法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

携帯電話料金4割引き下げは正しい指摘なのか?

~携帯電話業界の不都合な真実~

 8月21日、菅義偉官房長官の「携帯電話の料金は不透明で、他国に比べ、高すぎる。4割程度は下げられる余地がある」という発言で、にわかに騒がしくなってきた携帯電話各社の料金施策。

 これに対し、各社は「サービス向上に努める」とコメントしているが、業界の各方面やユーザーからは発言の内容を疑問視する指摘も聞こえてきている。今回は「携帯電話料金4割引き下げ」の指摘について考えながら、携帯電話業界の料金施策の方向性を考えてみよう。

日本の携帯電話会社は大手キャリアとMVNO

 携帯電話やスマートフォン、タブレットなどの機器を利用するには、各携帯電話会社やMVNO各社と回線契約を結ぶことになる。多くの場合、毎月の支払いが発生し、これが一般的に「携帯電話料金」と呼ばれている。

 現在、国内で携帯電話サービスを提供している会社のうち、自社で全国各地に鉄塔設備などを手がけるいわゆるMNOは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク(ワイモバイルを含む)の3社。2019年10月には楽天も携帯電話サービスを開始する予定だ。

2018年4月の周波数割当時の様子。左から楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏、KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏、野田聖子総務大臣、NTTドコモ 代表取締役社長の吉澤和弘氏、ソフトバンク 代表取締役社長の宮内謙氏、沖縄セルラー 代表取締役社長の湯淺英雄氏

 少し位置付けが異なる会社としては、UQコミュニケーションズとWCP(Wireless City Planning)がBWA(無線ブロードバンド)事業者として、通信サービスを提供している。

 また、これらの各携帯電話会社から設備を借り受ける形で、携帯電話サービスなどを提供しているのがMVNO各社で、ここ数年は「格安SIM」「格安スマホ」というキーワードと共に、MVNO各社のシェアを増える傾向にある。

政治・行政の発言として適切か

 名前を挙げた各社は、いずれも基本的に民間企業であり、多くは株式を公開した株式会社として運営されている。ちなみにNTTドコモについては60%以上の株式をNTT(持株)が保有しており、NTTは財務大臣が32.3%の株式を保有していることから、間接的には国が親会社という見方もできるが、NTTドコモの株式は公開されており、東証1部などで売買されている。

 なぜ、最初にこういう話を書いたかというと、根本的な話として、一国の政治家が特定の民間企業、もしくは特定の業界のサービス内容や料金体系について、「高い」「安い」と評価するだけならまだしも、「引き下げる余地がある」などと発言することは正しいのだろうか。

 いずれの企業も基本的に株式会社であり、株主に対して、利潤を追求するという責務を負って、運営されているはずだ。その株主に対する責務に目をつむり、採算とは関係なく、値下げをしろという発言は、とても適切とは言えないだろう。

 たとえば、運賃が高いから公共交通機関に値下げしろと言ったり、光熱費が高いから電力会社やガス会社に「4割は下げられる」などと言うだろうか。日本は民主主義国家であり、自由主義経済のはずだが、政治家がこういった形で民業に口を出すことは、あまり筋がいい話ではない。

 もちろん、携帯電話各社は国民の共有財産である「電波」を借り受け、事業を展開しているため、インフラを担う企業として、利潤の追求以外にも力を注がなければならない責任がある。東日本大震災をはじめ、各地で起きた災害への対応なども含め、さまざまな取り組みが求められるが、これは少し話がずれるので、本稿とは別に、今後あらためて説明したい。

“携帯電話業界いじめ”は政治の道具?

