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Act.16「美しき“モバイルビジネス”?」
[2007/03/27]


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ロード・オブ・ザ・iモード(前編)
~FOMA 900iはiモードの王になれるか?~
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、PDAに至るまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindowsXP基本編完全版」「できるVAIO 基本編 2004年モデル対応」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。


いよいよ登場したFOMA

 昨年12月に公開され、今年2月から販売が開始されたNTTドコモのFOMA 900iシリーズ。PDC方式のiモード端末を利用しているユーザーにとっては、非常に気になる存在だろう。今回は前編・中編・後編に分け、FOMAの現状にスポットを当てながら、買い換え・乗り換えのタイミングなどについて考えてみよう。


FOMAは2年で何が変わったのか

ドコモの新型FOMA「900i」シリーズ。発表から約3カ月を経て、3機種が販売されている
 2001年10月の商用サービス開始から早2年が経過したNTTドコモの第3世代携帯電話サービス「FOMA」。サービス開始直前は随分とメディアで騒がれたが、いざフタを開けてみれば、思うように普及が進まず、この2年間、NTTドコモは苦戦を強いられてきた。対するauはcdmaOneからCDMA2000 1Xへの移行を順調に進め、2003年9月には早くも1,000万契約を突破している。

 そんな厳しい状況が続いていたFOMAだが、昨年後半あたりからはユーザーの反応に少しずつ変化が出始めている。電気通信事業者協会の集計を見てもわかるように、緩やかではあるものの、FOMAの契約者数が伸び始め、2004年1月には200万契約を突破するところまで来ている。販売店などから得た情報によれば、当初は新しもの好きのユーザーがFOMAを購入していたのが、昨年あたりからはごく普通のユーザーからの問い合わせが増え、なかには女性ユーザーもかなり目立つようになってきたという。FOMAの何が変わったのだろうか。


 FOMAに対する反応の変化を語る前に、もう一度、第3世代携帯電話について、おさらいをしておきたい。第3世代携帯電話サービスはITU(国際電気通信連合)で標準化が進められた携帯電話の規格だ。全世界で共通の周波数帯と方式を採用するサービスを目指す一方、「2GHz(2000MHz)帯を利用」「静止時に最大2Mbps(約2000kbps)の高速データ通信を実現」「2000年頃に商用サービスを開始」という3つの目標から「2000」を取り、「IMT-2000」という名前で標準化が進められた。実際には、通信方式の統一を果たすことができず、周波数帯も各国によって、電波の割り当て状況が異なるため、他の帯域も利用できるようになり、必ずしも当初の目標をすべて達成できたとは言えない状況だった。

 ただ、IMT-2000で掲げられたこれらの目標はすべて表向きのものであり、第3世代携帯電話にはもうひとつ隠された目標があった。それは周波数の利用効率向上だ。携帯電話の通話や通信は電波を利用しているが、ご存知の通り、周波数帯域には限りがある。国内でもアナログ方式からデジタル方式、ハーフレートといった具合いに、通信方式が進化を遂げるたびに、一定の帯域でより多くのユーザーが利用できるようになってきている。第3世代携帯電話ではさらなる周波数の利用効率向上が期待されていた。

 周波数の利用効率が向上することは一見、帯域が混雑し、ユーザーにとってマイナス要因のように見えてしまうが、実はコストダウンが見込めるという大きなメリットがある。電車で言えば、1つの車両により多くの乗客を乗せることができれば、輸送コストを下げることができ、運賃を安くすることができる。これが携帯電話なら、通話料や通信料の低廉化に結びつくというわけだ。


2001年10月に登場した最初のFOMA端末。左からスタンダードタイプ「FOMA N2001」(2モデル)、ビジュアルタイプ「FOMA P2101V」、データタイプ「FOMA P2401」
 NTTドコモは当初、テレビ電話や高速データ通信などでFOMAの普及を狙った。しかし、端末のスペックがPDC方式よりも見劣りがしたり、通話可能エリアも限られていたため、堅実なユーザーはFOMAを見送る状況が続いていた。昨年、登場した「新世代FOMA」も当初は動画サービス「iモーション」で展開していたが、普及の起爆剤になるほどの強力さはなく、今ひとつ伸び悩む結果になった。

