、My docomoでの手続きではそういった告知もなく移行できてしまう。子回線のユーザーは強制的に個別のパケットパックに移行することになりそうだ。

 また、シェアパックがなくなったことで、家族で契約しているような環境では、今後、それぞれの回線ごとに個別に「ギガホ」にするか、「ギガライト」にするのかを考えなければならない。実は、シェアパックは「わかりにくい」と言われる半面(筆者はそう思ってないが……)、家族で契約するとき、データ通信量を『どんぶり勘定』的に考えられる使い勝手の良さがある。

 たとえば、主回線である父親が「ウルトラシェアパック30」を契約しておき、子どもたちの回線は「データ量上限設定オプション」でデータ通信量を制限したり、離れて暮らす家族の分は分割して請求する「シェアパック分割請求オプション」を利用するといった使い方ができた。

 こうしたファミリー割引グループを活かした料金施策は、NTTドコモならでは特徴であり、複数回線をまとめた契約でもトータルの支払い額が少なく抑えられるメリットがあったが、どういう判断なのか、これを自ら捨ててしまった。もったいないとしか言いようがない。もし、これが一部で言われているように、総務省や有識者で構成するモバイル研究会からの指摘で廃止せざるを得なかったのであれば、実状をよく把握していない指摘によって、ユーザーの負担と手間が増えることになったとも言えそうだ。

ポイント共有にも影響?

 シェアパックが廃止されたことは、料金面以外にも影響はないのだろうか。筆者も気になったので、いくつかの項目をチェックしてみた。

 まず、NTTドコモが提供するdポイントのサービスでは、ファミリー割引のグループと同じ「ポイント共有グループ」が設定され、グループ内のdポイントが合算されているケースが多い。この合算されたdポイントは代表会員が管理する形となっており、シェアパックの主回線と同じ回線が設定されているケースが多いだろう。しかし、シェアパックの主回線ユーザーが新しい料金プランに移行してもポイント共有グループと代表会員には影響がなく、そのまま使い続けることができる。

 次に、家族などでの一括請求についても気になるが、これも一括請求とシェアパックの主回線には関係性がないため、シェアパックの主回線が新しい料金プランに移行しても影響はなさそうだ。

 こうしたファミリー割引グループとの結び付きがあるサービスやプランについて、今回「ギガホ」と「ギガライト」がどのように影響するのかといった説明は、ニュースリリースにもパンフレットにもなく、やや不親切な印象は否めない。

 NTTドコモ自身がどのように考えているのかはわからないが、自らの特徴であるシェアパックをやめるのであれば、それ相応の説明をきちんとするべきであり、こうした説明に対する姿勢が昨今の料金プランに対する誤解を生み、結果的に「わかりにくい」と評価されてしまった部分があるのではないだろうか。

新プラン移行は慎重に

 さて、ここで指摘した課題をはじめ、ユーザーからの「期待したほど安くない」といった反応なども聞こえてきているが、実際のところ、「ギガホ」と「ギガライト」にはどのように移行していけばいいのだろうか。

 まず、今回の「ギガホ」と「ギガライト」は前述のように、回線の契約と端末の販売を分離した「完全分離プラン」として設計されている。ただ、今回発表されたのは料金プランのみで、販売施策については5月にも催される夏モデルの発表会で明らかになる見込みだ。

 この夏モデル以降は基本的に「月々サポート」や「端末購入サポート」といった回線契約に紐付いた形の端末購入補助は提供されなくなり、基本的には端末を『定価』で購入することになる。

 そのため、ユーザーとしては一気に負担が増えそうだが、NTTドコモの吉澤和弘社長は本誌インタビューなどで、端末購入について、「ある程度の補助があった方がお客様も買いやすい」とコメントしており、従来ほどではないものの、何らかの形で少し割安に購入できる施策を導入する可能性が高い。たとえば、端末の販売価格そのものを一定額、値引いたり、dポイントで還元するといった施策が考えられそうだ。