 今回の菅官房長官の「4割引き下げ発言」について、一部では「自民党の総裁選の度に、こういう話が出てくる」といった指摘も散見される。

 確かに、3年前には「安倍首相が携帯電話料金の引き下げを指示」と報じられ、その後、総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」による審議がスタートしている。折しも今年9月には自民党総裁選が控えており、国民の関心が高い携帯電話料金の引き下げを話題として取り上げれば、支持を得やすいと考えたのではないかと見る向きもある。

“規制緩和に逆行”など数々の反論

 政府が民業に口を出すことの是非以外に、通信業界の過去の流れを考えても今回の発言は時代に逆行しているという見方もある。

 若い世代のユーザーはご存知ないかもしれないが、かつて携帯電話料金(電話料金なども含め)は各社が申請し、許認可を得て、料金プランの提供を開始していた。

 それが事前届出制に移行し、最終的には事前届出制も廃止されてきた経緯がある。つまり、規制緩和によって、自由に料金プランが提供できるようになったわけで、それを今さら政府の指導によって、料金を下げさせるのは、時代に逆行していると言われてもしかたがない。

 規制緩和によって、携帯電話会社が自由に料金プランが決められるようになった今、どうやって料金の低廉化を実現していくかと言えば、やはり、競争環境をしっかりと作っていくことだ。ただ、後述するように、せっかく競争できる環境を作り出しながら、国の政策の失敗によって、失われてしまったという見方もある。

 また、携帯電話業界としての見方ではないが、経済面から考えても携帯電話料金の引き下げはおかしいという指摘もある。つまり、携帯電話料金を引き下げると、結果的に税収が減り、経済の成長を鈍化させ、現在、政府が取り組んでいるデフレ脱却には逆効果という意見だ。筆者は経済の専門家ではないので、詳しく説明しないが、経済関連のメディアを中心に、こういった指摘は多い。

海外と比較される日本の料金

 ところで、この菅官房長官の「4割は下げられる余地がある」という発言の「4割」という数字はどこから来ているのだろうか。

 当初、この発言があったと報じられたときは、特に根拠が示されず、昨年、総務省がまとめた「電気通信サービスに係る内外価格差調査-平成28年度調査結果」がベースにあるのではないかと推察していた。

 この内外価格差調査では東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルの6都市を対象に、各都市のシェアが高い3事業者の料金プランを選び、月当たりの利用形態から想定される利用モデルに基づいて、料金を比較している。

 詳しい内容は総務省が公表している調査結果を参照していただきたいが、その内容を見ると、携帯電話各社でスマートフォンを利用したときの比較では、東京は月に2GBと5GBのプランで平均的なレベルにあるが、月20GBのプランではデュッセルドルフに次いで高く、東京に次いで、3番目の高さとなったニューヨークとの差は20%程度という結果が出ている。これらの内、5GBのプランでは東京が3760円となっているのに対し、ロンドンは2505円、パリは2554円という結果になっており、このあたりが4割に近い差と言えそうだ。

 また、27日になって、菅官房長官は定例記者会見において、記者の質問に答える形で、4割の根拠を示している。それによると、OECD(経済協力開発機構)加盟国の調査において、加盟国の平均に比べ、日本の携帯電話料金は約2倍で、他の主要国と比べても高い水準にあるという報告を受けたという。このことを踏まえて、4割程度、競争を行なえば、下げられる余地があるとコメントした。

OECDの比較にも疑問

 ところが、このOECDの調査(Mobile broadband subscriptions grow in OECD area, data usage doubles in 2017)の内容は、国と地域によって、選ばれている料金プラン基準がバラバラで、とても比較できる内容になっていない。

 利用が少ないグループでは、日本がauのスーパーカケホ(国内通話が5分以内がかけ放題)に、データ定額3GB、誰でも割(24カ月契約)を選び、総額が「63.80ドル」と算出されている。

 これに対し、米国はAT&Tの「GoPhone」と呼ばれる月額30ドルのプリペイド契約のプランを選び、データ通信量は0GBで「46.21ドル」、ドイツはVodafoneのプリペイドの1GBで「11.24ドル」、フランスはSFRのポストペイ(後払い契約)の1GBで「11.10ドル」、オーストラリアはOptusのポストペイで3GBの12カ月契約で「22.24ドル」といった具合だ。