 ところが、NTTドコモは昨年半ばあたりからFOMAをアピールするポイントを変え、その結果、契約者数を順調に伸ばし始めている。その新しいアピールポイントとなったのが第3世代携帯電話の隠された目標であり、メリットでもあった「通信コストの安さ」だ。PDC方式のiモード端末は「1パケット=0.3円」が基本だが、FOMAは「1パケット=0.2円」が基本。パケットパックを契約すれば、1パケットあたり0.1~0.02円まで安くすることができる。基本レベルの単価はわずか0.1円しか違わないが、簡単に言ってしまえば、FOMAにするだけでパケット通信料を2/3にすることができ、パケットパックを契約すれば、最大1/15まで抑えることができる。

 昨年後半からNTTドコモはこうした「FOMAの通信料の安さ」をテレビCMや販促資料などで積極的にアピールし、FOMAの契約者増に結びつけている。もちろん、端末スペックの向上やサービスの拡充、エリアの拡大なども見逃せない要因だが、実はコスト的なメリットがユーザーに伝わり始めたことも大きく関係しているわけだ。

ムーバ(PDC)とFOMAのパケット通信料
ムーバ(PDC) 1パケット0.3円
FOMA 1パケット0.2円
(パケットパック80/月額8,000円で1パケット0.02円)


FOMAが抱えるもう1つの問題

 コスト的なメリットがユーザーに伝わり始めたとは言え、今日のケータイは端末が魅力的でなければ、ユーザーは振り向かない。NTTドコモは今回のFOMA 900iシリーズを発売するまでに、サービス開始以来、一般ユーザー向けの端末を13機種、販売している。しかし、この間にPDC端末は40機種以上が発売されている。しかもFOMA端末の一部は似通っており、端末ごとの使い勝手や機能差はそれほど大きくない。開発するメーカーの数はほとんど変わらないのに、どうしてここまで差が付いてしまうのだろうか。実は、ここにFOMAが抱えるもう1つの問題が隠されている。

 PDC方式のデジタル携帯電話はすでに10年以上の実績があり、開発メーカーもかなりのノウハウを蓄積している。メーカーの開発担当者や商品企画担当者の弁によれば、「どこをいじれば、何がどうなるかは十分にわかっている」というレベルだという。いわば、PDC方式は「枯れた環境」になりつつあるわけだ。

 これに対し、FOMAが採用したW-CDMA方式は試験サービス期間を含めてもわずか3年弱しか実績がなく、各メーカーも当初は手探りの状態で開発を進めていたという。そのため、PDC端末は半年に一回のペースで新機種をリリースできるのに対し、FOMAは開発に時間が掛かるうえ、出荷前の検査や試験の項目が膨大で、PDC端末のようなペースでは開発できないそうだ。つまり、市場に新しいFOMA端末を次々と投入したくても開発できない事情があるわけだ。


FOMAリリースの直前である2001年8月、NECと松下は次世代携帯電話の開発で提携。写真左は、 松下電器産業の中村邦夫社長、右はNECの西垣浩司社長 (現副会長)
 たとえば、現在の携帯電話において、ベースバンドチップ(パソコンのCPUに相当)やOSは非常に重要な構成品だが、FOMAではこれらをできるだけ共通化させようとして、苦労を重ねてきている。記憶のいい読者なら覚えているだろうが、NECと松下電器産業、パナソニックモバイルコミュニケーションズ(当時の松下通信工業)はFOMAの商用サービスが始まる直前、2001年8月に次世代携帯電話の開発で提携している。発表当時、携帯電話業界の強者同士が提携することで業界を驚かせたが、今から考えれば、FOMAの開発を効率化させるためにはあのタイミングで提携するしかなかったことが推測できる。結果的にFOMAのNシリーズとPシリーズはユーザーインターフェイスが非常に似通うことになったが、前述の13機種中の8機種を占めるに至り、市場でも安定した人気を保っている。