 また、新料金プランに移行した場合、これまで適用を受けてきた「月々サポート」や「端末購入サポート」は対象の料金プランではなくなるため、これらの割引が終了することになってしまう。毎月1500円が割り引かれる「docomo with」も同様で、料金プランの変更により、割引が打ち切られる形になる。

 これらの点を考慮すると、まず、「ギガホ」と「ギガライト」に移行するのは、現在、契約中の回線の 月々サポートが終わるタイミングがベター ということになる。

 たとえば、2018年9月にiPhone XS/XS Max/XRを購入しているのであれば、あと1年半は月々サポートが適用されるので、2020年の9月頃を目途に新料金プランへの移行を検討すればいいわけだ。

 通常、月々サポートの金額は2000~3000円程度なので、新プランで安くなる予想額が2000円程度であれば、月々サポートの適用の残りが1カ月の段階で、移行しても構わない。逆に、すでに月々サポートなどの割引が終了している回線については、5月22日からの予約開始で申し込み、6月分からの適用を受ける形でもいいだろう。

docomo withユーザーはどうするべきか

 一方、悩みどころなのが「docomo with」の回線だ。「docomo with」は対象となる端末を購入すれば、永続的に月々1500円が割り引かれるが、NTTドコモでの登録上(契約上)、対象端末を利用していることが条件で、実際には自らSIMフリー端末などを購入し、SIMカードを装着して利用しても割引は継続する。

 今回の新料金プランではもっとも安い料金が「ギガライト」の月額2980円(1GB以内)なので、現在の契約状況によっては「docomo with」のまま、使い続けた方が安くなるケースが考えられる。そのため敢えて新料金プランには移行せず、当面はそのまま、使い続けるのも手だ。

 そして、 細心の注意と周到な準備が必要なのがシェアパックの移行 だろう。前述のように、シェアパックの主回線が新料金プランに移行してしまうと、シェアパックの子回線はいきなり個別のパケットパックを契約することになる。

 これを避けるため、シェアパックの対象となるファミリー割引グループの回線のうち、しばらく新料金プランに移行しない回線を選び、シェアパックの主回線に変更しておくのが得策だ。たとえば、父親を主回線として、家族4人でシェアパックを組んでいる場合、父親が先に新料金プランに移行するのであれば、主回線を母親に変更し、子どもたちといっしょにシェアパックを組んでおき、時期が来た段階で、母親や子どもも順次、新料金プランへ移行していくわけだ。

 そこで、カギとなるのが『時期』だが、もっともわかりやすいのは、やはり、月々サポートの適用が満了する時期だろう。家族4人でシェアパックを組んでいるのであれば、もっとも最後に月々サポートの適用が満了する家族を主回線にしておくわけだ。ただし、「ギガホ」と「ギガライト」では2回線以上で「みんなドコモ割」の適用を受けられるため、ファミリー割引グループ内で新料金プランの回線が2回線以上になった段階で、損得勘定をもう一度、見直す必要があるだろう。

5G時代へ向けて、こんな施策で大丈夫?

 さて、今回はNTTドコモの新料金プランの「ギガホ」と「ギガライト」の内容と課題、移行について、説明してきた。

 菅官房長官の「4割、引き下げられる余地がある」という発言を機に、総務省と有識者によるモバイル研究会で推し進められてきたモバイル業界の値下げと見直しの動きは、主要3社の分離プランが出揃ったことで、ひとまずの区切りを迎えた。

 全体的な方向性としては、 端末販売などにおける販売奨励金を廃し、その分を料金プランに反映することで、競争環境を作り出し、低廉な料金体系を実現する というものだったが、NTTドコモの「ギガホ」と「ギガライト」はライトユーザーへの配慮が強く出た印象で、アクティブなユーザーからは「たいして安くなってない」「従来プランの方が良かった」といった厳しい声が聞かれた。月々の利用料金は多少下がったように見えるものの、やはり、端末購入補助がなくなり、端末購入の負担が大幅に増えることが予想されるため、それに対する拒否反応がかなり大きい印象だ。