 他のエリアもデータ通信量が500MBだったり、半数以上がプリペイド契約を比較対象にしているなど、とても比較調査として、適切な内容とは言えないものとなっている。

 しかも加盟国36カ国の経済力には差があり、これらを一律に平均値を取って、比較する手法が正しいのかどうかもかなり疑問だ。

 携帯電話業界の動向を知る経済指標的な調査としては有効かもしれないが、各国の携帯電話料金を比較する調査としては不適切で、まだ総務省の内外価格調査の方が信頼できるくらいのレベルだ。

 こんなずさんな調査結果を基に、官房長官ともあろう立場の人で、しかもモバイルビジネス研究会が催された当時は総務大臣まで務めていた人が「他国よりも高い。4割は値下げする余地がある」と発言してしまうことは、説得力があるだろうか。

海外の比較、簡単にできるのか

 こうした諸外国との差を見て、料金を値下げするという考えは、これまでも何度も語られてきたが、実際のところ、話はそれほど簡単ではない。

 というのも料金面では差があるかもしれないが、国と地域によって、エリアや通信パフォーマンス、通信品質、安定性などが大きく異なるからだ。

 たとえば、筆者は取材で海外に出かけるが、国と地域によって、通信環境にはかなり差があるという印象だ。よく比較対象として取り上げるのが幹線となる鉄道沿線のエリアで、日本は新幹線で東京から新大阪、博多まで、ほとんど途切れることなく、通信や通話を利用できるのに対し、ドイツのICEと呼ばれる高速鉄道で大都市間を移動するとき、大きな都市を出て、数十分で2G(EDGEなど)でしか接続できなくなったり、圏外になってしまうことがある。

 同様に、日本では都市部の地下鉄でもスマートフォンが利用できるようになってきたが、先日、取材で訪れたニューヨークは地下鉄の駅構内でアンテナピクトがギリギリ1本だったり、走行中に途切れてしまうことは何度もあった。

 内外価格差を比較して、日本の携帯電話料金を値下げを促す意見が出てくることは理解できるが、少なくとも総務省は通信行政を専門的に扱っているわけで、ネットワークの安定性やつながりやすさ、エリアなどに言及せず、単純に料金プランの額面だけで比較してしまうのはいかがなものだろうか。仮に、携帯電話料金が4割、値下げされたとき、その代償として、「地下鉄ではつながりません」「新幹線では途切れます」で、国民は納得しないと思うのだが……。

 昨今、グローバル化が語られることが多いが、どの業界を見てもわかるように、どの国と地域でも同じような料金体系でサービスを提供することは、容易なことではない。

 特に、携帯電話のように、基地局などの設備の場所、利用者の人口、運営のための人件費などが大きく影響する業界では、必ずしも他の国と地域と同レベルの料金で提供できないことが多い。

 内外価格差を参考にして、国内の料金施策の方向性を考えることは十分に理解できるが、料金プランの額面の違いを根拠に値下げを導き出したり、諸外国との平均値と比較して、値下げの根拠とする手法は、あまり現実的な判断とは言えないように見える。

ソフトバンクによるイー・モバイル買収は競争を失わせた

 今回の発言に際し、菅官房長官は「競争が働いていない」という主旨の前置きをしたと報じられているが、その競争環境を失わせてしまったのは、国の政策の失敗にあるという指摘がある。

 携帯電話業界ではこれまで何度となく、新規事業者が参入したが、多くの事業者は合併や買収などによって、結果的に現在の主要3事業者に集約された形となっている。

 なかでも筆者が違和感を持ったのは、ソフトバンクによるイー・アクセス(イー・モバイル)の買収で、事業を承継するという建て前はあったものの、その背景にはソフトバンクが主力とするiPhoneがイー・アクセスの持つ1.7GHzに対応していたため、ソフトバンクはイー・アクセスを買収することで、対応周波数を増やそうとしたことが関係している。

