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ホテルのような大学の裏の、大学のような「山の上ホテル」
ゼロ・ハリ ゼロ・ハリ
「日本のモバイルキング」、「中年ガジェットキング」など数々の異名を持つ。数多くのパソコン雑誌に執筆。購入した携帯グッズはそろそろトン単位に突入か?


大学のような外観の山の上ホテル
 日本全国各地より上京するビジネスマンの多くは、東京駅を中心とする山手線沿線のビジネスホテルや、巨大ターミナルとなっている渋谷や新宿、池袋などの駅近くのホテルに宿を取るのが普通だろう。ホテル乱立気味の都内においては、この選択は正解で、結構グッドなロケーションのホテルがインターネット予約料金というあまり意味のよくわからない超割引料金が適用されることが多い。筆者も出張の時には、ほとんどの宿泊ホテルをインターネット経由で予約し、ちょっと前のように旅行代理店を経由することはほとんど皆無になってしまった。

 しかし、常に同じパターンでこのような宿泊出張を繰り返していると、宿泊したそのほとんどのホテルが全く印象に残らず、ワンパターンになってしまう危険性が高い。「そもそもビジネス出張とはそういうモノだ」と考える人には、このコラムも不要だと思える。今回は、どちらかといえばマンネリになりがちなビジネスマンの出張のアクセントになり得る一風変わった、しかし素晴らしい、都会の現代離れした伝統的なホテルをご紹介したい。


都心の伝統あるホテル

ホテルというよりむしろ、大学のような風情を醸し出している
 目的の「山の上ホテル」は、JR「お茶の水」駅から明大通りを駿河台下に向かって坂を下り、高層ホテルのような味気ない「明治大学のリバティタワー」の手前を右折した突き当たりに位置する。あたかも都会の高層ホテルのようなリバティタワーの裏に、ひっそりと佇む小規模で優秀なカレッジのような雰囲気を受ける。

 現代では古風に感じるその建物は、昭和12年財団法人日本生活協会によって建てられたものらしい。太平洋戦争が始まると日本海軍に接収された。そして戦後は、丸の内の多くの建物がそうであったように都内の主要な建物が米軍に接収されたが、この建物も例外ではなく、当時は「陸軍婦人部隊の宿舎」として使用されたようだ。

 「アール・デコ様式」をベースにしたその優雅な姿を気に入った陸軍婦人部隊の彼女たちが小高い「駿河台」の上にあるという意味で「ヒルトップ」というニックネームで呼んだのがホテルの名前の由来であるらしい。ホテルは昭和28年に米軍から返還され、翌29年1月、ホテルとして開業する時に「丘の上」ではなく「山の上ホテル」と名づけられたらしい。なぜ米語の意味をそのまま翻訳した「丘の上ホテル」ではなく「山の上ホテル」となったかは、筆者には定かではない。


 客室自体は、最近のリッチな都市型ホテルと比べても特にその床面積が大きいというわけではないが、ドアのサイズや、ドアノブの床からの高さ、廊下の雰囲気、これらがどこか日本人のサイズや感覚と異なるのはこの辺りの時代背景が理由なのだろう。またエントランスホールからロビー、そしてゲストルームまで、全てにアールデコ感覚が溢れ、ここが東京都内であることを確実に忘れさせてくれる。また、通りからほんの少し奥に入るだけで静寂そのもの、明大通りの喧噪が嘘のような感じである。筆者も大のファンである「鬼平犯科帳」や「剣客商売」の作者である池波正太郎や三島由紀夫もなぜか「山の上ホテル」のファンであったらしい。


「山の上ホテル」の文字もどこかアニメの世界のような感じかも アールデコのシーリングライトの下をくぐってホテルのロビーに入る

ひとりでくつろぎたい、不思議な空間

明大前にある大きな看板が脇道への案内
 明大通りに設置された大きな「山の上ホテル」の案内板を見ながら、脇道に入ると、途端に人通りが少なくなり、緩い坂道を70~80メートルも歩くと、間もなく山の上ホテルの正面玄関に到着する。

 正面に本館が、そしてそのまま右後ろを振り返るとすぐ、山の上ホテルの「別館」が見える。本館のアールデコ調のシーリングランプのある重厚なエントランスホールをくぐってホテル内に入ると右側にフロントデスク、左側にロビーが広がる。フロントもロビーも「木」の扱い方がクラシックで、ステンレスや人造大理石、御影石を多用したビジネスホテルや昨今の現代的なホテルを見慣れた目にはとても優しく、柔らかな照明がそれらをよりいっそう艶のある色彩に見せてくれる。

 ロビーには大きな古い時計が置かれており、ゆっくりと時間を刻んでいる。誰かとの忙しい待ち合わせや、複数人数で大声で話すには向いておらず、たったひとりで珈琲を飲みながらいつまでもゆっくりしていたい感じになる不思議な空間だ。

 フロントデスクでチェックイン手続きを済ませ、ホテルマンにエスコートされ、旧式だがきちんと手入れ整備されたエレベーターに乗って3階へ。絨毯敷きの廊下をしばらく歩いてゲストルームに到着すると、やけに大きな木製の客室ドアが印象的だ。通された部屋は決して広くはないが、ダブルベッドとこじんまりした椅子とテーブルの3点セット、そして窓側には小さなデスク、大きな洋服ダンスが設置されていた。窓の下にはホテルの小さな中庭が見えている。