 総務省と有識者によるモバイル研究会では、端末購入補助が料金の低廉化を妨げているという指摘がくり返し聞かれたが、今回の新料金プランの発表を受け、モバイル業界全体として、本当にこんな方向性でいいのか、こんな施策でいいのかという印象を持ってしまった。

 まず、国内のモバイル業界は各携帯電話会社が一定の販売奨励金を出すことで、比較的早いペースで技術の革新が進み、高品質な端末を低廉な価格で購入できる環境が構築されてきた。もちろん、20万円に届くような端末は正直なところ、いかがなものかという印象はあるが、それでも本来は10万円前後の端末が実質5万円前後で購入でき、なおかつ各携帯電話会社がしっかりサポートする体制を整えていたからこそ、この20年近く、モバイル業界は急速に進歩を続けてきた。

 この進歩の中には、3GやLTEなどの新しい世代の技術が早く浸透できたこともあるが、その一方で、PDCなど、古い世代の通信技術を早く巻き取ることができたという隠れた効果も存在した。

 ところが、2020年にも停波が予定されているPHSは、他方式の端末を割安で供給して乗り換えを促す、といった施策が端末購入補助に当たるため、採ることができない。おそらく同様のことは今後、他の通信方式や周波数帯域の変更などで起きることが予想されるが、総務省とモバイル研究会は目先の販売奨励金にばかりに目が向いているため、本来、必要とされるうことまで制限されてしまっている。

 そして、2019年9月にもプレ商用サービスがスタートする5Gについても総務省の方針により、普及が遅れてしまうことが危惧される。

 過去の例を見るまでもなく、新しい世代の通信技術を利用する機器は、当初、どうしても割高になってしまう。これまでは販売奨励金が活かすことで、新しい世代の技術、新しい世代の機器にスムーズに乗り換えてもらうことができたが、これも当面は難しいということになる。

 NTTドコモの新料金プラン発表後、市場の反響が芳しくないことから、「5Gがあるから、料金の値下げが不十分だった」などという言い訳めいた発言も政府関係者から聞かれたが、5Gの導入は何年も前から進められていたことで、それがわかっているのであれば、モバイル研究会の進め方ももっと違うやり方があったはずだ。政府が「5G推進」をうたいながら、本家本元の総務省がそれを阻害する要因を作ってしまったとも言えるわけだ。

 総務省と有識者によるモバイル研究会では、通信サービスに必要な最低限の原価を割り出し、可能な限り、割安な料金を引き出そうとしている。原則論としては、正しい方向性なのかもしれないが、物事はそう簡単に杓子定規に解釈できるものではない。

 たとえば、ある人が10GBのデータ通信が可能な料金プランを契約し、8GBしか使わなかったとしよう。現在はその月のデータ通信量の余りを翌月にくり越すサービスなどもあるが、こうした余りは各携帯電話会社の儲けになり、各携帯電話会社はそれを販売奨励金やキャンペーンなどで還元しているという見方もできる。

 音声通話のかけ放題も同じことで、月額2700円のカケホーダイプランに入っているが、実際には300円分程度しか通話せず、ムダが生じてしまうことも起きる。しかし、いざというときにいくらでも長話ができるという安心感もあるわけで、料金を払いすぎたと考えるか、保険のような安心感と考えるかは、人それぞれだ。

 世の中にはムダがあるからこそ、円滑に動くものもある。どうも総務省や有識者の先生方は、そういったことがご理解いただけないようで、残念な限りだ。

 今回発表されたNTTドコモの「ギガホ」と「ギガライト」は、5月22日から予約の受付が開始され、6月1日から適用が開始される。

 そして、秋には5Gのプレ商用サービスが始まり、現在審議中の電気通信事業法も施行される見込みだが、これを機に、国内のモバイル業界を中心とした通信行政がどうあるべきなのかを今一度、見直してみるべき時期に来ているのではないだろうか。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。