 この一件について、当時、総務省は買収をとがめることはしなかったものの、今回の楽天への新規割り当てでは「既存の携帯電話事業者が買収した場合は、周波数割り当てを承継できない」という条件を付けており、ソフトバンクによるイー・アクセス買収が好ましいものではなかったことをうかがわせる。

 ただ、今回は付けられた条件に対し、一部では「逆に、楽天がソフトバンクの携帯電話事業を買収すれば、問題ない」といった観測も出ており、総務省の周波数割り当ての仕切りの手腕を疑問視する声もある。

MVNOへの影響

 今回の携帯電話料金の4割値下げを敢行すると、この十数年、総務省が積極的に取り組んできた競争環境のひとつが崩壊してしまうかもしれない。そう、各携帯電話会社の料金が下がれば、MVNO各社は直撃を受け、事業の存続が危うくなってしまうかもしれないからだ。

 現在、各携帯電話事業者の料金プランでは、もっとも安いものが月額3000円程度(期間限定の割引を除く)だが、これを4割、下げると、月額1800円程度になり、MVNO各社の音声付きプランと変わらなくなってしまう。

 もちろん、MVNO各社が各携帯電話会社に支払う利用料(接続料)を下げるという取り組みも考えられるが、金額が低くなれば、その差も一段と縮まるため、ユーザーがMVNO各社を選ばなくなったり、各携帯電話会社に流れてしまう可能性も考えられる。裏を返せば、ある程度、価格差がある方がMVNO各社にとっては戦いやすいわけだ。

国の施策、検証が必要だ

 そして、競争環境について、もうひとつ指摘するとすれば、これまで総務省がさまざまな検討会や研究会、タスクフォースといったもので議論を重ねてきたのに、なぜ競争環境が不十分で、なぜ4割も下げられる余地があるような状況が生まれてしまったのだろうか。

野田聖子総務大臣

 携帯電話業界において、総務省がもっとも強く業界に影響を与えた動きと言えば、2007年のモバイルビジネス研究会が思い出されるが、あれから12年が経ち、その間に何度も議論をくり返されてきた。にもかかわらず、これまで各携帯電話会社に対しては、要請や指導、ガイドラインの提示など、さまざまな措置が執られてきたが、その結果、どうなったのか。新しい議論を始める前に、これまでの議論や導き出した議論をもう一度、再検証する必要があるだろう。

 その検証結果を踏まえたうえで、新しい議論や検討を始めるのが正しい道筋であるはずだ。

 ビジネスの世界でも結果が出ていなかったり、芳しくない結果であれば、再検証や見直しをするのが当たり前だが、総務省の方法論にはこれがまったく欠けているように見える。

2018年春に発表されたばかりのガイドライン

 これまでの議論の内容についても総務省の検討会や公正取引委員会の有識者会議を傍聴した記者からは、「業界をわかっていない人が議論をしても意味がない」「根本的なことがわかっていない人がいる」といった厳しい意見も聞かれる。

 幅広い意見を募ることは重要だろうが、携帯電話業界の特性をきちんと理解したうえで、本当に損得を抜きにして議論ができる場所を作らなければ、同じことのくり返しだ。

実状はどうなっている?

 現に、ユーザーからは「SIMロック解除など、良くなった面もあるが、契約は複雑になり、購入時の手続きはどんどん面倒になってしまった」「料金はたいして変わらないのに、端末だけは高くなり、買いにくくなった」といった声も挙がっている。

 総務省の肝入りでスタートしたライトユーザー向けの1GBプランもどれだけの人が使い、どれだけ評価されているのかがまったくわからないというのが実状だ。

 むしろ、ライトユーザー向けのプランはMVNO各社に任せ、各携帯電話会社は5GB以上のプランしか提供できなくするといった大胆な取り組みも検討してもいいくらいだ。

業界が襟を正すべきことも

 ここまでは今回の携帯電話料金を4割下げられるという発言に対する問題点や課題を挙げてきたが、各携帯電話会社や業界に問題がないのかというと、そういうわけではない。

 前述のように、携帯電話会社も営利企業であるため、株主のために利益は追求しなければならないが、料金以外の面も含め、襟を正していかなければならないことは多い。

 たとえば、昨年まで「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」で重ねられてきた議論を踏まえ、今年、総務省が各社に示した「指導」と「要請」には、今さら、こんなことを指摘しないといけないのかと思わせるような項目もあった。