 これに対し、3Gケータイの市場をリードするauは、ベースバンドチップが米クアルコムのものに限定されているため、比較的、開発ペースも早く、順調に端末のバリエーションを増やしている。たとえば、2002年4月にCDMA2000 1x対応端末のファーストモデルとして、カシオ製A3012CAなど5機種を発売しているが、すでに30機種以上を発売しており、auの契約ユーザーの内、約77%にまでCDMA2000 1xを普及させている。ちなみに、FOMAはNTTドコモの契約ユーザーの内、わずか5%にようやく届くレベルだ。


左からA3011SA、A3012CA、A3013T、A1011ST、A1012K 。いずれも2002年4月にスタートしたauのCDMA2000 1xにおいて最初に登場した対応端末

2003年12月の900iシリーズ発表会で披露された「P900iV」

こちらはタッチパネル液晶やBluetoothを備えるという「F900iT」
 契約者数を伸ばすには端末のバリエーションを増やすことも重要で、そのためには端末のプラットフォームをある程度、共通化し、開発の期間やコストを軽減することが必要なのだが、NTTドコモはこの2年間でその環境を整え、FOMA 900iシリーズをリリースしてきたというわけだ。FOMA 900iシリーズの発表会席上、NTTドコモは「FOMA 900iはベースモデル」という言い方をしていたが、おそらく今後はFOMA 900iシリーズをベースに、端末のバリエーションを増やしてくることになりそうだ。発表会でもムービースタイルの「FOMA P900iV」、タッチパネルとBluetoothを搭載した「FOMA F900iT」の写真が公開されており、ここ数カ月以内に登場するのではないかと見られている。

 端末のプラットフォームがある程度、共通化されたことで、FOMAの環境は整ってきたかに見えるが、まだまだ課題は残されている。たとえば、iアプリもその1つだ。503iシリーズでサービスが開始されたiアプリは少しずつ仕様を拡張し、FOMA 900iシリーズではついに家庭用ゲーム機で人気を得た「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」といったタイトルをほぼ完全移植できるレベルにまでにしている。

 ただ、コンテンツプロバイダの目から見ると、iアプリには厄介な側面がある。それは開発メーカーごとにiアプリの仕様が微妙に異なるからだ。たとえば、A社製端末の仕様に合わせてiアプリを開発したのはいいが、B社製端末に移植すると、動作が遅かったり、うまく動かないといったことが起こり得る。そのため、A社製端末向けのiアプリはすぐに提供できるが、B社製端末向けは「準備ができ次第」といったことが起きてしまう。コンテンツプロバイダにとって、こうした環境の違いによる苦しみは着信メロディに続くもので、サービス内容の拡充に対する足かせにもなっている。ただ、NTTドコモも手をこまねいているわけではなく、今回のFOMA 900iシリーズを機に、少しずつ動作環境の共通化を図るようにしていくとしている。


900iシリーズ向けとして登場したiアプリ版「ドラゴンクエスト」。N900iにはプリセットされている

2年間の蓄積を活かしたFOMA 900i

 サービス開始以来、非常に厳しいときを過ごしたNTTドコモのFOMA。サービス開始直前の盛り上がりがあまりにも異常だったためか、そのしっぺ返しを食らった格好だ。しかし、サービス開始からの2年間、NTTドコモは指をくわえて、状況の推移を見守っていたわけではない。その間に開発環境を整え、サービスを拡充し、着実に利用環境を整えてきた。次回は端末のスペックや利用環境など見ながら、FOMAへの乗り換えを検討してみよう。



URL
  NTTドコモ
  http://www.nttdocomo.co.jp/

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(法林岳之)
2004/03/10 13:22

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