第564回:ケブラー とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ケブラー」(Kevlar)は、米国のデュポンという会社によって1965年に開発された特殊な繊維です。強度に優れ、耐熱性のような特定の機能を強化してあるプラスチック、いわゆるエンジニアリングプラスチックの一種で、世界初の“スーパー繊維”です。1970年代に商業利用が開始されました。

 「ケブラー」は、軍用のヘルメットや防弾ベストなど、コストよりも極限の性能を求められるような特殊な製品に使われることが多い素材としても知られています。アラミド繊維と呼ばれる人工繊維の一種で、強度が非常に高く、同じ重さの鋼鉄の5倍の引っ張り強度や耐熱・耐摩擦性を持っています。しかもプラスチックですから、錆びてしまわず、電気を通すこともありません。

 切り傷や、衝撃にも強く、フィラメント(巻かれた釣り糸のような長い糸状)、ステーブル(綿のようなフワフワした短い繊維状)、パルプ(製紙向けの繊維)など、さまざまな形態にできることから、幅広い業界において、鉄のワイヤー、アスベスト、ガラス繊維などからの置き換えとして利用されています。

 携帯電話では、auから2012年3月に発売された「MOTOROLA RAZR IS12M」が、このケブラーを金属のフレームに組み合わせてボディに採用しており、丈夫で、傷にも強く、軽量な薄型ボディを作るのに貢献しています。

 ちなみに、「ケブラー」という名前は、開発元であるデュポンの商標となっていて、日本では東レ・デュポンが扱っています。

高価だが極限の性能を持つ合成繊維

 デュポンという会社は、メロン財閥、ロックフェラー財閥と並ぶ、アメリカの三大財閥と称されることもある大企業体です。1920年代以降、化学分野に力を注ぎ、合成ゴムや、ナイロン、テフロンなどの合成樹脂も研究開発してきました。ケブラーもそんな研究開発の賜物の1つと言っていいでしょう。

 ケブラーには、「ケブラー29」「ケブラー49」「ケブラー119」「ケブラー129」の4種類があります。「ケブラー29」が標準的なもの、高弾力率を持つのが「ケブラー49」、高い伸度を持つ「ケブラー119」、高い強度をもつ「ケブラー129」が存在します。

 いずれも分子構造が剛直で直鎖状の骨格を持つために、非常に強度に優れ、また熱にも強いとされています。

MOTOROLA RAZR IS12M

 特に「ケブラー129」は。全てのアラミド繊維の中でも最も、引っ張りに対する強度を持つとされています。繊維強化プラスチックの補強などにも使われます。そして、ヨットの帆や飛行機の機体、船の船体、先に挙げた軍用のヘルメットや防弾チョッキなどに応用されています。このことからも「ケブラー」が非常に高性能な化学繊維であることがわかるでしょう。

 ただし、この「ケブラー」にも弱点、あるいは利用しづらい要素があります。1つは、化学的な弱点で、ケブラーはアルカリ性条件下、または塩素や紫外線にさらされると分解してしまう、ということです。

 もう1つは、ケブラーは、非常に高価であるということです。ケブラーは結晶性のポリマーで一般の有機溶媒に溶けません。溶融もしないために成形が非常に困難なポリマーなのです。デュポンは、濃硫酸に溶かして紡錘する技術を開発して高重合度繊維の製品化を可能にしましたが、現在でも高価であることには変わりなく、そのため、ケブラーは、コストよりも極限まで性能を追求する必要がある製品に使われる傾向があります。

 その意味では、auのスマートフォン「MOTOROLA RAZR IS12M」が、ケブラーを使ったプラスチックボディ、それにひっかき傷などに強いコーニングのゴリラガラスを画面に採用しているのは非常に贅沢な構成であるといえるでしょう。




(大和 哲)

2012/5/22 11:06