 そのひとつが「MNPの円滑化」で、MNP転出時に「強引な引き止め」が生じないように、対面(店頭)や電話以外の手続き手段を確保するというものだ。

 MNP転出時にはMNP予約番号の発行が必要になるが、NTTドコモがWebサイト上で申請できるのに対し、auとソフトバンクはキャリアの系列店か、電話で発行してもらう必要があり、その際にポイント還元などで、強引な引き止めができる環境だった。総務省からは、それを是正せよという指導があったわけだ。

 あらためて説明するまでもないが、MNPの制度がスタートしてから、すでに12年が過ぎようとしている。にも関わらず、いまだにこんな体制しか取っておらず、ITを標榜する企業がホームページで手続きができないなど、笑止千万と言わざるを得ない。総務省に指導されなければならなかったこと自体が恥ずかしいことだ。

期間拘束は一般的な商慣習

 今回の携帯電話料金の値下げが話題になる前、回線契約の2年縛りと4年縛りが話題として取り上げられた。結局、4年縛りについてはアップグレードプログラムの強制再加入の条件が見直されることになったが、この「2年縛り」「4年縛り」という表現について、筆者は少し違和感がある。

 携帯電話会社を擁護するわけでもなければ、不満を持つユーザーを批判するわけでもないが、本来、この「2年縛り」と呼ばれているものは、ユーザーが「この先、2年間、契約を継続する」ことを約束することで、その対価として、月額料金を割り引いたり、ポイントで還元する『割引サービス』だ。

 内容に差はあるものの、2年契約をしない選択肢も用意されており、こちらを選べば、いつでも契約解除料なしに解約できる。つまり、ユーザーは各携帯電話会社に縛られているのではなく、ユーザー自身が「拘束されるコース」を選んでいるに過ぎない。

 これは携帯電話会社が特殊というわけではなく、さまざまな業種で使われており、継続的に収益を上げ、それを設備投資などに回したいと考える企業がよく使う手法のひとつだ。

 たとえば、スポーツクラブや英会話スクールなども年間契約の方が割安だったり、スマートフォンのユーザーに身近な音楽や映像のコンテンツ配信サービス、クラウドサービスなども月払いより、年払いの方が安くなるケースが多い。

 「2年契約完了時の自動更新がよろしくない」という声も耳にするが、仮にユーザーが手続きをしない限り、更新されない形式になると、更新を失念したユーザーは24カ月を過ぎたときに「突然、料金が高くなった」「更新手続きが必要なんて、聞いてない」と言い出すことが想定されるため、現在のような自動更新のしくみが取り入れられている。逆に、自動更新をしないことを予約できるようなしくみを取り入れるのもひとつの手だろう。

課題は“説明不足”

 ただ、これらの事象について、ユーザーが不勉強であるといった答えで片付けるつもりはない。

 この問題の背景には、各携帯電話会社が「2年契約は割引サービスであること」を十分に説明できていないことがあるからだ。なかには未だに「2年間、継続して、同じ機種を使い続けなければならない」と捉えていたり、契約時に内容を理解せずに2年契約を選んでしまっていたりする人も居るようだ。

 実は、つい数カ月前にもある企業が2年契約や3年契約による割引プランを発表したとき、ある記者が「総務省が2年縛りを禁止しているのに、こういうプランを導入するのはどういうことか」と質問したが、それに対して、発表した企業の役員が「総務省は期間拘束があるプランを禁止はしていないと思いますよ」と説明する一幕もあった。記者の不勉強や勘違いもあるだろうが、それくらい誤解が多いのも事実だ。