脇道の緩い静かな上り坂を70~80メートルも歩けば山の上ホテルに着く 米国の田舎町のロッジ形式のホテルのチェックインカウンターのようだ

大きな時計がゆっくりとした時間を刻む。至るところで見る壁の模様が特徴だ ゲストルームの中にある大きな洋服ダンス。ハンガーの位置も高い

全体にウッドを大事にしたインテリアで、決して広くはないが落ち着ける 小さいが一応3点セットの椅子・テーブルも用意されている

光ファイバによるブロードバンド接続環境

 最近、特によく感じることなのだが、先進的な設備が充実していそうな新しい都市ホテルほど、意外にブロードバンドの設備すらないローテクホテルが多かったりするのが現実だ。それにひきかえ、前回ご紹介した「東京ステーションホテル」や今回の「山の上ホテル」は、そのクラシカルなたたずまいとは全く逆に、光ファイバによるブロードバンドを装備し、おまけにそれらをゲストが何時間でも無料で使えるのだ。

 山の上ホテルの場合は、ベッド横のサイドテーブルの一部に後付けではあるが、イーサネットのポートが設置されている。初めてホテルの客室でインターネットを体験するゲストのために、室内には備え付けの「接続のご案内」(マニュアル)も用意されている。すでに、自宅や会社でイーサネット経由でインターネットを体験しているゲストなら、特別な設定を行なうことなく、もし会社などでプロキシ設定を行なっていれば、その設定を外し、DHCPによるIPアドレスの自動割り当てを受けつける設定にするだけで直ぐにLAN接続によるインターネットが可能だ。

 高速で快適なブロードバンドがあって、Web上に適当に大きな自分専用のファイルエリアを持っていれば、もはや都心の静かなホテルは、オフィスより遙かに仕事の能率が上がる「パーソナル・ワークプレース」だ。おまけに美味しいブレックファーストがそれに加われば、公共交通機関の終了した深夜残業の夜は、遠い自宅にわざわざタクシーで帰って、翌朝また早く出社するなんてとても考えられないだろう。出張以外にも、そんな集中的な猛烈ビジネスにも都心のホテルは十分使い道がある。


ゲストルームの窓からホテルの中庭が見える。都心とは思えない静けさ 小さなデスクだが仕事はできる。残念なのはこの机はネットワークから遠い

ふだんLAN経由のネット接続をしているマシンなら設定不要だが、マニュアルも用意 長いイーサネットケーブルを持ち合わせていれば机の上に置いたPCでも接続可能だ

光ファイバ100Mbpsを導入済みのため、LAN接続は快適だ ベッドサイドにゲストが使えるコンセントが2個もある。優秀だ

食事はホテル内の「ラビィ」「山の上」がお勧め

 山の上ホテルには、筆者の宿泊した本館に7つものレストランやバー、珈琲ラウンジがあり、別館にも4つも用意されている。本館に宿泊したゲストには、地階のダイニングレストラン「ラビィ」か天ぷらで有名な和食の「山の上」(1階)がお薦めだ。

 筆者は翌朝は「ラビィ」でごく一般的で定食的なアラカルト・ブレックファーストにした。割れない程度のカリカリ・ベーコンと、プリリンとし、適度に固くてターンオーバーしていないサニーサイドアップ、缶詰ではない美味しいオレンジジュース、適当な量のサラダ、そして薄切りできつね色に焼けたトーストと、朝食メニューは他の都市ホテルと大差はないが、何よりの違いは、ゆっくりとひとりでも落ち着いて、静かに朝食を楽しみながら時間をかけて味わえることだろう。

 朝食タイムにおける「孤独感」や「落ち着き」をどれだけ重要視するかは人によって、また同じ人でもその時の状況や気分によって異なるとは思うが、ひとりを楽しむことのできる人間にとって山の上ホテルはまたとない「一番のホテル」だ。


ディナータイムは正統派フランス料理のダイニングレストラン「ラビィ」 たまにはレースのマットを敷いて、高そうな陶器と重い銀食器でのブレックファーストも快適だ

出しゃばらないサービスの「オンデマンド型」ホテル

 もし貴方がゲストとして山の上ホテルに宿泊し、誰かのヘルプが必要な時にはすぐ側にそれを感じることができ、不必要な時には、ホテルマンやホテルウーマン達がまるで壁に吸い込まれたように静かで、耳障りにも目障りにもならない。山の上ホテルはまさにそんな昨今流行の「オンデマンド」型ホテルなのだ。

 創業以来、長い歴史に培われたその「出しゃばらない自然体の感覚」が、多くの作家や芸術家が過去から現在まで「山の上ホテル」を愛して止まない「一番の理由」だろうと想像できる。ビジネスマンやビジネスウーマンの出張には決して採用の優先順位が高いとは思えない山の上ホテルだが、筆者はこれからも機会があればぜひ利用したいと思うようになった。「最高より一番が似合う」東京のクラシカル・ホテルだ。

 はぶふぁん!


・ 山の上ホテル
  http://www.yamanoue-hotel.co.jp/


(ゼロ・ハリ)
2003/03/14 16:03

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