 では、そういった誤解を生まないために、各携帯電話会社が料金プランや期間拘束の条件などについて、説明をしっかりとしているかというと、前述のように不十分であると言わざるを得ない。

 料金施策などについては、基本的に自社のWebページに情報を掲載し、あとは店頭での説明に任せっきりになってしまっている。かつては新しい料金プランや料金施策が発表されると、メディア向けにも説明会が催されたり、本誌などでも解説記事がよく掲載されていたりしたが、今やそういった動きも少なく、各携帯電話会社からのアプローチ(提案)などもほとんど耳にしない。

 もはや各携帯電話会社はユーザーに情報を理解してもらうために、自ら何とか説明しようという気概が失われてしまっているようにも見える。

分離プラン、わかりやすいか?

 販売についても気になるところがある。昨年あたりからNTTドコモの「docomo with」、auの「ピタットプラン」「フラットプラン」のように、月々サポートなどの月額割引制度をやめ、その分、月々の利用料金を割り引いたり、下げたりするプランが登場している。近くソフトバンクも同様の料金施策をスタートすると言われており、今後、端末販売と回線契約の分離はより進んでいくことが予想される。

 iPhone Xをはじめ、10万円を超える価格が設定された端末が増えている現状を鑑みると、ユーザーとしてはなかなか厳しいものがあり、ある一定額以上の端末については、今まで通り、月額割引を継続する形を続けて欲しいところだが、それはさておき、ただ、各社の販売ページや料金プランの説明ページを見ると、回線契約と端末販売が分離して説明されておらず、新たに端末を購入したときの支払いシミュレーションしか掲載されていないこともある。

 しかたなく、各社のオンラインショップに移動し、値段を調べようとすると、今度は自分の契約アカウントを入力しなければ、内容が表示されなかったり、アップグレードプログラムのように、拘束力のあるキャンペーンの割引などが反映された価格しか表示されなかったりするケースもある。

 ちなみに、端末によっては発表後に予約販売を実施していることがあるが、恐ろしいことに端末の価格も明示せずに予約が受け付けられている。回線契約を伴う特殊な製品とは言え、一般的に見て、こんな販売方法が平然と通用していること自体おかしい。

ユーザー間の不公平な扱い

 総務省の議論では、各携帯電話会社が提供する料金施策の公平性などが取り上げられたことがあるが、ユーザーの視点から見れば、いくつも不公平を感じさせることはある。

 たとえば、ソフトバンクは米Sprintを傘下に収めたことにより、2014年から米国での音声通話やデータ通信が国内と同額で利用できる「アメリカ放題」を提供しているが、対象機種はiPhoneに限られている。これが技術的な理由なのか、それとも販売施策的な取り組みなのかは明らかではないが、すでに4年が経過しても同等の恩恵が受けられないAndroidユーザーは、かなり不公平感を感じしているはずだ。

 海外での利用に関して言えば、auが無料のau STAR会員に対し、世界データ定額を毎月1回分、無料で利用できる特典を提供している。筆者自身もたいへんありがたく利用させてもらっているが、海外に出かけない知人に言わせれば、これも不公平ということになる。

 日本人の海外渡航の比率は、1年間に10人に1人が1週間以内という少なさだという分析もあり、各社の契約数から考えると、ごく一部のユーザーしか恩恵を受けられていないわけだ。個人的にはぜひ今後も続けて欲しい特典だが、逆に利用しない人(海外に渡航しない人)向けに、違った特典を選べるような施策が必要ではないだろうか。

 この他にもキャリアの取り組みに対して、問題点を指摘したい事例はいくつもある。根本的に顧客を対象にしたサービスとして、販売代理店の対応なども含め、業界として、もう一度、襟を正していかなければならない時期に来ているというのが率直な印象だ。

 今回は菅官房長官の「4割は下げられる余地がある」という発言をキーワードに話を進めてきたが、これを機に、業界全体として、一般消費者に対し、どのようにサービスが提供されるべきなのかをもう一度、見直して欲しいところだ。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。